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姫の転生・暗殺事件   作者: NANO
第1章:物語という名のミステリー
4/5

File.03 姫の失礼事件

姫が今の状況について思考を巡らせていた、そのとき――


『キーン コーン カーン コーン』


空気を切り替えるような音が、教室に響いた。


(……まただ、この音)


初めて聞くはずなのに、なぜか意味が分かる。


区切り。終わり。次への移行。


その瞬間。


周囲の生徒たちが、一斉に立ち上がった。


(!?)


(なんだ、この統率……)


合図一つで全員が同時に動く光景に、思わず息を呑む。


(軍の訓練……?)


ふと、記憶がよぎる。


――母がまだ健在だった頃。

許された数少ない機会のひとつ、軍の訓練の見学。


整然とした動き。

号令に従う規律。


(……似ている。でも、どこか違う)


緊張感が、決定的に足りない。


だが――


(王族である以上、示された動きには応えるべきだ)


そう判断した瞬間。


体が、迷いなく動いた。


背筋が自然と伸びる。


指先がスカートに触れる。


視線をわずかに落とし、呼吸を整える。


そして――


優雅に。


気品を保ち。


王族として叩き込まれた、完璧な礼をとる。


――静寂。


一瞬、教室の空気が止まった。


(……?)


違和感。


だが、その正体が分からない。


ゆっくりと顔を上げる。


そこで、ようやく気づいた。


誰一人として――軍と同じ動きをしていない。


(……え?)


軽く頭を下げる者はいる。

だが、それだけだ。


それに、皆は私を驚いた顔で見つめる。


(……違う?)


ほんの一瞬、思考が止まる。


(今のは……ここでのやり方ではなかった……?)


ざわめきが、遅れて広がった。


「え、今のなに?」

「なんかすごくない?」

「てか、めっちゃ綺麗だったんだけど…」


小さな声が、あちこちから漏れる。


(……やはり、誤ったか)


胸の奥で、小さく息をつく。


「皿波さん」


不意に、教師の声が落ちる。


「……今の、何ですか?」


(まずい)


直感が告げる。


これは、正解ではない。


だが――


(では、何が正しい?)


分からない。


分からないが、それでも。


言葉を選び、静かに口を開く。


「……王族として、示された動きに応えるのは、当然のことかと」


――沈黙。


教室が、完全に静まり返る。


誰も、何も言わない。


(……あれ)


先ほどまでのざわめきが、嘘のように消えていた。


そして――


「……はい、じゃあ号令。起立、礼、着席ー」


教師が、何事もなかったかのように進める。


一斉に動く生徒たち。


今度は、誰もこちらを見ない。


(……終わった?)


拍子抜けするほど、あっさりと。


一日の終わりが告げられた。


――しばらくして。


誰もいなくなった教室で。


私は、ひとり考える。


(……もしかして)


窓に映る自分を見つめながら、小さく呟く。


(初日から……浮いてしまった……?)


小さく、息をつく。


窓に映る自分を、ぼんやりと見つめながら。


そのとき――


背後に、気配。


(……っ)


誰もいないはずの教室。


なのに、確かに“いる”。


胸の奥が、強く軋んだ。


――思い出す。


あの夜。

背後から近づく、気配。

振り向く間もなく――


(……だめ)


小さく、体が震える。


けれど。


今度は、違う。


逃げない。


反射的に立ち上がり、振り向いた。


そこに、立っていたのは。


私と、よく似た“少年”。


同じ年頃。

似た輪郭。


けれど――決定的に、何かが違う。


言葉にできない違和感が、全身をなぞる。


その人が、ゆっくりと口を開いた。


「君――ここの“世界”の人じゃないよね」


心臓が、大きく跳ねる。


(……なぜ、それを)


言葉が出ない。


ただ、視線だけが固まる。


その様子を見て、彼は小さく笑った。


「……やっぱり」


確信するような、どこか楽しむような声音。


そして――


「一応、教えておくよ」


動いていないはずなのに、距離が近く感じる。


「君は来年の今頃――」


その声だけが、やけに鮮明に響いた。


「前に殺された時と同じように、また殺される」


――息が止まる。


(……なにを、言っているの)


理解が追いつかない。


けれど、その言葉には――


無視できない“重さ”があった。


「待っ――」


問いかけようとした、その瞬間。


そこにいたはずの姿が――消えた。


まるで最初から、何もなかったかのように。


(……っ)


静まり返る教室。


残されたのは、荒くなった自分の呼吸だけ。


しばらく動けずにいたあと。


かすれた声で、呟く。


「あの人は……何者……?」


答えるものは、誰もいない。


ただ――


さっきの言葉だけが、頭の奥に残り続けていた。


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