第52話:『強制解任。あなたの「幸福」は、誰かの犠牲でできていますの?』
「永久追放だと!? 笑わせるな、下等な原住民が! 騎士たちよ、その不遜な女を八つ裂きになさい!」
レガリア女帝のヒステリックな絶叫が、黄金の謁見の間に響き渡りました。
重装の魔導騎士たちが一斉に剣を抜き、殺気を放ってわたくしに迫ります。同時に、女帝自身の背後にある魔導光輪が極大の輝きを放ち、至天宮そのものを焼き尽くすほどのマナが収束し始めました。
ですが、わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、一歩も退くことなく、ただ静かに扇で口元を覆いました。
「あら。……それはどの口がおっしゃるのかしら?」
わたくしが視線を向けた先では、アラリック様が剣を抜くことすらせず、ただ冷ややかな目で騎士たちを見据えていました。
「ショウ様。……不当な搾取システム(仮想現実)の強制終了を」
「おうよ! 夢の時間は終わりだ。……全員、現実の帳簿に戻ってきな!」
ショウ様が手元のコンソールを強く叩いた瞬間。
《バランス・シート》号から放たれた『覚醒のパルス』が、地下に広がる生体バッテリーの光の檻へと直撃しました。
――パキンッ!
空気を劈くような、何かが砕ける音がしました。
数万の民を眠らせていたカプセルから、淡い光が次々と消えていきます。彼らが見させられていた『偽りの幸福な夢』が、ショウ様のデバッグ・プログラムによって強制的にシャットダウンされたのです。
「な……っ!? マナの供給が、止まっ……!?」
レガリアの顔が、驚愕に引き攣りました。
彼女の背後で太陽のように輝いていた魔導光輪が、不快なノイズと共に明滅し、次いで『パリンッ』と無惨に砕け散りました。
収束していた致死の魔法は、火花一つ残さずに霧散します。
「な、なんだこれは……! 私の剣が、重い……!?」
「魔法が、使えない……! 我々の力が……!」
襲いかかろうとしていた魔導騎士たちもまた、バタバタと膝をつき、重たい鉄の剣を床に落としました。
彼らの力を支えていたのもまた、地下で眠る民衆から吸い上げた『命の前借り』だったのです。
「どういうことよ! なぜシステムが止まるの!? 本社からのプロトコルは完璧なはず……!」
「完璧? ふふ、笑わせないでくださいな」
わたくしは、床に這いつくばる騎士たちの間を優雅に通り抜け、玉座の階段を一段、また一段と上りました。
「仮想現実で夢を見せている間、脳から分泌される魔力を吸い上げる……。確かに、一時的な利益を生むには効率が良いかもしれません。ですが、民の肉体は確実に衰弱していく。……これのどこが『完璧な循環』ですの? これはただの、命の切り売り(タコ足配当)ですわ」
わたくしはシエルから一通の書状――本社へのハッキングで得た『真の監査報告書』を受け取り、レガリアの顔の前に突きつけました。
「あなた、自分が『本社に選ばれた寵児』だと思い込んでいらしたようですが……。この報告書には、こう書かれていますわよ。『セクター105の支配者レガリアは、マナ回収のための使い捨ての集電装置に過ぎない。民が死に絶えた後は、不良債権として破棄する』……と」
「……え……? う、嘘よ……。ミネルヴァ様は、私に永遠の栄華を約束して……!」
「嘘を重ねるのはお止めなさい。……他者の命をすり潰して得た光で、自分だけが輝けると本気で信じていたのなら、あなたは経営者として無能なだけでなく、人間として『不良品』ですわ」
レガリアが、ガタガタと震えながら後ずさりました。
玉座に縋り付こうとした彼女の手から、豪華な指輪が滑り落ち、虚しい音を立てて大理石の床を転がっていきます。
周囲の騎士たちの顔にも、絶望と後悔の色が浮かんでいました。
自分たちが守ってきた『神聖な光』が、地下で眠る家族や同胞の命を削って作られていたという真実。
彼らはもう、わたくしに剣を向ける気力すら失い、ただ深く頭を垂れていました。
「エ、エレノラ……! 待って、お願い……! 私は騙されていたのよ! 本社に、悪い役回りを押し付けられただけ……! だから、私を殺さないで……!」
すべてを失った女帝が、みすぼらしく床に這いつくばり、わたくしのドレスの裾を掴もうとしました。
ですが、わたくしは冷たく一瞥するだけで、彼女の手を扇でピシャリと叩き落としました。
「……言い訳は結構ですわ。わたくしの帳簿に、他人のせいにして逃げる経営者を救済する項目はございません」
わたくしは玉座の前に立ち、謁見の間全体に響く声で宣告しました。
「レガリア。あなたは本日をもって、すべての権限と財産を剥奪されます。……あなたが向かうべきは、本社でも、玉座でもありません。……あなたが搾取し続けた民衆たちの前で、一生をかけてその『負債』を労働で返済するのですわ」
「嫌っ……! ああぁぁぁぁっ……!!」
玉座の間から、かつての女帝の惨めな絶叫が響き渡りました。
「シエル。この宮殿の全資産を差し押さえ、民の救済資金に充てなさい。……ショウ様、本社のサーバーへの接続経路は?」
「……特定した。だが、エレノラ、気をつけろ。……レガリアのシステムがダウンした瞬間に、本社の中枢から『超高位のアクセス』があった。……ミネルヴァなんか比じゃない、本物のバケモノだぞ」
ショウ様の端末が、真っ赤な警告音を発していました。
「あら。……トカゲの尻尾切りに失敗して、ついに『頭』がお出ましになるのかしら?」
わたくしは、誰も座る者のいなくなった黄金の玉座を冷ややかに見下ろしました。
準備はすべて整いましたわ。
宇宙運営総本部の皆様。……わたくしの監査は、あなたたちの懐の最も深い闇まで、逃さず暴き出して差し上げますわよ。
お読みいただきありがとうございます!
「他人の犠牲で成り立つ幸福など、ただの負債ですわ」。
民衆をバッテリーにしていた外道女帝の魔法を止め、彼女が「本社に捨てられるだけの使い捨て電池」だったという真実を突きつけるエレノラ様、いかがでしたでしょうか。
圧倒的な格上感からの、容赦のない没落描写。
謝罪を一切受け入れず、労働での返済を命じる冷徹なざまぁに、スカッとしていただければ幸いです。
しかし、セクター105を制圧した直後、本社の中枢から「本物のバケモノ」の気配が……。
ミネルヴァ以上の強敵が、いよいよエレノラ様の前に立ちはだかります。
「女帝が這いつくばる姿、最高に爽快!」
「エレノラ様の『どの口が~』の安心感!」
そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の評価が、本社の黒幕を買い叩くための「特別監査予算」となりますのよ!
次回、第53話は『宇宙運営総本部CEOの正体。あなたの手口、どこかで見たことがありますわね』。
最大の敵の正体に迫ります。お楽しみに!




