20:実情
グリちゃんは屋敷へ入れる訳も無く。馬と一緒にお留守番である。
そして俺たちは、連合のお偉いさんたちと挨拶を交わして会談へと進むのだった。
相手は3名、団長に副団長らしき人物とアルフォンスだ。
「先ず情報提供と行きましょうか。帝都は制圧して皇帝家族は拘束した。ジアラハルト方面にある砦は既に制圧済みで、現在は南部の平定へと事を進めている。
帝国の戦力として残っているのは町にいる戦力と、此方に向かって来ている部隊のみだな。アルフォンス殿、説明を」
ここから先は彼が説明するべきだ。その為に斥候に出ていたのだし、その功績を俺が奪う訳にはいかない。大人の配慮って奴だな。
それに、他国の者から報告を受けるより、自国の連合の者から報告を受ける方が信用されようというものだろう。
「はい。騎馬隊が先陣となり向かって来ております。途中に規模は違いますが、町を素通りしたとして3日後にここへ到達予定です。
更に後方から9部隊、歩兵で編成された部隊が向かって来ております。1部隊が1000名強。10000人弱かと思われます」
「補足するとその中に厄介なのがいましてね。グリフォンが死にかけたのがそいつの攻撃手段が特殊だったからです。粘土に毒を混ぜ込み焼き固めた品を飛ばして、体内へ潜り込ませて強制的に毒の状態にする。取り出さなければいくら毒の治療をしてもいずれは死ぬって厄介な手段ですよ。弾はこれです」
4つとも取り出してテーブルに置く。
「この様な小さな品があの強固な外皮を貫いたのですか」
「ある品を爆発させて。その膨張を利用して飛ばすのですよ。この技術は勇者からの情報を元にして作られている。相手に勇者が混ざっている可能性があるって事ですね。
あらゆる戦闘に関して有利となるスキルを叩き込まれる。オールレンジで戦える彼らは、どの位置にいても脅威だ。注意してください」
「テリスト殿はお詳しいですな。確か亡命された方の中に勇者であった方がいらしたとか。その方からの情報ですかな?」
「皇国には元勇者が2名いるのでね。その手の情報には事欠かないのですよ」
「ふむふむ。では、具体的な威力をご存知ですかな?」
「物によるから威力はそれぞれですね。弾の大きさに比例すると思って頂いて結構だ。このサイズなら鉄製のフルプレートメイル程度なら貫通する」
「グリフォンが貫かれるのです。当然でしょうな」
「ただ。使用する人の腕次第だが。防具無しの場所に当たって殺傷するとなると。300m程度なら可能かな。炸薬があれだからな。そんなものかな」
「……距離は脅威ですな」
通常のファイアボール程度で約100m。初級魔術に至っては約半分。魔力を余分に込めれば飛距離は上がるが、軍隊同士で戦う際には無駄なMPを使うべきではない。確かに利点はあるが無駄なMPは使わないだろう。
それと比べれば確かに脅威だ。高い位置から攻撃された場合には後ろが狙われかねないからな。
「では。此方からも情報を頂きたい。今回来たのはその為でしてね。占領した地の税収に関してはどうなってますか?」
「取れる訳ありませんがどうかしましたかな?」
やっぱりあの指摘は正しかったのか。後は税収開始時期の確認だけだな。
「なるほど。完全に制圧下に置いた後。政権樹立に合わせて本格始動で良いのですよね?」
「無論そうです。抑圧された民の解放をも念頭に入れておりますれば。現時点では取りようが無いですからな」
「ではその様に此方も動きます。商業ギルドへは樹立するまで税を取るなと申し付けましょう。以上かな」
「テリ。帝国の軍事物資を押さえたでしょ。売らなくて良いの?」
「グリフォンの交渉材料にはならなかったし。此方としても必要なんじゃないの? 一時的にでも皇国から騎士に来てもらう必要がありそうだしさ。そっちに流すわ」
「確かに帝都を騎士無しで統治は無理ね。その判断で良いわよ」
「あ。あの。聞き捨てならない言葉の羅列がありましたが。販売しても良いと、余分に食料品をお持ちなのでしょうか?」
「テリスト様は後発予定だった兵站部隊の物資を先回りして押さえられたのですよ。準備していた品から、集まる予定の品まで現金で支払われたので、既にテリスト様がお持ちです」
きっちり補完して説明するんだな。確かに自軍の補給が楽になるかどうかの瀬戸際だ。その考えは分かる。
「購入代金の一割増で結構です。半量ほど売って頂けませんか? 何分運び込むのも結構な費用が掛かり、逼迫しているのです」
「ふむ。超高級肉を厳選して降ろしましょうか」
「馬鹿な事を言わないのよテリ。日持ちする品を確保したのならそれを売却なさい」
「だそうです。アリサの許可も出ましたし。そうですね適当に見繕って馬車20台分ほどで良いですかね?」
「もちろん宜しいですとも! アリサ殿。感謝いたしますぞ」
「ただね。一部だけだと値段がつけようが無いのよね。そっちで勝手に代金決めてくれる?」
全部纏めていくらだものな。そもそも全部は手元にない訳だ。そんな品に値段を付けろって言われても分からんとしか言いようがない。丸投げしよう!
