10返事
そこで近頃、ミュオは璃久を神隠しに遭わせようと目論んでいた。
勿論ミュオは最初にそれを自覚したとき、己の思考を疑った。必死に理性がそれを止めるけれど、彼の人間らしい部分、心が寂しいと叫ぶ。気が付けば、璃久と一緒にいるときに、今ならばできるのではないか、と不穏な考えが浮かんできている始末だ。
「璃久くんを、こちら側に連れてこられれば良いのに」
「え?」
それは、璃久と普段通り雑談をしていたとき、零れてしまったという表現が一番似合うような、思わず溢れ出た言葉だった。
「あ……」
彼は咄嗟に口を手で塞ぐ。ミュオの眼を、一瞬で恐怖と絶望の色が支配した。折角、璃久と仲良くなれたのに。折角、友達になりたいとまで言ってくれたのに。
ミュオの一言で、この短いようで長い数日間の、大切に積み上げられてきた友情が音を立てて崩れていくだろう。
言うつもりなんてなかった。実際にそんなことをする勇気だってなかった。ただ、寂しいというそれだけの理由で、もっと寂しくなるような、友情を踏みにじるような発言をするだなんて。
「いいよ」
「……え?」
「ミュオのとこへ、連れてってよ」
ミュオは、答えを聞きたくなくて、己が望む答えを妄想しているのだとすら思った。璃久に言われた言葉を反芻する。口の中で転がして、咀嚼して、ついに飲み込んだ時にも、ミュオはそれが現実で璃久が言った言葉だとにわかには信じられないでいた。
目を今までにないくらい大きく見開いて、ゆっくりと璃久を見た。璃久は、穏やかな笑みで、ミュオのことを見ていた。
「……どうして? 人間がこちら側へ来るには、死ななくちゃいけないよ」
「それでもいいよ」
優しい声だった。ミュオの不安すらも包み込むような、暖かい声だった。ミュオは、璃久のことを殺そうとしているのに。
「言ったでしょう? ミュオと友達になりたいから。……僕も、ミュオとずっと一緒に居たいと思ってるから」
そう言い切った璃久に、ミュオは夢を見ている心地がした。ミュオは、こんなにも暖かくて心地よい感情を知らない。璃久はミュオに、いつも新しい感情を、思い出させてくれた。璃久といると、何も覚えていないはずなのに、記憶の深いところがくすぐられる心地がした。
西日に照らされ、暖かい笑顔を浮かべている璃久にミュオは思わず手を伸ばしかける。しかし、すぐにハッとして手を引っ込めた。
「……連れていかないの?」
「……」
ミュオは璃久の言葉に、静かに頷く。ミュオは、璃久の言葉ひとつで、なんならば伝えないつもりでいた彼の寂しさを爆発させそうになったことが怖かった。どれだけ決意を固めても、ミュオは璃久を傷つける可能性があるのだ。
「無意識に手を伸ばしかけたってことは触れればいいのかもしれないけど、どうやって連れて行くのかもわからないや」
「そうなんだ……」
「……それに、私は、例えそうすることでずっと一緒に居られても。君を殺してまで縛り付けたくはない」
璃久に、というより自身に言い聞かせるように、ミュオは璃久を見据えて言った。




