第3話 妹の友人
「陽色君、ここが今日から貴方に住んでもらうアパートよ」
押花に案内されて向かった先は6階建ての白い建物だった。
「こんないい場所に住んでいいのか?」
「ええ、この建物は政府が管理しているから私と友也さんが生きてる限り陽色君が負担する家賃も光熱費もゼロよ」
「おお!ありがとう押花さん」
「でもね、ここに住む以上陽色君は果たさないといけない義務が発生ます。1つは政府が管理している農耕地を耕さないといけない義務、それと当番になれば魔法少女寮の共用場所の清掃をしてもらう義務の2つね」
「農耕地の耕し?それって農業をしろって事か?それと魔法少女寮ってなんだ?」
「そうね。説明の前にまずは陽色君の部屋に行きましょ」
「わかった」
陽色は押花と共に建物に入ると玄関の正面にエレベーターがあり、そこから1人の青年が降りてきた。
「あれ?下葉先生?僕達のアパートに何かご用意ですか?」
青年は心配そうに押花に話しかける。
「ええ、このアパートの新しい住人を案内している所なの。色々と面倒を見てほしいわ」
押花は陽色を目の前の青年に紹介する。陽色も一歩前に出ると目の前の青年に挨拶をした。
「俺は望木陽色。色々と迷惑をかけるかも知れないがこれからよろしく」
「僕は夜話新太。これからよろしくね」
夜話と握手を交わすと押花は不思議そうに夜話に尋ねた。
「でも新太君はなんでここに?今の時間は農耕地に全員行っているんじゃないの?」
「えーと、それは……大切な道具を部屋に忘れたから取りに行ってて」
「そうなの?邪魔をしてごめんなさいね」
「いえ、それじゃ僕行きますね」
夜話は駆け足で建物から出ていく。陽色達は夜話が降りてきたエレベーターに乗り込んだ。
「そう言えばあの子、押花さんの事を下葉先生って呼んでいたけど」
「あっ、ええ。言い出すタイミングが無くて言えなかったんだけど私と友也君、結婚したのよ」
「やっぱりそうか。おめでとう。友也は馬鹿だから君みたいなしっかりした人がそばに居てくれて安心したよ」
「ウフフ、ありがとう。真白ちゃんにも似たような事を言われたわ」
下葉菫は気恥ずかしそうに微笑むとエレベーターが目的の階に止まる。
エレベーターを降りて陽色達は516と書かれた部屋を鍵を開けて入る。部屋の中には冷蔵庫やIHコンロ、エアコンなどの家電製品が置かれていた。
「ここが陽色君に住んでもらう部屋よ。間取りは一般的な1Rで家具家電付き、故障が起きたら紙に書かれている電話番号に連絡すれば交換して貰えるわ。他に何か聞きたいことはある?」
「世界が滅びかけてるってのに普通に生活出来るんだな」
「魔法少女達のおかげよ。彼女達の中には電気を起こす魔法を使える子がいるの。そうした暮らしに関わる魔法を使える子は政府が保護して魔人との戦いから離されているのよ」
「へー、魔法って凄いな」
陽色は蛇口を捻ると綺麗な水が流れ、それを少し口に含む。すると水は変わらず記憶通りの水の味がした。
「そうね。もう私達の生活には魔法少女達の力が必要不可欠なの」
座らないかと菫に促されて陽色は席に着く。菫はカバンからタブレットを取り出すと契約書と書かれた資料を見せた。
「ここに名前を書けばこの部屋は陽色君の部屋になるわ」
「その前にここに住む為の義務について説明して欲しいが」
「もちろん。まず、農耕地の耕す事だけど入り口で会った夜話君を見て陽色君は何歳だと思った?」
「え?……だいたいじゅう……13くらいか?」
「惜しいわ、14歳よ」
「それがどうしたんだ?」
「今の日本では彼は立派な大人なのよ」
「はあ?14だったら中学生だろ?義務教育はどうしたんだよ」
「残念だけど、法律が変わってね。男女とも成人年齢は12歳に引き下げられたのよ」
「つまり、俺は未成年からいつの間にか成人になったのか。それで、大人だから働けと」
「そうね。それに18歳までに結婚していなければ国から強制的に結婚をさせられる法律も出来てるのよ」
「それはひどく……ああ、魔法少女が居なくならないようにか」
「ええ、私達の時は少子化問題があったのに今ではそんな話は聞かなくなったのよ」
「人権問題はどうなってんのか聞きたいけどな」
「人権は……人類滅亡の危機にそんな事をいちいち気にしていられるかって少し前の総理が言い切ってね。一時的に無視されてるわ」
「凄いな、その総理」
「ええ。それで今のご時世、結婚相手は確実に魔法少女が相手になるんだけど顔を知らない相手と結婚したいと思えないでしょう?だから」
「寮の清掃をって事か」
「ええ。清掃なんて言ってるけどあの子達と少しでも関わりを持って欲しいのよ。私達も強制的に結婚させるのは本意では無いから」
「なるほど、よくわかった」
陽色は少し考えたが大きな問題があるようには思えなかった為タブレットに映し出された契約書へ名前を書いた。
「これで契約は終了よ。後は食べ物だけど近くのスーパーまで一緒に」
テロロロン、テロロロン
「あら電話が、少し外すわね」
菫が部屋の隅で電話をし始める。陽色は部屋の窓辺に近づき外の景色を眺める。外は電車が走り、人々が忙しそうに歩いていた。
