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第6話 四芒の白星

(痛ててて……世界がグルグルって回った。俺はまた車に轢かれたか?)


 全身に痛みが走るが、かろうじて力は入る。ドスンドスンと重い足音が聞こえて陽色は自身の状況を思い出す。


(ああ、俺……あの魔人とかいう化け物に吹き飛ばされて……)


 何とか頭を持ち上げて足音の方向を見る。

 真っ黒なゴリラみたいな奴がコチラに向かって来ており、その奥では未録字と言われていた少女がその場に座り込んでいた。


(クソ、俺は何の為に此処に来たんだ。このままじゃ何も出来てない、というかあの子の邪魔しただけじゃないか)


 真っ黒なゴリラは陽色の側で立ち止まると大きく腕を振り上げると無慈悲にその腕を振り下ろす。

 腕を上げて防御をする事も出来ず、陽色はその攻撃をモロに受ける。


「ゴハッ……」


 その拳の衝撃に堪えきれずに腹の空気が吐き出される。殴られた場所が熱く、血なのか喉に何かが溜まっている感覚があり、上手く呼吸が出来ない。


「ヒュー、ヒュー」


 痛い、痛い……。ゴリラがまた腕を振り上げて攻撃してくる。殴られたくない、痛いのは嫌だ……けど、まだ死にはしない!


「クッ!」


 両足を上げて振り下ろされる拳を受け止める。


「まだ……まだだ。1回死んだからか?こんな拳……何発喰らっても死ぬ気がしないな!」


 足が少しずつ押しつぶされて行く感覚があるが、耐えられている。それなら、と俺は片足を基軸にして体を回転させて、拳の軌道を逸らす。拳が地面に落とされると土煙を巻き上げたが、何とか耐えて立ち上がる。

 

「ハァ……ハァ……」


 立つと顔は真っ黒でわからないが、ゴリラみたいな奴が俺を恐れている気がした。


「オラっ!」


 拳を振るとゴリラみたいな奴は後ろに飛び避ける。陽色は自身の拳の勢いでバランスを崩してしまい膝をつくが、また再び立ち上がる。


「まだ……まだ戦える。俺はまだ戦うぞ……」


(お兄ちゃん)


 ふと耳に聞き覚えのある声が聞こえた。


「真白……?」


 目の前には陽色が死ぬ前の幼い姿の真白が立っていた。

 真白はニコニコと笑うと胸に四芒星のバッジを付けてヒーローの決めポーズをした。


「ああ、そうか……力を貸してくれるのか」


 陽色は昔の記憶を、2人で胸に四芒星のバッジを付けてカッコいいポーズを鏡の前で決めては、『これで私達はヒーローだね!』と嬉しそうに跳ね回っていた時を思い出す。

 そんな事を思い出しながら陽色はポケットに手を入れて持って来ていた四芒星のバッジを取り出す。

 バッジは少し光を帯びており、ほんのり温かみを感じる。


「ハァ、ハァ……行くぞ、真白(ヒーロー)


 陽色がバッジを胸に付ける。すると、バッジはまるで風車のようにクルクルと回転し、目を開けてられないほどの光を放ち、瞬きの間に収まった。

 そして、陽色の背には吸い込まれそうな夜の空を思わせる紺色のマントに大きく四芒星のマークが付いており、そのマントは胸に付けたバッジで止められていた。

 体には先程まであった痛みが引いて、妙な浮遊感と体の底から湧いてくる様な大きな力を感じた。


 バンバンバンバン


 ゴリラの様な魔人は地面を乱打して陽色を威嚇していた。

 その姿を見て陽色は魔人から目を逸らさずにゆっくり歩き出す。

 歩き出した陽色に向かってゴリラの様な魔人は右腕を力いっぱい振り下ろす。

 その攻撃は寸前で体を反時計回りに回して陽色に躱されるとそのまま跳び上がり魔人の顎目掛けて右アッパーを喰らわせた。

 顎を殴り上げられ仰け反った魔人は数歩後ろに後ずさる。そして陽色は左手に力を込めるとバランスを取るために隙だらけな魔人の胴体を殴り、頭のデカい魔人を越えて建物にぶつかるまで吹っ飛ばした。

