第56話:『強制終了(デリート)? わたくしが受理していない決算など認めませんわ』
「……はは、ははは! 終わりだ、エレノラ! このセクターは今、物理定数ごと『無』へと還る! 魂の履歴など、器が消えればただのノイズだ!」
真っ赤に染まったセクター105の空。
宇宙運営総本部のCEO、アルファの狂ったような哄笑が轟きます。視界の端には、この世界の存在確率が刻一刻と削られていく『削除進行度:90%』の不吉な文字。
大地が震え、建物の端からデジタルノイズのように崩壊が始まっていました。
「……陛下、下がっていてください」
わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、記憶を失いながらもわたくしの前に立ち、震える腕で剣を構えるアラリック様の背中にそっと手を添えました。
「……誰かは思い出せん。だが、この『終わり』だけは認められん。……貴様を消させはしない!」
「ええ。そのお言葉だけで、今回の投資は既に黒字ですわ」
わたくしはゆっくりと前へ出ると、頭上を埋め尽くす赤い警告灯に向かって、優雅に、そして冷徹に扇を広げました。
「ショウ様。……本社の『取締役会直通回線』の接続は?」
「……っ、完了だ! エレノラ、無茶だぞ! 本社の役員連中に直接データを送りつけるなんて、そんなの……」
「無茶? いいえ。これは正当な『内部告発』ですわ」
わたくしが指を弾くと、空を覆っていた赤い削除画面に、突如として真っ白な『監査命令書』が割り込みました。
『――緊急停止。セクター104・105の削除処理に、重大な規約違反の疑いあり』
無機質なシステム音声が宇宙に響き渡りました。
98%……99%と進んでいた削除バーが、100%の直前で、まるで目に見えない壁に衝突したかのように停止しました。
「……な、……何だと!? 私の削除命令が……止まった!? なぜだ、私はCEOだぞ!」
空中に浮かぶアルファのホログラムが、驚愕に顔を歪めました。
「あら。CEOだからといって、私情で会社の資産を廃棄して良いとお思いかしら?」
わたくしは、動揺するアルファを見上げ、嘲笑を浮かべました。
「アルファ様。本社の運営規約第11条第4項……『稼働中のセクターを物理消去する場合、その資産価値がゼロであることを第三者機関が証明しなければならない』。……さて、この世界の資産価値は、今まさにわたくしが『新エネルギー(電気)』の導入によって、前期比400%の成長を見せているところですわ」
「それがどうした! 私が価値がないと言えば、それはゴミだ!」
「あら、それはどの口がおっしゃるのかしら?」
わたくしは扇を閉じ、彼を指し示しました。
「あなたが焦ってこの世界を消そうとしている本当の理由……。それは、わたくしが暴き出した『粉飾決算』の証拠を、この世界ごと闇に葬るためではありませんこと? ……シエル、本社の『コンプライアンス委員会』へ送信した資料の要旨を」
「……はい、お嬢様。CEOアルファが過去三千年にわたり、廃棄予定のセクターからマナを横領し、自身のプライベートサーバーの維持費に充てていた証拠物件一式……。先ほど、全役員へ一斉配信いたしましたわ」
「……っ!? 貴様ら、いつの間に……!!」
アルファの周囲に、金色のノイズ――本社からの『強制監査』の鎖が巻き付き始めました。
神の如き権能を振るっていた男が、一瞬にして『横領の疑いがかかった被疑者』へと格下げされたのです。
「アルファ様。……あなたは先ほどわたくしに『強制終了』を宣告なさいましたが……。残念ながら、あなたの『キャリア』の方が先に終了しそうですわね」
わたくしは歩み寄り、膝をつき始めたCEOのホログラムを見下ろしました。
「準備はすべて整いましたわ。……世界を消す前に、ご自分の『身の潔白』を証明なさることね。……もっとも、わたくしが握っている裏帳簿のコピーがあれば、それも不可能でしょうけれど」
空の赤みが引き、元の深紅の空が戻ってきます。
削除の危機は、エレノラの「告発」という一撃によって、法的に差し止められました。
「……エレノラ。……君は一体……」
アラリック様が、呆然とわたくしを見つめています。その瞳には、記憶はなくても「この女には逆らえない」という本能的な畏怖が刻まれていました。
「ふふ、陛下。わたくしはただの『オーナー』ですわ。……さて、アルファ様」
わたくしは、消えゆくCEOに向かって、トドメの言葉を放ちました。
「宇宙運営総本部の『臨時株主総会』。……わたくしも、筆頭株主の一人として出席させていただきますわ。……あなたの解任決議、わたくし自ら採決を執って差し上げますわよ」
『……エレノラァァァッ!! 許さん、許さんぞ……!!』
CEOの悲鳴と共に、ホログラムが爆発するように霧散しました。
ですが、わたくしは知っています。
本当の戦場は、ここではない。全次元を司る本社の『議決権争奪戦』。
わたくしの帳簿に、最大の「純利益」を計上する時は、もうすぐそこまで来ていますの。
お読みいただきありがとうございます!
「世界の消去を、CEOの横領告発で差し止める」。
どれほど絶大な力を持っていても、組織のルール(規約)に縛られている限り、エレノラ様の敵ではありませんわ。
神様の上司を「コンプラ違反」で追い詰める姿、スカッとしていただけましたでしょうか。
いよいよ物語は、全次元の頂点『宇宙運営総本部』での直接対決へ。
エレノラ様が狙うのは、神の座ではなく「全次元の議決権」!
「削除バーが止まる瞬間、最高に痺れた!」
「エレノラ様が株主総会に乗り込むとか、展開が斜め上すぎて好き!」
そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の評価が、エレノラ様が本社の支配権を掌握するための「委任状」となりますのよ!
次回、第57話は『本社株主総会。わたくしの議決権、一割を賭けさせていただきますわ』。
次元を越えた、究極の買収劇をお楽しみに!




