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寂神様〜自称神様のお兄さんと出会った男の子が友情を知るまで〜  作者: 鮎ヶ瀬お米


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3/21

3自称神様

「……もしかしてお兄さん、もう死んでる?」


 冗談のつもりで、でも少し本気で。心臓が脈打っているのを感じながら、璃久は彼を横目に見た。


「違うよ、私は神さ」

「え」


 今度は璃久が目を見開いた。答えを探すように、逸らしたばかりの眼で無意識に彼の眼を見つめる。


(神様……? この人が?)


 冗談だとしても、幽霊だと言われた方が余程納得できる。寂しげな雰囲気と、死んだ眼。またもや予想しなかった答えに若干の興味をひかれた。


 そして先程から、嘘をついているようにも冗談を言っているようにも、何故か見えないのだ。


「冗談、だよね」


 それでも、完全には信じ切れずに璃久は彼を見た。彼はただ無言で璃久を見つめ返す。


「え、本当?」

「信じるのなら本当だよ」


 璃久の言葉に答えてから、そこで初めて彼が薄く微笑んだ。璃久を試すような、どこか挑戦的な眼だった。


 その瞬間に、夕方の涼しい風が一際強く吹いて。その衝撃か否か、璃久は彼らの周りだけ時が止まってしまったような錯覚を覚える。先ほどよりも鋭さの弱まった橙色の陽光が、彼の黒髪に混ざった焦茶色を黄金に照らす。


 緩やかに吹きゆく風は彼の髪を揺らすのに、璃久は確かに、時が動き方を忘れてしまっている、と思った。それくらい、いつまでも見ていられると、綺麗だと感じた。


 いつかに眼が表情を作ると聞いたことがあったが、それが本当なら彼の眼は、この世の誰よりも表情を作るのが上手な眼だと璃久は思う。


「信じたほうが面白いから、信じるよ」


 璃久は無理やり彼の顔から目を逸らし、それでも何拍か遅れて応える。言葉ではそう言いつつも、彼の笑顔を見て、彼は本当に神様なんだと、璃久はぼんやり思った。


 普段なら、神様が自分の前に現れるだなんて思わないし、現れたと言われても信じられない。事実、彼も自称しているだけだ。それでも、璃久には彼が少なくともただの人間には見えなかった。


「え、信じるの」

「ええ、あなたはただの人間には見えない」


 彼は璃久の答えを聞いて、自分で言ったくせにきょとんとした後、またふっと微笑んだ。両手を上げて足をゆらりと揺らす。


「わーい! 信者第二号ー!」

「ノリ軽っ!?」


 璃久はくつくつと笑う。彼もつられて微笑んだ。


「お兄さん、お名前は? 僕は田中璃久」


 すっかり彼の持つ非日常に魅了された璃久は、本格的に居座る体勢に入ろうと、新たに話題を振る。普段はあまり会話を先導しないが、今はどんどん話したい内容が浮かんできた。そしてその一つ一つが、普段よりもずっと魅力的に思える。


 例えば、今みたいに名乗って、名前を聞くのは社交辞令。新しいクラスで当たり障りのない子だと思われるための第一歩。実際はその日の夜には忘れられているようなやり取りだ。


 けれど、璃久は初めて心から、人の名前を知りたいと思った。そして、彼に璃久という名前を知ってほしいとも思ったのだ。璃久はこの不思議な雰囲気を持つ彼と、今日限りで会えなくなるのが惜しかった。


「私は、ミュオって呼ばれているよ」

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