「駄目よテリ。計算はしてあげるから私に渡しなさい」
「なら任せるわ。何処か倉庫なりを押さえてますかね。取り出しながら品の確認をしてもらいましょうか」
「商家の倉庫を押さえる訳にはまいりませんのでな。魔物ハンターギルドの倉庫を借り上げております。御足労頂きますがよろしくお願い致しますぞ」
「それじゃ移動しよう。アルフォンス殿。細かい事は団長さんに報告してくれ。ざっくりしすぎて細かな点まで話してないからな」
「はい。この度は大変お世話になりました」
「命が助かってよかったな。それじゃ失礼する」
副団長らしき人物に先導され屋敷を後にするのだった。
★ ★ ★ ★ ★
残された二人。
「お兄さんたちは行っちゃったか。これなら強さの説明をしても問題ないよね。僕が確実に殺されると確信得たから止めたんでしょ。どうなの?」
「その通りです。昨日助けて頂いた際ですが、空中戦を仕掛けて来ていた相手方魔術師を一瞬で葬られましたした。
地上へ落ちる我らを、下に回り込まれて受け止め。そのまま飛行してその場を離れたのです」
「え? グリちゃんとアルフォンスを担いだまま飛んじゃったの?」
「いえいえ。もうお一人連れられておいででした。流石に一人抱いたままでは受け止めて運べませんので、その方は私と同じくグリフォンに乗せておいででした」
「それって。グリちゃんも含めると軽く1000kg以上だよ。どんな鍛え方してるんだろうね。僕と同じく経験値増加のスキル持ちかも知れないね」
「それからすぐに治療を開始されました。鑑定の許可を求められたので直ぐに許可をだしまして。一緒におられた方が鑑定しておりました。
毒の状態で危険だとの判断で、直ぐに回復魔術を施すかと思いきや。体内へ毒物を撃ち込まれていると即座に判断されたのです。着弾した場所を確認し、その場所の毛を剃ったのです。
そこから立て続けに【クリーン】【オールキュア】【グレーターヒール】をお掛けになりましたが、直ぐに毒状態へとなりまして。即座に摘出されたのです。
トータルで【クリーン】を6度【ハイヒール】を1度【オールキュア】を2度【グレーターヒール】を5度使用されました。それもMPポーションを使用せずに立て続けにです」
「種族的には魔術特性は高くないよね」
「そうですね。手先の器用さや敏捷性に優れた種族です。エルフから見ますと数段は落ちるでしょうか」
「【フライ】を使った移動でMPが減った上にそんなに連発したら、普通は気絶じゃすまないよ。そもそも【グレーターヒール】を使える次点で桁外れに強いのは分かるけどさ」
「その後はグリフォンに魔力を与えて飛ばそうとはしたのですが。結構な量の血を出しており。通常の魔力は受けらないと説明した事もあり。その場で肉を馳走になったのですが。その肉が下級ドラゴンの肉でして。後から聞いた所、その品が最も在庫があるから食べさせたと仰っておりました」
「は? それって。皇国の最も強い魔物のドロップ品だよね。それが大量にあるって……もしかしてだよ。スタンピートが発生したとは聞いてはいるよ。だけど半端にしか聞いてないけど、可能性があるよね」
「そうです。テリスト様であれば難なく倒していそうです。国元に帰った際には詳しく調べてみます。スタンピートが各国で発生した事から。情報が伝わっていますので」
「任せるよ、いや。国元に伝令を飛ばして直ぐに確認しておくれよ。きっと国の取り決めで顔を合わせる際にお兄さんが出て来るよ」
「確かに要注意人物ではありますからな。明日朝一番で人を送りましょう。
続きですが。結局は帝都の方が近いと一晩お世話になる事になりまして。馬車で3日程度の距離でしたが。テリスト様がお一人で御運びになられました」
「あのお兄さんなら訳ないよね。それで?」
「夜は夜で見回りに行くと出かけられ。皇国軍の者だと身分を詐称して酒場に迷惑を掛けていた者を12名処刑したとの事でした。
翌日、本日ですが。帝国の城から今朝がた出立しました。グリフォンの移動速度では遅すぎると、テリスト様とアリサさんは先行されました。その事だけでも実力がいかに高いのか知れます。
「確かにそうだね。風の抵抗も強くなるし。無理に速度を上げてしまうと消費MPが半端じゃないもの。グリちゃんは効率の良い速度で飛ぶようにと申し付けてるから守ってたんだね」
「左様です。
先行されたのは帝都へも歩兵編成の3部隊が迫っていた為です。到着した時点で既に戦端は開かれ、敵兵の叫び声が響き渡っておりました。