 

「ふぅ――」


 ガラガラとゴリラの様な魔人を吹き飛ばした建物の破片が地面に落ちている。そんな瓦礫の雨の中で頭の大きな魔人と未録字さんがコチラを見続けている。


「う、嘘……」


「大丈夫か?未録字さん」


 地面に崩れ落ちている未録字さんに近づこうと陽色は一歩踏み出すと紫色の光弾が陽色目掛けて飛んで来た。


「ぅおっ!」


 光弾の飛んで来た方向を見ると頭の大きな魔人が新たな光弾を陽色目掛けていくつも放っていた。


「近づかさせない気だな、それなら!」


 陽色は全速力で頭の大きな魔人向かう、簡単に狙いをつけさせないようにジグザグと方向を変え、魔人の放つ光弾を避けながら距離を縮めていく。

 あと数歩で魔人に手が届く距離まで近づくと魔人は今までとは違う人ほどの大きさの光弾を放った。

 避けられない。と瞬時に察すると陽色は左腕で光弾を受ける。

 腕に光弾が触れた瞬間、陽色の視界が一瞬で白飛びした。目を閉じているはずなのに真っ白な景色が見える。

 先程の光弾は恐らく威力を抑えて光量を多くした目眩し用の一撃と認識した時には遅く、陽色は魔人の狙い通り一時的に目が使い物にならなくなった。


「何処だ!頭でっかち魔人!」


 陽色は腕を左右に大きく振って、魔人の居場所を探ろうと足掻く。すると、未録字の声が聞こえてきた。


「3歩右斜め前に魔人!」


 陽色はすぐに聞こえた声に従って右斜め前に拳を突き出したまま走る。すると、拳にブニブニした何かに当たった。


「そこか!」


 陽色は触れた拳で魔人を掴み、左足でハイキックを喰らわせる。目がショボショボしていて見えなかったが確かに左足に何かを蹴り飛ばした感触があった。

 少しずつ陽色の視力が戻ってくると、頭の大きな魔人はゴリラの様な魔人に受け止められていた。

 一対一では対応出来ていたが2体同時に襲われたら対応出来ないかも知れないと陽色の脳裏に不安がよぎるとすぐに地面にへたり込んでいた未録字の元に駆け寄る。


「立てるか!逃げるぞ!」


「っ!でも……いえ、すみません。すぐに立ち……ます」


 そう言った未録字の顔には困惑しながらと苦痛に耐えながら腕と足を震わせて立ち上がろうとしていた。

 そんな顔を見て、陽色は自分の判断が間違えていると気がついたが、頭の大きな魔人が紫色の光弾を未録字に向かって放っていた。


「させるか!」


 陽色は未録字の前に立ち光弾を受ける。

 光弾は腕にぶつかると破裂と先程まで受けていたゴリラの様な魔人のパンチよりも弱かったが、当たった腕の皮膚が火に炙られたようにヒリヒリした。


「お兄さん!」


「大丈夫だ!それとすまん。ここで俺達が逃げたら他の誰かがコイツらの犠牲になる。そんな時、真白が逃げる訳無い、そうしたら俺も逃げていい訳ないな!コイツらはここで倒す!」


