第5話 蛮勇けれどその姿は
ガラガラと近くの建造物の壁が崩れている。人ほどの大きさの穴が空いていた。その穴の奥では私をこの建物に吹き飛ばした上半身が異様に膨れ上がった黒色の生物がこちらを見ていた。
「やっぱり私には誰かを助けるヒーロー何て無理だったよ、真白ちゃん……」
(体が痛い、左手が痺れて上手く動かない。でもここで立ち止まっていたら、魔人達に殺される)
そう思い未録字は体を起こすと壁にヒビが入り音を立てて崩れていく。
崩れた壁の先には頭が妙に膨らんでいる真っ黒な人型の生物と、先程見えていた上半身が異様に膨らみゴリラの様なポーズをしている生物が立っていた。
そして、2体の魔人の胸には五芒星が中央で割れた様な模様が真っ黒な体で主張する様にほんのり明るく光っていた。
「星欠けの魔人が2体……非戦闘部隊が戦って勝てる訳ないじゃないですか」
魔人の出現を知らされた際、未録字は上官である下葉友也が先の作戦の責任を負わされて謹慎を受けていた為、本部から来た上官の指示で非戦闘部隊である未録字の部隊には魔人との戦闘が指示された。もちろん未録字達は抗議をしたが本部のお偉い人は、命令だ。との一点張りで実力も実績もない未録字達の部隊は逆らえなかった。
幸いな事に多くの魔人は戦闘部隊の方に向かったが、未録字達の部隊は運悪く星欠け魔人に見つかってしまった。
対峙した魔人を見て、多くの面々は恐怖で動く事すら出来なかったが、未録字はなんとか魔人を攻撃して注意を向ける事で自身以外の部隊のメンバーを逃げさせる事が出来た。
きっと真白がここに居たらそうしただろうから。そして、彼女ならどんなに無駄だったとしても足掻く事を、生きる事を諦めない。そんな考えを持って未録字は杖を魔人へ向ける。
「基礎魔法、ウィークバレット!」
魔法の呪文を唱えると杖から光の弾が出て頭が大きな魔人に当たり、爆発する。
魔法に当たった魔人は少しだけのけぞりはしたが、すぐにこちらに向かって歩いてくる。
未録字はその姿を見ながらひたすら魔法の弾を放ち続ける。
「うわあああアアアアア!」
弾は2体の魔人に当たっているが痛がる素振りもなく真っ直ぐこちらに向かってきた。
未録字の目の前で頭の大きな魔人が立ち止まり手をかざすと魔人の手から出た紫の光の弾に未録字は吹き飛ばされた。
未録字の視界が周り、真っ暗に染まる。
ふと未録字は昔の景色が見えた。周りには自身が通っていた魔法少女専用の学校の教室の景色が広がっており、周囲には同級生達の姿があった。
『ねぇ、未録字さん。聞いた?何かまだ魔法も使えないのに魔法少女の戦いに首を突っ込んだ子がいるらしいよ?』
『バカだよねー。魔法も使えないのに戦場に行くなんて』
『マジでそれな。私達はまだ守られるし、それに生活魔法が使えるようになれば魔人と戦う義務も免除されるし、毎日贅沢な物を食べれるのにね?私は……』
『未録字さーん、保健室の先生が呼んでるよー。保健室に来て手伝ってほしいんだって』
「これ、私の記憶?あ、そうだ。私……この時始めて会うんだ」
すると周囲が変わり、未録字は保健室に立っている様だった。保健室には保険医の先生とベッドの上に座る、顔がスリ傷だらけで四芒星のバッジを胸に付けた真っ白な髪の少女が居た。