一緒に先行していたアリサさんは、遺体から資産の剥ぎ取りと遺体の回収をされており。戦闘しているのはテリスト様お一人だと……」
「ちょ、ちょっとまって。1部隊が1000人強だと言ってたよね。それが3部隊って事は、少なく見積もっても3000と数百人だよ。その人数をたった一人で相手にしたの?」
「同行されていたアリサさんが後の処理をしていた事を考えますと、姿は見えませんでしたが戦っているのはテリスト様以外にはいないかと」
「はっはははっ。決闘していたら死んでたね。そんな人に喧嘩を売った訳か。生きてるのが不思議だわ」
「それと、これはお伝えしておりませんが。テリスト様は現在、副団長ではありますが。実権はテリスト様が握っておいでです。指示は全てテリスト様が行っておりました。
そしてテリスト様の本来の御身分ですが。皇国の女帝である、サルーン・アーレアル・アヴァサレス様の婚約者です」
「それを早く言ってよ! 正面切って代金を踏み倒せば良いとか言っちゃったよ。ど、どうするのよこれ!」
「今回の会談において、不利どころか喧嘩を売った形となりました。そして。帝都は既に皇国が手中に収めています。ついでに申しあげますれば、既に町に常駐する騎士程度しか彼方の戦力はありません。遠からず帝都以南は落ちるでしょう」
「お兄さんがいる次点でそりゃ落ちるでしょ。それよりもだよ。皇国の戦果が大きすぎるよね。予定より激減するんじゃないの? 取り分」
「団長の落ち度も踏まえて相当に……」
「だよね。首が飛ぶかも……」
「誰が団長でも戦果が下がるのは理解されるでしょう、首は飛ばないと思われます。
更に情報があるのですが。聞きたいですよね?」
「まだ何かあるの?」
「現在投入されている皇国の戦力です。8人と使い魔1体のみで騎士の同伴無しです」
「は? ちょ、ちょっとまって。僕の頭が理解してないんだよね。もうちょっとこう、分かりやすく言ってくれない?」
「男性はテリスト様お一人だけで、使い魔を除けば全て女性です。付いてこられたお2人を除けば、エルフの方1名と人族1名、残りは獣人族の方です。使い魔は全高1m程度の翼を生やした猫です。
団長はおっしゃいましたよね。経験値取得のスキル保持者では無いかと。それを考慮すればお分かりのはずでは?」
「……。やっぱり考えなきゃ駄目なの?」
「考えずとも解る問いではありませんか? すでに南部の制圧に動き出していると伝えましたよ。
来られている3名以外が実行部隊として動いています」
「お兄さん以外も桁外れに強いのは確実で、誰か分からないけどその中にスキル保持者がいるのは確実って事だよね」
「国元にも戦力を残すはずですから、皇国の切り札が全員来てるとは考えてはいけませんね。下手に喧嘩を売れば国が亡ぶのは確実です。その辺り、潔癖な方の様ですから」
「やっちゃったよ! どうするの! 取り返しがつかないでしょ!」
「手が無くも無いですが。それでも打てる手は1つしか思い浮かびませんね」
「教えて。お願いだから教えてください!」
「今回の戦争に決着がつく前に亡命なさるのですよ」
「それってさ、逃げ込んだ国が被害にあうんじゃないの?」
「だからですよ、選択肢は多い様に見えますが、逃げ込む先は1つしかありませんよ、ですから打てる手は1つと申し上げました」
「皇国へ亡命するのね……」
「背が高ければ足元は確認しずらいものですよ」
「戦争中なのも意味があるんでしょ?」
「敵前逃亡は死罪ですが。かの強大な戦力を誇る皇国の元であれば。国元としても強くは非難しにくいでしょう。
何より、戦後に罪を背負うリスクが減ります。罪を背負った者の亡命を受けたくは無いでしょう? 皇国としても」
「そうかもしれなけど。僕を受け入れたら交渉に支障が出るよね皇国としては。確立低そうだな」
「口八丁しだいでしょうね。それに、交渉事が纏まった直後ならば皇国は被害をかぶりませんし。そこが1番接触しやすい時でもあります。
過分に国が負担を強いられはしますが。滅ぶ選択肢は無くなります」
「……。交渉の席で滅ぶかどうか直ぐに分かるよね。僕の罪の重さしだいで身の振り方を考えようかな。亡命は最終手段って事にしておこうかな」
「じっくり考えれば良いですよ。僕は退職して普通に皇国へ行きます」
「それずるいよ!」
「そこはほら。助けて頂いた恩をお返しする為について行かせてくださいで済みますから楽ですね」
この話題はここで一区切りし。今後の作戦に関して話し合うのだった。




