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寂神様〜自称神様のお兄さんと出会った男の子が友情を知るまで〜  作者: 鮎ヶ瀬お米


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6/21

6壁

 そしてそれから飛ぶように時が過ぎた、一週間後の日曜日、青年に腕を引かれて、友人は引きずられるように街にある山の一部に登っていた。木々にビニールテープが巻かれている以外は、人の手が加えられていない。嗅ぎなれた緑の匂いが立ち込める森の中を、名前もわからない小さな虫にぶつかられながら進む。


 普段着で準備もせず上っているのだから遭難してもおかしくないだろうが、幸いにも山は高くない上、木々の間に何度も人が通っているであろう道があった。それもそのはず、この山からはそのまま丘が続いており、その丘には小さな住宅街が広がっているのだ。そしてこの工事は、そこの住民にすら知らされていなかった。


「ここが工事予定地……?」

「ああ、きっと下見のために現場に人が来るだろ?」


 口調は柔らかいが青年の表情は険しく、まだ何も起こっていないというのに腕を組んで周りを睨んでいた。声も普段より低く、本当に正義感が強いのだと友人は改めて実感する。


「本当に来るのかねえ……」


 友人は、間引きすらされずに窮屈そうに生えている木々を見て、次に足元に伸びきっている草を見た。腕にせっかちな蚊が止まっていることに気が付き、払う。


「今日来なくても明日はくるかもしれないよ」

「ええ、毎日来るのかよ」


 感心を通り越してすっかり呆れた声音の友人は、実際にその人たちが来たら青年は掴みかかってしまうのではないかと不安を抱いた。それでは折角工事をやめてくれるように話し合いに来た意味がない。強い日差しを木々が遮っていることで爽やかな風のみが肌を撫でる、この気持ちの良い森の中で殴り合いなんて実に似合わない。


「あ、誰か来る……」


 噂をすればというものか、友人が脳内で青年を案じていると、山を登ってくる二つの足音が聞こえた。その足音は確かに近づいてきていて、青年の予想が当たっていたことに驚く。


「ん? 誰ですか、君たちは」


 ついに青年たちのところまでたどり着いた足音は、青年の背後で止まって、声をかけた。


「僕たちは、この山を守りたくてあなたたちに直談判しに来たんです」


 颯爽と振り返った青年が、いつになく真面目な声で二人の大人に応える。友人は、その二人が目当ての人物ではないかもしれないと言おうとして、やめた。他にも山がある中で、整備もされていないこの山に登山に来るわけはないのだ。


 それに、青年の声に大人たちが口角を上げたことが答えだった。


「ほう、そりゃあ大層なことだな」


 もう一人の小太りの大人が青年をあざ笑う。手に持ったバインダーをもてあそびながら、意地の悪い笑みを浮かべていた。


「そう言われましても、俺たちはただ上から言われたことを行おうとしているだけですので……」

「じゃあ、上の人に会わせてください」


 小太りの大人を手で制して、背の高い大人が眉根を下げた。青年は何を言われても食い下がるつもりで、脳を回転させていた。緊張で心臓がうるさく脈打っている。


 そんな彼を見て友人は、青年がこんなにも勇気を出しているのに自分は怖気づいているということに嫌気がさしていた。親を早くに亡くした影響か、青年は友人よりも圧力に強かった。


 守られてばかりいた友人は、いざ訴えかける今となったのに、足は震え、立っているので精一杯だ。それでも、青年に協力すると決めた時から覚悟は決まっていたはずだった。なんとか手助けしたい思いから、声を絞り出す。


「俺からも、お願いします」


 友人は冷や汗が首筋を伝うのを感じながら、大人二人に頭を下げた。


「そういわれて簡単に会わせられるものじゃないんだよ」


 しかし友人の気持ちなどつゆ知らず、小太りの大人はバインダーで軽く友人の頭を叩いた。友人は恐怖で思わず溢れそうになった涙を堪え、下げたばかりの頭を勢いよく上げて小太りの大人を睨む。


「おお、威勢がいいね」


 小太りの大人はけたけたと笑い、背の高い大人にはたかれていた。青年たちは茶化されたような気持ちになって、少し腹が立つ。


「すみません。でも、俺たちにはそんな権力もない。これはもう決まったことだ。わかってください」


 背の高い大人は真っすぐに青年を見つめた。青年も、彼らが嘘をついているわけではないとわかっている。ただこの場でがむしゃらに訴えかけても、相手を困らせるだけだと悟った。


「……わかりました。今日は帰ります。でも、絶対に街の人を味方に付けますから」


 言い捨てて青年は強く友人の腕をつかみ、大股で山を下りだした。友人は、青年のその手が震え、汗に濡れていることに初めて気が付いた。助け船も出せず、涙をこぼさないことで手いっぱいだった己が情けなくなる。


「……ごめん」


 何も言わずに腕を引っ張り山を歩く青年に、友人は聞こえないように呟いた。ただの自己満足で、聞こえない方が良いとすら思った。しかし、青年は友人が呟いた言葉に足を止め、振り返る。その顔は、意外にも吹っ切れたようなすがすがしい笑顔だった。


「謝らないでよ。まだ、全く諦めてないんだからさ!」


 それは、彼の大人に対する宣戦布告なのだろう。絶対に勝利を勝ち取ると言う、すさまじい意志が垣間見えていた。友人は、一度彼を安直だと言ったことを取り消さねばならないとすら思う。彼は、友人が思ったよりも余程強い意志を持って、大人へ立ち向かう危険性を理解したうえで、覚悟を決めていたのだ。

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