第53話:『宇宙運営総本部CEOの正体。あなたの手口、どこかで見たことがありますわね』
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
ショウ様が抱える端末から、鼓膜を破るような赤い警告音が鳴り響きました。
先ほどまでレガリア女帝の権勢を誇っていた『至天宮』の空間が、飴細工のようにぐにゃりと歪みます。
「エレノラ、下がれ! 空間の座標そのものが書き換えられてる! さっきのミネルヴァの比じゃねえ、本拠地の『ルート権限』そのものだ!」
ショウ様の叫びと同時に、大理石の床が黒いノイズに侵食され、底なしの暗黒へと変貌しました。
その暗黒の中心から、一人の男がゆっくりとせり上がってきます。
神々しい法衣でも、厳めしい鎧でもありません。
男が纏っていたのは、星の瞬きを織り込んだような、異常なまでに洗練された『漆黒のスーツ』でした。
感情の読めない銀色の瞳。その存在だけで、謁見の間の大気が悲鳴を上げ、物理法則が軋むのがわかります。
「……ノルマ未達。どころか、貴重な集電設備を原住民に破壊されるとは。……レガリア、君は本当に『不良債権』以外の何物でもないな」
「あ、ああっ……! アルファ様! 違うのです、この女が不当な干渉を……!」
床に這いつくばっていたレガリアが、男の靴にすがりつこうとしました。
しかし、アルファと呼ばれた男――宇宙運営総本部のCEOが指を軽く鳴らした瞬間。
――ピィッ。
無機質な電子音と共に、レガリアの肉体がノイズに変わり、一瞬にして『無』へと消去されました。
悲鳴すら残さない、完璧な証拠隠滅。
「……ひ、ひぃぃっ……!」
「神よ……本物の、神が……!」
先ほどまでわたくしたちに剣を向けていた魔導騎士たちが、恐怖のあまり次々と泡を吹いて気絶するか、床に額を擦り付けて震え上がりました。
「あら。部下の不始末を物理的に隠滅するとは、随分と手際の良いことで」
わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、レガリアが消えた空間を冷やかに見つめ、ゆっくりと扇を広げました。
「ごきげんよう、宇宙の『社長』様。……あなたが、このくだらない搾取システム(ポンジ・スキーム)の元凶かしら?」
「ごきげんよう、セクター104の『新オーナー』。私はアルファ。世界運営委員会の最高経営責任者だ」
アルファは、わたくしを見て面白そうに唇を歪めました。
「エレノラ・フォン・ロスタール。たかが一つの箱庭のバグが、まさか本社の特許を論破し、隣のセクターを乗っ取るとはね。……君のせいで、我が社の株価はここ数千年で最大の暴落を記録したよ」
アルファが一歩踏み出した瞬間。
空気が「鉛」に変わりました。
次元そのものがわたくしたちを押し潰そうとする、管理者の『絶対的威圧』。周囲の柱にヒビが入り、気絶していた騎士たちが血を吐いて痙攣します。
「くっ……!」
アラリック様がわたくしの前に立ち塞がり、全身の筋肉を軋ませながら剣を構えました。セレスティーヌ様のデバッグ光がアラリック様を覆いますが、それでも防ぎきれないほどの質量の暴力。
「……ひれ伏したまえ、原住民。君たちの資本など、私の権限の前では……」
「あら。……それはどの口がおっしゃるのかしら?」
わたくしは、アラリック様の背中から一歩横へ出ると、その圧倒的な重圧の中、一分の隙もない姿勢で背筋を伸ばし、アルファを真っ向から睨み据えました。
「シエル。今の物理的威圧を『不当なハラスメントおよび業務妨害』として、損害賠償請求リストに即座に追加なさい。……単価は金貨一億枚からですわ」
「……承知いたしました、お嬢様。証拠映像のバックアップ、既に多重化して保存済みです」
背後で、シエルが涼しい顔で羊皮紙にペンを走らせました。
アルファの銀色の瞳が、初めて微かな「驚愕」に揺れました。
「……神の威圧を、ただの『迷惑行為』として処理するのか? 君の傲慢さは、プログラムの想定を超えているな」
「傲慢? いいえ、これは『事実』ですわ。……アルファ様。あなたのその威圧……莫大なエネルギーを浪費して相手を怯えさせる手口。どこかで見たことがあると思ったら、わたくしを追放したあの愚かな元婚約者と全く同じですわね」
わたくしは扇を閉じ、彼に向かって突きつけました。
「実力のない経営者ほど、無駄な権威で威嚇する。……あなたの宇宙法人は、自転車操業の末期ですわ。Aの世界を削ってBの世界を維持し、行き詰まれば消去する。……そんな三流の多重債務者が、わたくしにひれ伏せですって? ……笑わせないでくださいな」
「……三流、だと?」
アルファの顔から笑みが消え、その空間の温度が絶対零度まで下がりました。
しかし、彼の視線が、わたくしの背後で必死にコンソールを叩いているショウ様で止まりました。
「……そのコード。本社の防壁を迂回するそのロジック。……なるほど」
アルファの目が、細められました。
「お前、『セクター000(ゼロ)』の廃棄物だな? ……魔力という概念を生み出せず、物理法則だけで進化し、自滅の道を歩んだ『失敗作のプロトタイプ』……地球の生き残りか」
「……っ!?」
ショウ様の手が止まり、その顔から血の気が引きました。
「そうか。セクター104が急激に文明を加速させた理由がわかった。……他世界の著作物を持ち込むのは、明らかな規約違反だぞ、エレノラ・フォン・ロスタール」
アルファの姿が、再びノイズに包まれ始めます。
「交渉は決裂だ。……これより、宇宙運営総本部はその全リソースを用いて、君たちのセクターへの『強制的資産差し押さえ(武力制圧)』を開始する。……せいぜい、その帳簿を抱きしめたまま、無へと還るがいい」
「あら、敵対的買収(TOB)の宣戦布告かしら?」
消えゆくCEOに向かって、わたくしは最高に不敵な微笑みを返しました。
「準備はすべて整いましたわ。……本社からのガサ入れ、受けて立ちますわよ。……せいぜい、最高級の『違約金』を用意して乗り込んでくることですわね!」
お読みいただきありがとうございます!
「次元の威圧を、ただの『パワハラ』として慰謝料請求する」。
神々のトップであるCEOが現れても、エレノラ様の「買い叩き」のスタンスは微塵もブレませんわ。
絶望的な状況でも、彼女が口を開けばすべてが「経済交渉」に変わる……この無双感、スカッとしていただければ幸いです。
そしてついに明かされたショウの故郷「セクター000(地球)」の秘密。
本社は全戦力を挙げてエレノラ様の世界へ侵攻を開始します。
一世界 vs 全宇宙。
「パワハラ扱いは笑った! エレノラ様強すぎる!」
「ショウの伏線回収がここに来て熱い!」
そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の評価が、本社の総攻撃を迎え撃つための「帝国防衛予算」となりますのよ!
次回、第54話は『多次元艦隊の襲来。迎撃の狼煙は、すべて「特許無効化」で上げなさい』。
究極の頭脳戦(防衛戦)が始まります。お楽しみに!