「真白ちゃん……」
『ああ、未録字さん。呼び出しちゃってごめんなさい。保健委員の時に教えた消毒液の予備を保管室に取りに行って欲しいのよ。コレが鍵よ、申し訳ないけどお願いできるかしら』
すると、また周囲が変わり未録字は保健室の外に居た。部屋の中からは怒鳴り声が聞こえる。
『どうしてあんな事をしたんだ!魔人と魔法少女の戦いの中に飛び込む何て!』
『だって!瓦礫の下に逃げ遅れた人が埋まってたんだよ!助けてって言ってるのが聞こえたんだもん!聞こえたなら助けなきゃ!きっとお兄ちゃんだってそうしたよ!』
『そんな訳あるか!あいつなら……まずは、自分の身を守ることに気を使った筈だ……』
『それは違うよ!お兄ちゃんは魔人を倒してその後で……』
『ええい!アイツの事は一旦いいんだ!真白、君はアイツじゃない、今回の件で身に染みた筈だ。ヒーローなんて危険で割の合わないモノだって』
『でも、あの時助けた人は凄く感謝してくれたよ』
『そんなモノで……君が傷だらけになる必要はないだろ』
また、周囲が変わる。今度は真白ちゃんが目の前に居た。
『何でそんなに人を助けたいの?所詮、他人でしょ?自分の命の方が大切だって思わないの?』
過去の未録字が言った言葉が何処からか聞こえた。
あの時の未録字は目の前の少女に凄く不愉快だった。
彼女のあり方がまるで物語の主人公のような正義感で人を助けて、自身の様な自分の身が大切で、なるべく痛い事、怖い事はしたくないと考えている自分はまるで卑怯者のように感じていたから。
彼女を言い負かせれば自分は卑怯者なんかじゃないと証明出来る様な気がして、昔の未録字は目の前の傷だらけの少女に強く当たっていた。
そんな未録字を見て彼女は驚いた顔をして答えた。
『私の命?もちろん、大切だよ?』
「えっ?じゃあ何でそんなに傷ついて人を助けたの?」
『だってそうしなかったら私は、私を守ってくれたお兄ちゃんに胸を張れないの』
「お兄さんに?そんなの張らないでいいじゃない」
『そうかもだけど私がそうしたいんだよ!お兄ちゃん、私が小さい時に私を庇って死んじゃって、だから私お兄ちゃんに言いたいんだ。お兄ちゃんが守ってくれた妹はお兄ちゃんみたいなヒーローになったよ。って』
「そんなの……バカみたい……」
『えへへ、みんなから言われてる』
彼女は傷だらけの腕で頬を掻く。この時の未録字は目の前の少女に呆れて返す言葉も出なかった。しかし、彼女はいつも誰かを助けようとして傷ついて、傷ついて、保健委員だった私はいつも彼女の怪我の看病をして……そんな姿を見ている内にいつの間にか未録字は彼女のヒーローとしてのあり方に惹かれていた。
再び目を開けると青い空が広がっており、体を起こすと先程の魔人がゆっくりとこちらに向かっていた。
「殺せたはずなのに……まさか……痛めつけるつもりです……か。なら……私も……最後まで!」
もう無理だとサイレンを鳴らす様に痛みが全身を駆け巡るが未録字は立ち上がる。傷だらけでも誰かを助ける事を諦めなかった彼女の様に。
立ち上がった少女を見て、頭の大きな魔人は先程と同じ紫色の光弾を片手に出現させる。
(撃たれる!)
