11.音楽祭ステージ
………私はずっと練習をし続けていた。
もう学校に居るのか、家に居るのか。
時々、誰かが私の手を握って私を移動させてくれている。
握られた手が暖かくて、その時は多分私は笑っていたと思う。
まるで吹雪の中で灯りを見つけたようだった。
その手が私を導いてくれたら大丈夫。
………。
…………。
……………。
何回目になるかは分からない。
いつも私を握っている手が、いつもと違う場所に導いた。
喧騒に包まれて、階段を上がり眩しい光に包まれた。
「あっ………」
急に手が離れた。
寂しくて手を探すと、代わりにバイオリンを渡された。
私の大事なバイオリンの感触に笑みが零れる。
ふと、思い出した。
バイオリンは親が買ってくれた。
名の通ったバイオリンの写しだけれど、とても音が響いて華やかな音が出る。
4/4バイオリンが持てるようになった頃、さっそくおねだりしたわ。
高かったのだけれど、あまり物をねだらない私のお願いを聞いてくれた。
しょうがないな、と微笑んで買ってくれた。
勉強や稽古事を疎かにしないようにします、と私から約束したの。
ああ、ちゃんと私のお父様とお母様は私を応援してくれていた。
「大丈夫。僕はすぐ近くで伴奏するから大丈夫だよ」
笑顔が少し離れた所へ遠ざかる。
私は自然にすっとバイオリンを構えた。
ピアノの前奏が聞こえ始める。
さあ、最初は冷たい吹雪の音。
それはいつも聞こえているから大丈夫。
固く冷たい音を出すのは大得意なの。
冷たく凝り固まった私の雪を表現するだけだから。
難しい事はない。
私は私。
春なんていらない。
雪は降り続ける。
けれど………。
そっと、暖かい笑顔のある方向を見る。
寒い冬の中にも暖かさはある。
ずっと握られる手の温もり。
柔らかいタッチで、暖かさをそっと表現する。
冬の美しさ。
吹き付ける吹雪の白一色。
キラキラ輝く大気。
厳しい白の迫力。
その一方で、寒さの中の火の暖かさ。
繋いだ手の温もり。
私は私で、春なんていらないけれど。
やがてそんな私でさえ包み込む春がやってくるの。




