13真摯
それから二人は根気強く街を回り、それぞれの地区でも粘り強く署名を集め続けた。しかし、なぜかマイナスな話の方が人の心には残りやすい。噂は彼らの行く手を阻み続けた。
根も葉もないうわさによって人々に拒まれ、さらには話を聞いてくれても関心のない人ばかりで、街の地区も残り少なくなってきた頃、二人の心はかなり疲弊していた。元々あまり運動する方ではなかった青年たちは肉体的にも疲れ、近頃は床に就くとすぐに寝付ける。
そんなある日、二人は件の山を登った先にある家々で署名を行っていた。その家では珍しく、インターホンを押してすぐに返事が聞こえた。
「突然すみません。署名活動をしているのですが、お時間よろしいでしょうか」
「……はい」
インターホン越しに小さく聞こえた、女性のものではなくとも高い声。その印象に反することなく、出て来たのは男の子だった。大体インターホンを押して出てくるのは大人で、その後ろから顔をのぞかせることはあっても子供一人が出迎えることは初めてだ。
「ええと、保護者の方はいますか?」
友人が、小学生にみえる彼に署名をさせるのは気が引けて尋ねると、男の子は案外しっかりとした声で答えた。
「不在です。僕が対応します。それか、あとで親に伝えます」
まっすぐと目を見て言った男の子に、彼も高学年には見えるので大丈夫かと、友人は青年に頷いて見せた。すると青年が説明を始める。
「僕たち、街の自然を守る活動をしていて。この山の反対側が崩される工事が行われることを知ったので、阻止するための署名を集めているんです」
男の子はそれを聞くと、大げさなほどに驚いた。青年がしていく説明にも、頷きながら反応する。関心を持っていると良く分かった。青年たちはそれが嬉しくて、長引かないようにしつつも心を込めて説明した。
「絶対署名します、させてください!」
男の子は説明を聞き終わると、青年の想いが移ったように熱烈に署名を希望した。
「お兄さんたち、この山を守ってください。応援してます!」
名前を少しつたない字で綴った彼は、拳を強く握って燃えるような目で彼らを見た。自身の想いのために全力で奔走する彼らが、少年の眼には大変輝いて映っていたのだ。
友人たちも心を込めて礼を言い、手を振る彼に応えてから次の家を回った。
「田中璃久くん、か。良い子だったね」
「ああ、将来が楽しみだぜ」
署名用紙を見ながらそう言って、彼らは山を下り始めた。