「え!ちょっとお兄さん!」


 陽色は地面を踏み込み魔人達に向かって近づく。

 そんな姿を見て、頭の大きな魔人は両手に光弾を作り始め、ゴリラの魔人は跳び上がり両腕をハンマーのように合わせて振りかぶっていた。

 陽色は魔人達の動きを確認するとより強く地面を踏み込み宙を飛んでいるゴリラの様な魔人に接近すると無防備な顔面に全力の右ストレートを喰らわせる。

 ゴリラの様な魔人は放物線を描いて地面に落ちていき、殴った右手に何か硬いものを潰した様な感触を陽色は感じた。

 そんな中、空中で身動きの出来ない陽色を容赦なく紫色の光弾が襲ってくる。


「クソっ」


 陽色は慌てて光弾を足で受けるが、光弾が当たった衝撃でバランスを崩して地面に膝から落ちてしまう。

 地面に落ちた衝撃は予想していたものよりも軽く、すぐに立ち上がれるほどだったが、光弾がめちゃくちゃに放たれており陽色に立ち上がる事を躊躇させたがすぐに考えを変えた。


「光弾の弾幕、それだけ近づいて欲しく無いのか。なら近づいたら俺の勝ちだな」


 陽色は体を屈めて顔を両腕で守る様にクロスさせると被弾を恐れず、頭の大きな魔人の所まで走った。

 そんな姿を見て頭の大きな魔人は大きな目眩し用の光弾を作り始めた。

 魔人は陽色との距離があと数歩となった時に目眩しの光弾を破裂させる。が、


「2度も同じ技を喰らうかよ」


 陽色は光弾の光を無視して頭の大きな魔人に突っ込み、ゴリラの魔人と同様に顔面を右ストレートで殴り飛ばす。

 するとゴリラの魔人とは違い妙に暖かい液体を拳が通過させた様な、蛇口から勢いよく出る温水に手を素早く通した様な感触を陽色は感じた。

 陽色の視力が戻ると手は濡れておらず、後ろには先程殴った頭の大きな魔人が地面に倒れており、その体は手足から徐々に砂に変わっていっていた。


「ハァ……ハァ……」


 もう1体のゴリラの様な魔人を見ると同じ様に体が砂に変わっていた。

 周囲を見ると未録字が目を丸くして口を押さえている姿だけで他に魔人や人の姿は無かった。


「勝った……」


 陽色がそう呟くと突然足に力が入らなくなり、体中が少し痛み始める。が、倒れそうな体を再び支えて未録字の所に向かう。

 陽色は小さく口を開けたまま人形の様に見つめている未録字に声をかける。


「歩けそうか?」


 そう陽色が問いかけると先程までの呼吸をしているのかも怪しく思われるほど動いていなかった未録字はぜんまいのおもちゃの様にワタワタと頭を左右に振り始め、少しして動きが落ち着くと、


「……あっ、はい!違っ、すみませんまだ……」


 と恥ずかしそうに答えた。


「そうか。もしかしたら骨が折れてるのかもな。仲間の場所はわかるか?」


「それは……あっ!」


 突然、未録字が何かに気がついた様で指を指す。その指された方向を向くとシャボン玉が1つ、フワフワと漂っていた。


「あれは確か」


「先輩のシャボン玉。あれに入れば部隊の本陣に行けるはずです!」


「そうかなら」


「へっ?きゃっ!」


 陽色は未録字をお姫様抱っこで抱え上げるとシャボン玉の中に投げ入れた。


「これで良し」


「えっ?あの!一緒に本陣まで行かないんですか?」


「ああ。このまま本陣に行くと友也に鉢合わせしそうだしな。俺は家に帰るよ」


「何ぜですか?お2人は親友だと聞いてましたけど」


「アイツ、多分俺がこんな事してるって知ったら嫌がるだろうからさ、あんまり知られたく無いんだよね。だから、この事もあんまり他の人に話さないでくれよな」


「なるほど、わかりました。任せてください」


「ああ、頼んだよ。それじゃ」


 陽色は未録字に背を向けて家に向かって歩き始める。


「あの!ありがとうございました!貴方はやっぱり、真白ちゃんが言っていた通りのカッコいいヒーローでした!」


 未録字の感謝の声が聞こえる。それに対して陽色は少し立ち止まって振り返ると、


「だろ!」


 そう言って小さくスキップをしながら陽色は帰路に就いた。

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