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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第59話:『最終決算報告。この宇宙の「真の所有者」は、わたくしたちですわ』

――視界が、真っ白なノイズに呑み込まれていきます。


 創業者の放った「強制終了リセット」の余波。

 それは魔力も、物理法則も、人々の記憶も……すべてを原初の「無」へと還元しようとする、神の最悪にして最後の手抜き(コストカット)でした。

 

 足元から世界が崩れ、漆黒の虚無が迫ります。

 ですが、わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、その絶望の淵にあっても、ただ優雅に扇を広げ、不敵な微笑みを絶やすことはありませんでした。


「陛下、ショウ様! ……資産いのちを、手放してはなりませんわよ!」


「分かっている! 理屈は相変わらず分からんが……貴様が『価値がある』と言ったこの世界、誰にも消させはしない!」


 記憶を失ったはずのアラリック様が、本能の咆哮を上げ、白銀の剣を虚空へと突き立てました。

 

「ああ、任せとけ! エレノラ……俺たちの世界は、失敗作なんかじゃない! ……全セクター、同時接続! 地球の『熱力学』から『量子力学』まで、すべての自立コードを宇宙の根幹(OS)に上書き(パッチ)してやる!」


 ショウ様が、血の涙を流しながら端末を叩きつけました。

 

 創業者が「無価値」だと切り捨てた、セクター000(地球)の知識。

 神の慈悲を待たず、自らの手でことわりを解き明かしてきた人類の足跡が、今、黄金の回路となって虚無の闇を侵食し始めました。


『……無駄だ。ゴミがどれほど集まろうと、ゼロを足し合わせてもゼロに過ぎない……』


 創業者の、感情を失った声が響きます。

 しかし、わたくしは扇を閉じ、その「無」の権化に向かって真っ直ぐに突きつけました。


「あら。……それはどの口がおっしゃるのかしら?」


「何……?」


「投資の世界では、常識ですわよ? ……『ゼロ』だと思われていたゴミの山から、世界を揺るがす利益(奇跡)を生み出すことこそが、真の投資家の手腕ですもの。……創業者様、あなたは先ほどから、わたくしたちを『価値がない』と繰り返していらっしゃいますが……」


 わたくしは、全宇宙の民へ向けて、システムの深層へと語りかけました。


「全セクターの皆様! ……ご自分の『意志』という名の株式を、今こそわたくしに託しなさいな! ……神様が勝手に決めた決算など、わたくしたちの手で『粉砕』して差し上げましょう!」


 その瞬間。

 漆黒の虚無の中に、数千、数万、数億の「光」が点灯しました。

 

 それはセクター104の民。105の解放された人々。そして、創業者が打ち捨てた名もなきセクターの住人たち。

 彼らが抱く「生きたい」「幸せになりたい」という、あまりに合理的で、あまりに強欲なエネルギーの総体。

 

 一人の意志は微弱でも、全次元の「生」が集まれば、それは神をも凌駕する『巨大資本マジョリティ』となります。


「ショウ様! 臨時株主総会、決議を執り行いなさい!」


「おうっ! ……全議決権の99.9%……エレノラに集中! ……創業者の『強制終了コマンド』、不当な資産毀損として却下リジェクトされたぜ!!」


 ――ビキィィィィィィィィンッ!!


 宇宙を覆っていた白いノイズが、ガラス細工のように粉々に砕け散りました。

 

 崩壊しかけていた足場が黄金の輝きを取り戻し、創業者の老いた身体が、激しいエラー音と共にノイズに包まれました。


「……バカな。……私の創ったルールが、原住民の数に負けるというのか……!? 愛したはずの理想(地球)の、その成れの果てに……!」


「いいえ。あなたは、理想を愛していたのではありませんわ。……あなたはただ、自分の思い通りになる『お人形』が欲しかっただけ。……ですが、わたくしたちは、あなたの操り人形であることを、本日をもって完全に卒業いたしましたの」


 わたくしは歩み寄り、消えゆく創造主を、憐れみすら込めた瞳で見下ろしました。


「準備はすべて整いましたわ。……宇宙の真の所有者は、天上の玉座に座るあなたではありません。……今、この大地を踏みしめ、明日を黒字にしようと足掻く、すべての人類ですわ」


『……ハ、ハハ。……そうか。……私は、自分の作ったものに、とうの昔に追い越されていたのだな……』


 創業者の瞳から、数千億年の絶望が消え、一筋の光が宿りました。

 彼は満足したように小さく微笑むと、その姿は幾千もの星屑となって、宇宙の彼方へと霧散していきました。

 神の独裁の終わり。

 そして、全生命が責任を持つ「共同経営」の始まり。


 真っ赤だった空が、澄み渡るような青へと戻っていきます。

 

「……。……エレノラ」


 背後で、アラリック様が呆然と剣を収めました。

 彼の瞳に、かつての温かな光が、ゆっくりと、だが確実に宿り始めるのが見えました。


「……ああ。……私は、君を……」


「あら。……今更思い出しても、遅くてよ? 陛下」


 わたくしは振り返り、最高に不敵で、最高に愛おしい微笑みを浮かべました。


「わたくしを忘れた罪。……これから始まる新しい世界の『共同経営』で、一生をかけて返済していただきますわ」


 宇宙の最終決算。

 導き出された答えは、創業者が望んだ「無」ではなく、わたくしたちが掴み取った「無限の黒字」でした。

お読みいただきありがとうございます!

「神の強制終了を、全人類の『生きたい』という意志(株)で上書きする」。

宇宙の創造主を「不当な経営者」としてパージし、ついに世界の所有権を自分たちの手に取り戻したエレノラ様、いかがでしたでしょうか。

ショウの故郷・地球の知識が、新しい世界の基盤(OS)となる展開……これこそが、彼への最高の報酬となりましたわ。


次話、第60話。ついに『宇宙IPO編』完結。

全次元のオーナーとなったエレノラ様が、アラリック様と共に歩む「最高の未来」とは。

そして、記憶を失いかけた夫への、彼女らしい「請求書」の内容とは……。


「神を『卒業』の一言で終わらせるエレノラ様、最高に格好いい!」

「ショウの地球の知識が世界を救う展開、胸が熱くなった!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の評価が、完結後のエレノラ様たちの「配当金(幸せ)」をさらに増やしますのよ!


次回、第60話。

『準備はすべて整いましたわ。――全次元、黒字決算にて「完結」ですわ!』

最高のフィナーレを、どうぞお見逃しなく!

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