「10年後には空を飛ぶ車があると思ってたんだけどな。昔と変わらないな」
「ごめんなさいね。陽色君、今電話で真白ちゃんの遺品についての話をされたのだけど、受け取る?」
「真白の?受け取りたいとは思うが何か問題が?」
「ええ、真白ちゃんと仲の良い子が遺品の受け取り人と合わせて欲しいって言っているの」
「真白の友達が?別に良いけど」
「良かったわ。あの子は真白ちゃんと凄く仲が良かったから、私達でも知らない事を聞けるかも知れないわね」
陽色はまた菫に連れられて高層ビルに案内された。1階は受付のようなエントランスになっており四方の壁がガラスになっており、所々に椅子とテーブルが並んでいた。
その1つに先程別れた友也と段ボールを抱えて俯く少女が居た。
「あの子か?」
「ええ」
菫が机に向かって行くと友也も菫に気がつき目の前の少女に話しかけた。少女はこちらを振り向くと抱えていた段ボールを地面に落としてしまった。
「友也さん、お連れしました」
「菫さん、ありがとうございます。未録字さん、彼が真白さんの遺品を受け取る望木陽色さんだよ」
「どうも。真白の兄の陽色です。妹と友人だったと聞いています。あの子と仲良くしてくれてありがとう」
陽色は目の前の少女に当たり障りの無い挨拶をしたが彼女は赤く腫れた目を見開き、信じられないモノを見るようにこちらを見ていた。
「妹と友人だったのなら聞いているかも知れないが俺は少し前まで死んでいてね。今日、どういうわけかわからないが蘇ったんだ」
「う、嘘」
「未録字さん、俺も目を疑ったがコイツは正真正銘真白さんの兄の陽色だ」
「……」
少女は開いた口が塞がらないようで、友也が座ることを促すとやっと落とした段ボールを慌てて拾い直した。
「それで未録字さん。法律上では真白さんの遺品は親族である彼が受け取る事になるが問題は無いかい?」
「はい……」
「では、望木陽色さん。真白さんの遺品を受け取る事に何か問題がありますか?」
「……えーと、みろくじさん?」
「はい」
「君は真白の友達なんだよね?」
「はい。真白ちゃんにはずっと、支えてもらってて……」
「そうか。真白もこんなに思ってくれてる友達が居てくれるなんて羨ましい」
「いえ……そんなんじゃ」
「……もしかして、真白の遺品が欲しかったのか?」
「……そうかも知れませんね。でも、有っても困りますから」
「困る?」
「はい、自分の遺品で誰かを泣かせている、なんて知ったら真白ちゃんは困るでしょう?」
「確かに」
「だから、これは貴方が持っているべきです」
そう言うと未録字は真白の遺品を陽色に渡す。
真白の遺品は思っていたよりも軽く、ガラガラと小物の多そうな音がした。
「今日はお時間を頂いてありがとうございました。お会いできて良かったです」
「俺も真白の友人に会えて良かった。……そう言えば、1つ聞きたかったんだけどいいか?」
「はい、何でしょう?」
「君から見て妹はどんな感じだったんだ?明るい人だとか暗い奴か?それとも怒りやすい奴だったとかか?何でもいい。魔法少女だった妹は友人の君から見てどんな感じだったんだ?」
未録字はほんの少し考えるとはっきりと力強く言い切った。
「ヒーローでした。いつも困った人を見つけては助ける、明るく優しいヒーローでしたよ」
そう言った彼女の目は先程まで有った危うさを無くして、優しい光を宿していた。
「そうか。あいつはヒーローに憧れてたからそう言って貰えて嬉しいだろうな」
陽色は幾つか真白の事を聞くと彼女は嬉しそうに話してくれた。しばらく話していると友也はわざとらしく喉を鳴らした。
「未録字さん、そろそろ次の会議の話し合いがあるんじゃなかったか?」
「あっ、すみません。話に夢中になっていました。それでは、私はこれで」
急いで席を立った未録字は慌てて階段を駆け上がって行った。
「悪いな、話を邪魔してしまって」
「いや、俺のせいで彼女が責められたら悪いからな。止めてくれて助かった」
「そうか」
「あの子を見てわかったよ。真白は俺が思ってたよりも誰かを助けていたんだな」
「ああ、彼女の優しさは多くの魔法少女達の支えだった。それに……俺達の様な魔法少女達に関わる者達にも……」
「それは……兄とすれば誇らしいな」
「クッ……すまないが、俺もまだ仕事が残っているからな失礼させてもらう」
そう言って友也は建物の外へ歩いていく。
「あっ!友也」
「なんだ?」
「結婚おめでとう」
「それは……今言わないといけないのか……」
「ああ。言える時に言わなかったら言えなくなる可能性があるからな」
「……ありがとう」
そう言って友也は振り返らずに外へ出て行く。その背中には表に出さない怒りが感じられた。
「菫さん」
「え、え?どうしたの?」
「真白の遺品を持って帰りたいんだが帰り道がわからないんだ。案内してくれないか?」
「あー、もちろん」
何とも言えないような表情をしていた菫は顔を叩くと気持ちを切り替えたのかこちらを見てにこやかに笑った。
「よし!行こうか!」
「あ、ああ。お願いするよ」