そう思った時、突然大きな頭の魔人がバランスを崩して倒れる。魔人が出した光弾は未録字から大きく逸れて近くの建物に着弾し、爆発する。
「うそ……」
未録字は目撃した、倒れた魔人の背中に人が張り付いて押し倒しており、先程まで光弾を出していた手を両手で必死に押さえていた。
「うぉ!この!暴れんな!」
その人は押さえつけられて暴れる魔人を必死で押さえていたが、横からゴリラの様な魔人が大きく腕を振りかぶっていた。
「危ない!」
「えっ!うわ!」
その人はもう1体の魔人の攻撃に気がつくと魔人を押さえ付けることをやめて寝転がるように攻撃を避けた。
「ギャ!」
ゴリラの様な魔人の攻撃は地面のアスファルトを割るほどの威力で、風圧だけで立って居られずその場に膝から崩れ落ちてしまう。先ほどの人は何とかゴリラの様な魔人の攻撃を避けられていたが、頭の大きな魔人がゴリラの様な魔人の攻撃を避けられず地面に埋まっていた。
「ギー!」
頭の大きな魔人がゴリラの様な魔人に光弾を放つと爆発してゴリラの様な魔人が後退りする。
「仲間割れしてる……」
2体の魔人が言い合いの様な形で攻撃をし合っている。そんな様子を呆然と見ていると先程助けてくれた人が駆け寄ってくる。
「大丈夫か!」
「あ、あなたは……真白のお兄さん……」
彼は額に汗を浮かべ、息を切らしながら未録字へと近づく。
「君は……未録字さんだったか?とにかく逃げるぞ!」
彼は未録字を抱きかかえると走り始める。
「な、何で……一般人が、何でこんな所に来たんですか!魔人には魔法少女以外に対処法が無いのに、さっきなんて死ぬかもしれなかったのに……」
「ハァ、ハァ、まぁ、お説教は後でにしてくれ……久しぶりに走ったからか腹が痛い……」
息を上げながら走る彼の顔は辛そうだったが、魔人達から身を隠す為、建物の影まで全力で走っていた。
すると、目の端に紫色の光が見えた。
未録字は咄嗟に体重を前方にかけて陽色を転ばせる。
「痛てて、何すんだよ」
「残念ですが、魔人の仲間割れは終わったみたいです」
左を見ると魔人達がコチラに向かって歩いて来る。魔人達には顔の様な器官は無いが、先程とは違い怒っている様子だった。
「ありがとうございます、お兄さん。助けてくれて嬉しかったです。ここは私に任せて早く安全な所に逃げてください。ここは私が何とかしますから」
「はぁ?そんなこと」
「良いから早く!」
未録字が声を張り上げると彼は未録字の瞳を見つめると立ち上がり、ゆっくりと魔人達に向かって歩き始める。
「ちょっと!逃げてよ!」
「無理だ。今の君にコイツらを足止めできるとは思えない」
「そんな事は」
「何より!こんな事であいつの!真白が憧れたヒーローが!逃げるわけがないだろうが!」
「ッ……」
説得出来ない。と理解出来てしまった。真白も1度決めたらテコでも動かせない子だったから。だから、こうやって目の前で彼が魔人に殺される所を見せつけられるのは、とても、とても……
「にげて……」
2体の魔人と彼の距離が少しずつだが近く。
「やめて……」
魔人達と彼が立ち止まる。
「ダメぇ!」
「うぉおお!」
彼が前に居たゴリラの様な魔人に右ストレートを放つ。もしかしたら何とかしてくれるかもしれない、そんな未録字の思いをあざ笑うようにゴリラの様な魔人はそのパンチを受け止めると虫を払うように腕を振り、彼の体は水切り石のように吹き飛んで行く。
「あっ……ああ……」
彼が飛んで行った方向へゴリラの様な魔人が追い討ちをする為に向かって行く。そして頭の大きな魔人が私に向かって歩いて来る。その手には紫色の光弾を纏っておりすぐに未録字を殺すつもりなのだとわかってしまった。
「うっ……」
足に力も入らない、腕を上げようにも立ち向かう気持ちが湧かない。彼が殺された時点で未録字にはもう戦う気力は残ってなかった。
「ごめんなさい先輩、フィクちゃん。先に行きますね」
そう言って頭の大きな魔人を見つめる。生き残る事は出来ないかもしれないが、少しでも隙があるのなら後に続く子達の為にダメージを残してやる。そんな気持ちだった。
突然、頭の大きな魔人の頭上をゴリラの様な魔人が吹き飛ばされている姿が見えた。
その様子を見て、未録字も頭の大きな魔人も一瞬、理解が追いつかなかったが、素早く魔人の飛んできた方向を確認した。
そこには先程助けてくれた真白ちゃんの兄が、四芒星のマークが大きく描かれた紺色のマントを翻し、そこに立っていた。




