27:謁見前半
翌朝。食事まで済ませると、後の事はクインに任せて皇宮へと転移した。いきなりにょっきりと侵入するのは憚られるので、腕だけ出して掴んでもらうのだ。
防具姿なので、貴族の呼び出しに合わせて正装する事となっている。 しわにならないか心配したくはないものだ。
「おはようございまーす。帝国にはクインを残して来たよ。昼食事には迎えに行くか食事を持って行くと言ってあるのでその時はちょっと失礼するわ」
それぞれ挨拶を交わして着席する。俺だけはちゃっかりカーラを確保して膝の上に座らせているが。
「時間が足りなかったとはいえ、昨日テリストが見事に纏めてくれたので、それを元に清書いたしました。複写スキル持ちの方には苦労を掛けてしまいましたが、徹夜作業で何とか半数程度の人数へ配布が可能となります。
テリストの予想はどうなりますか?」
「馬鹿やらかした件も追及してより多くの土地を確保するで落ち着くだろうな。俺が口を挟まなかったらとの前提があるが」
「そんな所ね」
予想としては同じか。そこに俺が口出しをした場合、どの様な結果になるのか、そこが全く不透明だ。俺に突っかかって来る者がいればそこから二転三転しそうで予想が出来ないと考えている。
もし、しつこくくりかかって来るようなら処刑まで行かずとも降格はしそうだ。
「税収から数%と毎年寄越せとはならないと思うが。土地の確保の場合。どの程度でまとめるつもりだ? こっちの進軍速度が破格だからな。全員が分散して落とすなら。南部だけでも1日で片が付く。もっと制圧しろって議論が出た場合どうするよ? 出張って良いか?」
「帝都以南で纏めます。それ以上の強硬論になった場合は口を挟む事を許可します」
「了解。でだ、貴族位持ちの連中だが、今回は何の手柄も立ててはいない。余りにも酷かった場合には下手すると死人が出るぞ」
「また揉める前提ですか。立場が悪くなるんだから止めなさい。デルフィアさん、エレクティアさん、力ずくで構いません、その時は取り押さえて下さい」
「テリの横は私とカーラが立ちます。任せて下さい」
「そうねお願いするわね」
毎度ながらのコンビプレーか。嫁さん相手だと全力で相手するって訳にいかないから力加減が難しいんだよな。そもそも突っかかって来る輩がいないのが一番ではあるが、はっきり言って臨み薄いだろうな。何せ未来の報酬が破格だし。
「はぁ。またかよ。なら、俺を激怒させないとうにとふれてくれ。そっちが先だろ」
「それは出来ません。干渉とも取られれば後々厄介ですから」
それがあったか。テリストの発言には応対するな、など言えないか。
「さいですか。死人が出なくとも降格する奴が出そうな予感がするな……」
「テリ。今頃からヒートアップしてどうするのよ。甘いものでも食べて落ち着きなさい」
「ふむ。コーヒーモドキに砂糖入れてコーヒーブレイクとしゃれこむかな。香りが甘ったるいからコーヒー牛乳ぽくなるが」
準備に取り掛かるまで、雑談に花を咲かせる女性たちの会話を聞きながらのんびりと過ごすのだった。
そして。謁見の間に貴族たちが集結する中、ほぼ全員が入り終わった終盤に俺たちは入った。最後にサールンが入室し会議が開始された。
「緊急招集にも関わらず集まってくれたことに礼を申します。ハーンス、司会進行を務めよ」
「はい。先ずは、急遽一昨日決まった事から資料作成が間に合いませんでした事を先ず謝罪いたします。
お近くの方と共同でお読みになって頂ければ幸いです。
現在、既に帝都を含めていくつかの町を制圧しております。ですが、騎士を配置しておらぬ為に空白地となっております。
何名様かの要望により。これらの町を監視下に置く為、ご協力を要請致します」
「補足するとテリストの転移門により帝都まで移動してもらいます。そこからは各団体での移動となります。これは統治の為の実行支配では無い事を伝えておきます」
