第4話 ヒーロー日記
「ふぅ……やっと一息がつけるな」
陽色は真白の遺品を受け取った後、食糧や衣服を買うと菫に別れを告げて部屋まで帰って来た。
「テレビでも見るか」
テレビを付けるとニュースが流れており、ニュースには魔法少女が21人の死亡に関してのニュースが流れていた。
そのニュースの中では魔法少女局の謝罪会見をしている様子だった。そこでは偉そうなビール腹のおじさんが話している後ろに親友の友也の姿があった。
「この度は、この様な事故を起こしてしまい申し訳ございません。今回の事件の発端は魔法少女、望木真白が不用意に魔人に接触し……魔人が……」
テレビに映っている男の語る内容は望木真白が原因で魔人が凶暴化し現場で対応している魔法少女の隊を虐殺、現場は混乱状態となり正常な対応が出来ず被害を広げてしまったとの事だった。
「……友也」
テレビで映っている友の顔にはまるで鉄仮面でも被っているのではと疑いたくなるほど感情を感じさせなかった。
「こんな嘘を言わないといけないのか……あいつと会ったら何て言えば良いんだよ。ただでさえ今のあいつと顔を合わせるの辛いのに」
陽色は昔の親友が遠くに行ってしまった気がして、彼が映ったテレビを消す。ふと、開封していなかった遺品の入った段ボールの箱が目に入る。
「真白、お前は世間じゃ悪者扱いだぜ?悲しいな、なんか言いたいこととか無いのかよ。お化けとかになってさ、一緒に友也へ文句を言いに行こうぜ」
そう言ってみるが部屋には静寂しか無かった。少し風に当たりたくなり窓を開けて電気を小玉に変えて、椅子を窓近くに移動する。
椅子に座り、窓枠に足をかけて夜空を見上げる。夜空は予想していたよりもはっきりと星が見えた。
「本当に何でこんな事に……」
陽色は真白の遺品の入った段ボールを開封すると中からは写真立てやらペンやら色々な物が出てきた。その小物達の1番上には真白が気に入って良く付けていた四芒星のバッジが置いてあった。バッジは長い年月を感じさせないほど新品のように輝いており、真白がこのバッジをどれほど大切にしていたのかが良くわかった。
「懐かしい。俺が自由研究で作ったバッジをまだ持ってたのか。このバッジちょっと歪んでるし、メッキされてるだけだからすぐにダメになると思ってたんだけどな」
四芒星のバッジを見て、陽色は幼い真白とよく街のパトロールとして散歩をしていた日々を思い出した。
「本当に間が悪いなぁ……何でせっかく蘇ったのに、すぐに死んじまうんだよ……お前は本当に……バカだよ……真白……」
母さんが晩御飯を作っている美味しそうな匂い、父さんが仕事から帰って来たとわかる少しうるさい車のエンジン音、いつも引っ付き回ってうるさく質問をしてくるバカな妹……一緒に暮らしていた記憶を陽色は鮮明に覚えている。だが、今では誰もこの世に居ない。
「何で……俺だけ生き返ったんだよ……何の為に……」
気持ちがどんどん後向きになっていく。そんな気持ちの切り替えの為に陽色は遺品を確認していくと1冊のノートがあった。
そのノートには『真白のヒーロー日記』とタイトルが書かれていた。何が書かれているのかとペラペラと巡ってみたが半分以上が白紙の日記帳だった。
あいつらしいと思っていたが最初の1ページを見て陽色は体が震えた。
『このにっきはヒーローとして人を助けたあかし!』
そう書かれていた1ページ目には真白が母さんのお手伝いをした事やゲームのガチャでお兄ちゃんが欲しがっていた強いキャラを当てたなど、何でもない様な日常のいい事を書き綴った日記だと思えた。
しばらく、日常のいい事を書いていたが5ページ目から何もかもが変わってしまっていた。
『お兄ちゃんがねむっちゃった。お母さんがお兄ちゃんはとおくでこまっている人のところに行ったんだって言ってた。でも、しばらくはかえってこれないって言ってた……やっぱりお兄ちゃんはやっぱりすごいヒーローなんだ。けど、お兄ちゃんとあそべなくなるのはさびしいなぁ。お兄ちゃんがはやくかえってこれますように!』
その日記には少しずつ寂しいや悲しいと続き、終いにはどうしたらお兄ちゃんは帰って来てくれるか、何てことが書いてあった。そして……
『ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい……お兄ちゃん』
と書かれたページを見て陽色は日記を閉じた。これ以上を読むことは苦痛に感じ、自身の弱さに嫌になりながら陽色は布団に潜り瞼を閉じる。眠ったら全て無かった事になる事を願って。
うっすらとした意識の中に何処か遠くから音が聞こえてくる。薄目を開けて外が明るくなっている事を確認するともう一度夢の中に戻ろうとするが、
ドーン!
