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姫の転生・暗殺事件   作者: NANO
第1章:物語という名のミステリー
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File.04 姫の登校事件

朝早く、私は目を覚ました。


ルナミア――ではない。

今の私は、皿波……。

皿波 莉美愛(さらなみ りみあ)


かつて、“外へ出ること”すら許されなかった一国の姫。

けれど今の私は、自由に街を歩き、友達を作り、学校へ通うことのできる存在だ。


……そう。


私は今、“普通の女子高校生”として生きている。


前世で叶えられなかったことを、今世ではたくさん経験したい。

そんな願いを胸に、私は新しい人生を歩き始めていた。


――だが、昨日。


私は授業後、とんでもない失敗をやらかした。


そして、“あの少年”と出会った。


脳裏によみがえるのは、誰もいないはずの教室で感じた、不気味な気配。


振り返った先に立っていたのは――

自分によく似た、謎の少年だった。


彼は私を見るなり、静かに告げた。


「君は来年の今頃、前に殺された時と同じように、また殺される」


その言葉だけを残し、問いかけようとした瞬間には、もう姿を消していた。


まるで、最初から存在していなかったかのように。


――再び、殺される。


その言葉だけが、今も耳に焼き付いて離れない。


疑問と不安を抱えたまま私は制服へ着替える。


……ところで。


きっと誰もが疑問に思うだろう。


“姫は昨日、どこへ帰ったのか”と。


答えは意外にも単純だった。


前世を思い出す前の、かすかな記憶を頼りに歩き続けた結果――無事、自宅へ辿り着くことができたのだ。


その際、母と思われる女性が私を「莉美愛」と呼んだことで、自分の名前も知ることができた。


そして今日。


前世の記憶を抱えたまま、新たな日常を送る――

初めての登校日である。


昨日の帰宅で、自宅から学校まで徒歩十分ほどだと分かったため、私は歩いて向かうことにした。


見慣れない世界。


白と黒が交互に並ぶ床。

赤・黄・青に点滅を繰り返す“三色の灯り”。

前世では見たこともない巨大な建築物が、街中にずっしりと並んでいる。


昨日は気づかなかったが、こんな豪華な建物が“自分の家”だったらしい。


この世界の平民たちは、前世でいう貴族と同等――いや、それ以上の豊かさを持っていた。


(我が国は……発展が遅れていたのか……?)


そんなことをぼんやり考えながら道を渡ろうとした、その瞬間。


――ぐいっ。


突然、誰かに腕を引っ張られた。


「アンタ!危ないじゃないの!」


驚いて振り返る。


そこにいたのは、茶色の帽子にピンクのスカーフ、そして私と同じ服を着た少女だった。


確か、この服は――


「制服……」


「はぁ!? 制服!?

それより、横断歩道を無視して渡るんじゃないわよ!

事故に巻き込まれたら、あたしまで事情聴取されるでしょ!」


「おうだん……ほどう?」


「横・断・歩・道!!

ほら、今緑になったわ!

アンタも咲名学園(さくながくえん)の生徒なんでしょ? 遅刻するわよ!」


言われるがまま、莉美愛は彼女に腕を引かれ、半ば強引に学校まで連れて行かれた。


下駄箱の前で、彼女は振り返る。


「アンタ、何組?」


「え……?」


昨日見た教室の札を思い出す。


「……三組?」


「えっ、同じクラス!?

じゃあ早く上履きに履き替えて! 今ならギリ間に合うから!」


再び腕を掴まれ、私は教室まで引っ張られていった。


莉美愛はふと考える。

 (同じクラスに、このような子はいただろうか……。)

 

教室に到着したその瞬間。


校内に、空気を切り替えるような軽やかな音楽が鳴り響く。


「キーン コーン カーン コーン――」


その音を聞いた瞬間、昨日の出来事が脳裏によみがえった。


王族として当然だと思っていた礼儀作法を、この音の後に披露した結果――盛大に浮いてしまったことを。


……だから今回は、まず周囲を観察することにした。


周りの生徒たちは、軽くお辞儀をすると、そのまま自然に席へ着いていく。


(なるほど……。

この世界では、こう振る舞うのか……)


感心しながら眺めていた、その時だった。


教師が私を見て、呆れたように口を開く。


「皿波さん……またあなたですか。遅刻ですよ。早く席についてください」


(はっ……!?)


気づけば、自分だけ立ったままだった。


周囲を見ることに夢中になりすぎて、自分が行動するのを忘れていたのである。


私は頬を赤らめながら、慌てて席へ座った。


すると教師は、淡々と今日の予定を読み上げる。


「今日の一時間目は国語のテスト。

二、三時間目は四組との合同ドッジボール。

四時間目は数学の二次関数。

昼休憩を挟んで、五時間目は部活動体験。その後は各自下校。以上」


説明が終わった瞬間、教室が一気に騒がしくなる。


「一時間目からテストとか最悪なんだけど〜!」


「四組には絶対勝とうぜ!!」


「部活体験楽しみ〜! どこ行くか決めた〜?」


・ ・ ・


飛び交う声。

笑い声。

机を叩く音。


友人同士で盛り上がる生徒たちを見ながら、私は静かに目を瞬かせた。


(皆……自由に話している……)


前世の城では考えられない光景だった。


王族の前で騒ぐ者などいない。

発言一つにも礼儀と許可が必要で、空気を乱せばすぐに叱責される。


けれど、この世界では違う。


皆が好きに笑い、好きに話し、好きに感情を表に出している。


それなのに、不思議と誰も処罰されない。


――なんて、不思議な世界なのだろう。


そう思った、その時だった。


「……ねぇ」


突然、隣から声が飛んできた。


私はびくりと肩を揺らす。


先ほど私を学校まで引っ張ってきた少女が、じっとこちらを見つめていた。


その目は、どこか探るようだった。


「アンタ……莉美愛だったのね。

随分、雰囲気が変わって気づかなかったわ。」


「へっ……?」


「おとといまでと、なんか違う。」


莉美愛の心臓が、大きく跳ねる。


「“横断歩道って何?”とか言うし、教室でもずっとぼーっとしてるし。

……なんか今日のアンタ、別人みたい」


――別人。


その言葉が、胸の奥へ深く沈んでいく。


まるで、“本当の私”を見透かされたようで。


それに。


彼女は以前の“皿波 莉美愛”を知っているのだろうか。


もしそうなら――

今の私を、どう思うのだろう。


私は慌てて視線を逸らした。


「そ、そんなことは……」


「まぁ、いいけど」


少女は頬杖をつきながら、それでも視線を外さない。


「でもアンタ、前と様子がおかしいのは本当。熱とかあるんじゃない?」


やはり、“元の皿波 莉美愛”と今の私は違うらしい。


当然だ。


中身は、異世界で生きていた第一王女なのだから。


返答に困っていると。


――パンッ。


教師が教卓を軽く叩いた。


「はい、私語はそこまで。テスト始めるぞ」


その瞬間。


さっきまで騒がしかった教室が、嘘のように静まり返った。


そして。


静寂の中、私はまだ知らなかった。


この“普通の学校生活”の中に――

再び、あの謎の少年の影が忍び寄っていることを。


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