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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第58話:『創業者(ファウンダー)の覚醒。世界を「失敗作」と呼ぶ感性、査定させていただきますわ』

宇宙運営総本部の中心――「臨時管財人」となったわたくし、エレノラ・フォン・ロスタールが辿り着いたのは、光すら届かない静寂が支配する、白銀の回廊でした。

 

 背後には、抜いた剣を片時も下ろさず、記憶はなくとも本能でわたくしを守るアラリック様。

 そして、己の故郷を「廃棄物」と呼ばれた屈辱を噛みしめ、端末を握りしめるショウ様。


「……ここだ。本社の最深部……『セクター000』のマスターデータが眠る、原初のサーバー室だぜ」


 ショウ様の声が、凍てつく空気の中に響きました。

 回廊の突き当たり。巨大な黒い扉が音もなく開き、そこには星の海すら飲み込むような、果てしない「虚無」が広がっていました。

 

 空間の中央。無数の光の糸に吊り下げられた一人の男が、ゆっくりと目を開けました。

 CEOアルファのような、偽りの権威を纏ったスーツ姿ではありません。

 それは、ただの白髪の老人。だが、その瞳には数千億年の絶望が凝縮されていました。


「……また、バグが迷い込んだか。アルファも、ずいぶんと管理を怠ったものだ」


 老人の声が、直接脳内に響きました。それだけで、セレスティーヌ様が悲鳴を上げ、ショウ様の端末が過負荷で火花を噴きました。

 

「ごきげんよう、創業者ファウンダー様。……いえ、あえてこう呼ばせていただきますわ。『無責任な放り出し魔』、と」


 わたくしは扇を広げ、その神々しい虚無の圧力を、冷ややかな微笑で受け流しました。


「……何だと?」


「あら。聞き取れなくてよ? ……わたくしは、この本社の臨時管財人に就任いたしました、エレノラ・フォン・ロスタール。……本日伺ったのは、あなたが立ち上げ、そして放棄したこの『多次元宇宙』という事業の、最終監査を行うためですわ」


「監査、だと? ……バカバカしい。この宇宙に価値などない。……私はかつて、セクター000……地球という名の理想を作ろうとした。だが、あそこは魔法を失い、物理の檻に囚われ、ただ滅びを待つだけの失敗作に成り果てた」


 創業者は、感情の欠落した瞳でショウ様を見下ろしました。


「そこに住む人間も、その残滓であるお前も……すべては無意味なノイズだ。……だから私は、あの世界を捨てた。そして後に作ったセクター104も105も、結局は私の理想には届かぬ『負債』でしかない」


「……っ、ふざけるな! 俺たちの生きてきた時間を、価値がないなんて……!」


 ショウ様が叫びますが、創業者は一瞥もくれません。


「無価値なものは消去する。それが、真の創造主クリエイターの権利だ。……今ここで、すべてのセクターを閉じ、私は再び完全な『無』へと戻ることに決めた」


「あら。……それはどの口がおっしゃるのかしら?」


 わたくしは一歩前へ出ると、その圧倒的な「無」の波動に対し、一分の隙もない姿勢で、優雅に、そして力強く扇を閉じました。


「権利、ですって? ふふ、笑わせないでくださいな。……あなたが『失敗作』と呼び、投げ出したセクター000。……そこでは、あなたが与えなかった魔法の代わりに、人類が自らの知恵で『科学』という名の奇跡を積み上げましたわ。……セクター104でも、あなたが欠陥品と呼んだわたくしたちが、今や神を解任し、自立した経済を回しておりますの」


 わたくしは、シエルに一冊の『宇宙全域・存在価値証明書』を掲げさせました。


「いいですか、創業者様。……あなたが『負債』と呼んだのは、単にあなたが『自分の思い通りにならないもの』を理解できなかったという、経営者としての致命的な無能さの証明に過ぎません。……顧客じんるいが勝手に成長し、利益しあわせを生み出している現状を『バグ』と呼ぶなど、もはや事業主として失格ですわ」


「……何を知った風なことを。……無に勝る価値など、どこにも存在しない」


「あら。……では、査定させていただきましょうか。……あなたの、その『創業者としての存在価値』を」


 わたくしは指を弾きました。

 

「シエル! 創業者がこの数千億年で生み出した『純利益』を算出しなさい!」


「……はい、お嬢様。……算出完了。……創業者が行ったのは『理想の模索』という名の不当な研究開発費の浪費、および『世界の放棄』という名の不法投棄。……生み出した価値は、マイナス無限大ですわ」


「ショウ様! あなたが持ってきた地球の知識。……これをこの宇宙に『再投資』した場合の予測収益は?」


「……っ、ああ! ……全セクターの文明レベルは3000%向上。神に頼らない完全な自立経済が確立される。……利回りは、宇宙の寿命が尽きるまで上昇し続ける計算だぜ!」


 わたくしたちの背後で、セクター104や105から集まった民たちの「生きたい」という意志が、黄金のオーラとなって回廊を照らし出しました。

 

 創業者の瞳に、初めて「動揺」のノイズが走りました。

 自分が「無」だと信じていたゴミ溜めから、自分の理解を遥かに超える「輝かしい黒字いのち」が溢れ出している光景に。


「準備はすべて整いましたわ。……創業者様。……わたくしの帳簿に、あなたのような『不採算な神』を置いておくスペースはございませんの。……本日をもって、あなたを宇宙の源流から『解雇』させていただきますわ」


「……おのれ、原住民の小娘がぁぁっ!!」


 老人の姿が、巨大な漆黒の特異点へと膨れ上がりました。

 宇宙の全リソースを強制的に回収し、すべてを「リセット」しようとする、神の最後にして最悪の損切り。

 

「陛下! ショウ様! シエル! ……この『無能な経営者』に、わたくしたちの生命の『付加価値』を、その身に刻んで差し上げましょう!」


 宇宙の最深部で、最後の決算たたかいが始まりました。

お読みいただきありがとうございます!

「神が『失敗作』と投げ出した世界を、エレノラ様が『超優良資産』と定義し直す」。

ショウの故郷を否定した創業者に対し、最高に不遜な「解雇通告」を突きつけるエレノラ様、いかがでしたでしょうか。


神様、自分の思い通りにならないからって「負債」扱いにするのは、ただの能力不足ですわよ?

どれほど強大な存在でも、エレノラ様の監査からは逃れられません。


「神を『無責任な放り出し魔』と呼ぶエレノラ様、流石です!」

「ショウの地球の知識が、ついに宇宙の最高資本になる展開に震える!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の評価が、エレノラ様が「無能な神」を強制解雇するための、最強の「株主総会決議」となりますのよ!


次回、第59話は『最終決算報告。この宇宙の「真の所有者」は、わたくしたちですわ』。

ついに物語は、真の大団円へ。お楽しみに!

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