「おわっ!」
建物が大きく揺れ、遠くから何らかの爆発音が聞こえる。慌てて飛び起きると窓の外を見ると遠くで黒煙がいくつも上がっていた。すると、桁魂しくサイレンが鳴り始める。
「な、何だ?地震か?と、とりあえず服を着るか?」
するとプルルルと電話の音が聞こえてくる。陽色が耳を澄ませると真白の遺品の段ボールから音がしていた。
恐る恐る覗くと段ボールの中には真白のスマホと思われる物が入っており、そのスマホが鳴っており、スマホには魔法少女局と表示されていた。
何事なのかと陽色は電話に出ると電話向こうの男は激しく怒鳴り散らした。
「遅いぞ!電話にはワンコールで出ろと下葉係長に習わなかったのか!コレだから使えないグズ達は」
「は?」
「魔人が出た、数はおよそ30体。貴様らにも前線に出て戦って貰うぞ!ただでさえ貴様らのチームの使えないクズが私達に迷惑をかけたんだからな!少なくとも魔人を10体は倒して貰わなければな!」
「あー?あんた誰?」
「誰だと!私は部長だぞ!近頃の奴は敬語も使えないのか!良いから今すぐ準備して行け!未録字が先行して向かっている!」
「あの、あんた電話かけ間違……切れたし」
電話向こうの相手はこちらの話も聞かぬまま電話を切る。
突然の電話に呆気に取られてた陽色はまたかかって来たコール音に驚くが、次の電話は部屋に備え付けられていた固定電話だった。
「はい、もしもし」
「陽色か!お前、まだ部屋に居るか?」
「と、友也か。良かった、今度は話が通じそうだ」
「何の事かわからないが、街に魔人が出現したらしい。調べた感じお前のいる建物は避難区域じゃないから、その部屋で大人しくしてろよ。今、魔法少女達が対処しているからな」
「ああ、さっき電話がかかってきたよ。真白のスマホがあの段ボールに入っててさ、何かお前も前線に行けって言われたよ」
「はあ⁉︎バカな、非戦闘部隊を前線に?何を考えてるんだ!」
「何か部長とか言ってたかな?もう未録字は行ったって」
「あ……あのくっ……わかった。情報感謝する。アイツの電話は無視してくれ、お前はサイレンが鳴り止むまでその部屋で大人しくしていてくれ。良いな」
「……わかったよ」
電話の向こうでは安心したような安堵の息が聞こえると友也は再度、部屋から出ないように注告して電話を切る。
友也の声を聞いたからか先程までの焦りは無くなり冷静に頭を働かせる。
「あんな部長の下で友也は働いているのか……それに非戦闘部隊って未録字ちゃんに死にに行かせたのか?魔法少女を国はどんな扱いしてんだよ。助けに行くか?でも、俺じゃ戦えないし……」
そんな事を思い部屋から外の黒煙が登る場所を眺める。あそこで未録字や色々な魔法少女が戦っているのだろうと目を細めて見つめる。
すると、黒煙から少し離れた場所で黒い何かが少女と思わしき誰かを追いかけている様子が見えた。
黒い何かは少女に近づくと土煙が舞い、少女の姿が見えなくなる。そんな様子を見て陽色は背筋が凍り、足が震え、倒れそうになり近くの机に倒れ掛かる。
すると、机の上から何かが落ちる。
「あっ……」
床には真白のヒーロー日記と四芒星のバッジが落ちていた。日記には『お兄ちゃん。私はもう泣きません、俯いて弱音も吐きません。お兄ちゃんが最後に守ってくれたみたいに魔法少女としていっぱい人を助けます!だから、このバッジから私に、お兄ちゃんの勇気を分けてね!』と書かれた字が目に入った。
「……情けない。俺は、兄ちゃんは別に凄い奴じゃないのにさ、お前の前でただカッコつけただけなんだよ。けど、そうだよな。こんなんじゃあヒーローじゃないよな」
落ちた四芒星のバッジを握りしめると先ほどまでの震えは嘘のように無くなり、陽色は部屋を飛び出し全速力で走り始めた。