占領はするが、3国攻め入っている現在、皇国単独では領地を取得したとの宣言は好ましくはない。勝手に宣言する様な振舞は帝国打倒後に大きな亀裂を生み、戦争の泥沼化に発展する恐れがある。特に後発であるが為に、慎重に期すことが重要だった。
「よろしいですかな。先ずは我々の言葉をお聞き届けて頂き誠にありがとうございます。して、赴かれる方は何方ですかな?」
「決定しておりません。この場で選定します。先ず町を管理する爵位持ち本人は除外します。管理していない者、もしくは土地を管理する貴族に至っては家族を候補とする事を許可します。立場としては爵位持ち本人が優先である為、同じ町に配属された場合には、家族の者は下についてもらう事になります」
「男爵が筆頭であれば、侯爵家の長男であろうと下に就かせる、で宜しいのですかな」
「当然です。男爵は男爵の地位を得ていますが、侯爵の家族は家族であって叙勲を受けている者ではありません。よって、例外は認めません。活動中、これに反した振る舞いをした者が発覚すれば、それなりの罰を受けてもらう事になります。心しなさい」
「希望者の方は明日中に参加表明して頂きます。寄り親、寄り子の間柄でなるべく配属させたいと思います。何かご質問のある方はおられませんか?」
「サルーン陛下には申し訳ありませんがそれには賛同できませんな。我が子が男爵の下に就くなど侮辱ですぞ、なにとぞご再考をお願いします」
「ならば参加せずとも良ろしい。この参加は強制ではなく、自由意思で募っています。他に何も無ければ次の議題へ」
やや強引だがこの程度なら大丈夫か。爵位に関しての上下関係ははっきりしてなければ上下関係があやふやになるからな。この場合は断言して実行した方が良いと踏んでの事だろう。
何かあれば俺が出張れば良いだけだ。
「……」
「次に参ります。バーナル王国、及びカリース連邦の連合部隊が先に参戦を表明し、既に交戦状態でありますが。
我が国は先んじる彼らより先に、皇帝家族を拘束し、皇宮で幽閉しております。
以上の事から帝国は敗北したと認識しております。
現在は帝都以南を平定中ですが、バーナル王国、及びカリース連邦と会談の場を開き現帝国の扱いに関して交渉せねばなりません。
そこで大きく2つの案があります。1つは飛び地であるが故の統治の難しさから、此方の取り分として、税に対する数%を毎年受けとるというもです。
もう1つは現帝都を副都として扱い、サルーン陛下に次ぐ権力を与える事で統治する案です。
交渉に絡む件がもう1つございますが、何方を選択するかによって選択が変わるものと思いますので後程とさせて頂きます」
「補足すると収めてもらう税は農産物を物納して頂くように交渉するつもりです。現在、パンの材料など、寒い地方でしか育たぬ農産物は輸入に頼っていますが、この点が改善される事となります」
「よろしいですかな。テリスト様にお答え頂きたい。このまま南部の平定を進めた場合、どの程度のお時間が掛かると判断されますか?」
「テリスト、答えなさい」
さてどうするかな。嘘を付いて日数を誤魔化すより力を誇示した方が良いか。後からもめた場合には抑止力になるからな。正直に話しますか。
「では失礼して。無理をすれば明日に片が付きます。余裕をもって攻めたとすれば3日ほどでしょうか。ただ、権力の空白地になるだけですが」
「さ、流石でございますな。我が国きっての英雄であられるその称号は伊達ではありませんな。その後、順調に北部へ進出した場合にはどれほど時間が掛かりますかな?」
「攻めないぞ。帝都から北は連合に任せる」
「……。い、今何とおっしゃいましたかな? 聞き間違いでなければ其方へ攻め込まないと聞こえましたが」
「間違ってない。北側は連合に任せると言った」
「な、何を考えておられる! 国力を増す絶好の機会ですぞ! むざむざお捨てになるのですか!」
「同じ事を言わせるな。攻めないから攻めないと言っている」
「テリスト様は皇国に利をもたらすおつもりは無いのですか!」
