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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第51話:『神聖レガリアの贅沢三昧。その維持費、どこから出ていますの?』

「――不遜ですわよ、成金の小娘」


 黄金に輝く大理石の床。幾千もの魔導ランプが昼よりも明るく、香油の香りが立ち込める『至天宮』の謁見の間。

 わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、左右を居並ぶ重装の魔導騎士たちに囲まれながらも、最高に優雅な足取りでその深部へと歩を進めました。


 玉座に座るのは、深紅の法衣を纏い、背後に太陽を模した魔導光輪を背負った女。セクター105の支配者、女帝レガリア。

 彼女が軽く指を動かした瞬間、空間に凄まじい密度のマナが収束し、わたくしの足元を焼き切ろうと襲いかかってきました。


「あら。ご挨拶にしては、少々『コスト』がかかりすぎていらっしゃいませんこと?」


 わたくしは扇を広げ、冷ややかな微笑を浮かべました。

 次の瞬間、わたくしの背後に立つショウ様が、小脇に抱えた携帯端末(買収艦の演算中枢と直結したもの)を叩きました。


「――デバッグ・コード、展開。……はい、無効。あんた、その魔法一発で民一万人の一日分のエネルギー、ドブに捨てたぞ」


 ショウ様が吐き捨てると同時に、わたくしの周囲に展開された白い演算光が、襲いかかる熱線を「無」へとリバートしました。

 謁見の間を揺らしていた威圧感が、一瞬で、ただのぬるい風へと成り下がります。


「な……っ!? 私の『神罰』を……書き換えただと!?」


「神罰、ですって? ふふ、笑わせないで。……ミネルヴァ様から買い取った仕様書によれば、それは単なる『高出力の粒子放射プロトコル』。……そして、そのエネルギーソースは、本社のサーバーから直接引き出されている『短期借入金』ですわね」


 わたくしは、シエルに一束の『資産査定報告書』を掲げさせました。

 

 ここへ入るまでの数分間で、わたくしは既にこの世界のエネルギー網をハッキングし、その実態を把握しておりました。

 セクター105。魔法が無限にあるかのように見せかけたこの楽園は、実は本社から「将来の税収」を担保に、天文学的なマナを借り入れ続けている、破産寸前の放漫経営国家。


「女帝様。あなたの国を彩るこの美しい光も、騎士たちが振るう眩い剣も……そのすべてが『借り物』。……それも、返済の当てもない、自転車操業の果ての残骸ですわ」


「黙りなさい! 私は選ばれた管理者、本社に愛された寵児よ! この潤沢なマナこそが、私の正当性の証明……!」


「正当性? いいえ、これは『依存』ですわ。……女帝様、あなた、本社のミネルヴァ様から、どのような甘い言葉を囁かれましたの? 『好きなだけ使いなさい、後で清算すればいい』……とでも?」


 わたくしはゆっくりと歩み寄り、玉座の階段に片足をかけました。

 周囲の騎士たちが剣を抜こうとしましたが、アラリック様がその鞘に手をかけただけで、彼らは石のように硬直しました。


「残念ながら、そのミネルヴァ様は、先ほどわたくしが『債務不履行』で本社に突き返して差し上げましたわ。……つまり、今のあなたは、保証人を失ったただの多重債務者(デフォルト予備軍)ですの」


 レガリア女帝の顔から、急速に余裕が消え去りました。

 彼女が誇らしげに背負っていた魔導光輪が、わたくしの指摘に呼応するように、不規則なノイズを発して明滅し始めます。


「……ふん。……いいわ、成金女。……債務だの経営だの、小賢しい理屈を並べても無駄よ。……本社の支援が止まろうと、このセクターには『秘蔵の資産』がある。……それがある限り、私の栄華は永遠なのよ!」


 レガリアが狂ったように笑い、床を杖で叩きました。

 すると、謁見の間の中央が開き、地下から巨大な『光の檻』がせり上がってきました。


 そこには、数千、数万の透明なカプセルに入れられ、眠らされている――この世界の『民』たちの姿がありました。

 彼らの身体からは、細い光の管が伸び、宮殿の基部へと繋がっています。


「……ショウ様。これ、は……」


 わたくしの問いに、ショウ様がモニターを覗き込み、吐き気をこらえるような声で答えました。


「……生体バッテリーだ。……民の精神を仮想現実(夢)に閉じ込めて、その脳から発生する微弱な魔力を吸い上げてる。……本社から借りたマナの『利息』を払うために、こいつ、全国民を電池にしてやがるんだ……!」


 謁見の間を包んでいた香油の香りが、一瞬で、饐えた腐敗臭に変わったように感じられました。

 贅沢な暮らしの維持費。

 その正体は、国民すべての「意識」を担保にした、あまりに非人道的な搾取。


「……ふふ、ふふふ! 見なさい! 彼らは幸せなのよ! 夢の中で望む通りの人生を送り、その余剰分を私に捧げている! これこそが究極の互恵関係、完璧な循環エコシステムじゃない!」


 レガリアの勝ち誇ったような叫び。

 ですが、わたくしは扇を閉じ、今までで最も冷徹な、そして底冷えするような怒りを込めた瞳で彼女を見据えました。


「……循環? 完璧? ……いいえ、レガリア様。……これは、経営者の怠慢を隠すための『資産の切り売り』ですわ」


 わたくしは、シエルに命じ、艦橋へ向けて合図を送りました。


「準備はすべて整いましたわ。……自分の不手際を国民に押し付ける無能なオーナー。……本日をもって、あなたをこの世界の経営者から『永久追放』させていただきます」


 わたくしの宣言と共に、至天宮の外で、《バランス・シート》号の巨大な放電装置が唸りを上げ始めました。

 神聖レガリアの『偽りの光』を、わたくしの『資本の正論』で、根こそぎ消し去って差し上げますわ。

お読みいただきありがとうございます!

「国民全員をバッテリーにして、贅沢な光を維持する」。

神聖な世界の裏側に隠された、あまりに効率の悪い、そして残酷な「搾取のシステム」。

経営者として失格のレガリア女帝に対し、エレノラ様の怒りの監査が始まります。


夢を見せながら命を吸い上げる……。

この「不当な契約」を、エレノラ様はどうやって破棄(清算)させるのか。

そして、マナを止められた民衆が目覚めた時、この世界はどうなるのでしょうか。


「女帝のやり方が外道すぎて、エレノラ様の『ざまぁ』が待ちきれない!」

「ショウの解析が今回もいい仕事してる!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の評価が、エレノラ様が国民のカプセルを解錠するための「システム解除コード」の精度を上げますのよ!


次回、第52話は『強制解任。あなたの「幸福」は、誰かの犠牲でできていますの?』。

清算の嵐は、まだ止みませんわ。お楽しみに!

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