「これだから馬鹿は! 他の国へ与える影響を考えろボケ! 連合の2国は食料確保に難儀していると聞いてるぞ! そこへ配慮すらできんのか貴様は! 後から割って入った挙句に大半をせしめてみろ! 周囲の国がどう考えるかすら分らんのか! その程度すら分らんなら即刻貴族を止めろ!」
「戦争とは奪い合いですぞ! 他国へ配慮と言っている場合ですか! 戦争とは外交手段の一つ。外交で弱みを見せれば相手がつけあがるだけですぞ!」
「そうかそうか。お前は自分さえよければ他人がどうなろうと知った事かって考えなんだな。他人に思いやりのない考えしかできんのなら皇国に不要だわ。死ねやボケ!」
流石に密集してる所へ魔術を撃ち込む訳にいかず。ならば接近戦へ持ち込もうとするのだが。例によって両脇から担がれた。
足が浮いた事から踏ん張れずに、殺しに行けなかったのだ。
「はいはいストップよテリ。サルーン陛下の対面も考えなさいよ」
「ほう。よく言えるな。奴の言っている事を実行してみろ。その対面が汚されるんだぞ。おい、そいつの近くにいる奴、ちょっとどけや。魔術撃ち込むぞ」
俺の警告が効いたのか。ザザっとそいつから離れる面々、そして他人が近くにいれば攻撃されないだろうと判断してか。後ろへ後ろへ回り込もうとする怒鳴りつけていた奴だった。
「これでは会議どころではありません。そこの馬鹿を拘束して連れ出しなさい! 沙汰はおって伝えます!」
一時中断したものの。近衛騎士の迅速な対応により、拘束されて連れ出され1席分空いて会議が再開されるのだった。
「チィ! 殺し損ねたか!」
「テリスト、やめなさい。会議が進みません。
確認します、各国から注目されている戦争です。利をむさぼれば良いとは限りません。他国を立てる事も利となるのです。孤立すれば戦後に大いに影響を与える事を胆に命じなさい。
決めねばならぬことは土地の管理を任せる代わりに代金を頂くか。それとも飛び地であろうと管理するかです。先ずは其方に関する発言をなさい」
「発言の許可を頂きとうございます」
「アンブロシウス様、どうぞ」
「飛び地とはいえ、土地を確保した場合。サルーン陛下の決済が、言うなれば仕事が激増する事が容易に分かります。そちらはどうでしょうか?」
「今現在でもサルーン陛下は休日が取れないほどです。そこで、副都として扱い。サルーン陛下に準ずる権力を与える事を検討しております」
「では、本来ならばサルーン陛下の決済が必要な所を、その方が成り代わり処理されるのですな?」
「そう判断して宜しいです」
「では、統治に支障が無ければ土地を確保すべきですな。問題は山積しますが、これを乗りこなしさえすれば利益が違い過ぎますぞ」
「たしかに、戦力がかなり分散される事態となりますが。守護龍もいらしている。守りに関しても問題ありますまい」
「サルーン陛下。発言の許可を頂きたい」
「許可します、発言なさい」
「その問題が大きすぎる事が問題なのを理解されてるか? 騎士ならば特段常識はずれでなければ務まるが、文官はそうもいかず教育を施す必要がある。
統治する人材を育成するには年単位の時間が必要だ。その事を踏まえての発言でしょうね?」
「無論前提ですぞ。貴族は子孫へ爵位を渡します。当然教育を施す事が大前提ですぞ、教育を施さぬ貴族はおりません」
「申し訳ありませんね。少し言い方がまずかったようだ。
統治者の確保可能でしょうが、それを支える文官が不足すると予想しています。当該地域から募集するにしても常識が異なるので衝突は避けられず、おいそれと雇うのははばかられます。その点を改善する術をお持ちか?」
「テリスト、先走りは止めなさい。まだ統治すると決まっていません。ですが決を採るまでもなさそうですが……。他に意見がなければ 決を取りたいと思います」
異論ございませんとの声があちらこちらから上がり決を取った結果、圧倒的に飛び地であろうと自国で管理する者が多く、戦後処理最大の方針が決まる事となった。




