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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第49話:『特許侵害? わたくしの文明を真似したのは、そちらの方でしょう?』

「……定款、だと? そんな古い規約を持ち出して何になる! 今のこの宇宙を支配しているのは、我ら本社の最新規約だ!」


 ミネルヴァの鋭い声が、執務室の空気を切り裂きました。彼女の周囲に浮遊する金色の文字が、怒りに呼応するように激しく明滅しています。

 ですが、わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、手元の紅茶を一口啜り、完璧な所作でカップをソーサーに戻しました。


「あら。最新規約、ですか。……ミネルヴァ様、あなたは投資の基本をご存知ないのかしら? どんなに新しい規約を作ろうとも、その根底にある『創業時の基本合意プロトコル』を上書きするには、全セクターの所有者の同意が必要ですわ」


「な……っ」


「今のこの世界(セクター104)の所有者は、このわたくし。……わたくしが同意していない最新規約など、ただの『押し売りされたチラシ』と同義ですわ。……シエル、彼女が持ってきたその『訴状』。……シュレッダーにかけるのは忍びないですから、裏紙として再利用できるようにしておきなさい」


「承知いたしました、お嬢様」


 シエルが冷徹な手つきで、ミネルヴァが投影した光の訴状を『物理的に』掴み取り、折り畳みました。本社の魔導技術を物理的に処理するその光景に、ミネルヴァの瞳に初めて「理解不能なものへの恐怖」が宿りました。


「貴様ら……! 認めないぞ、そんな屁理屈! そもそも、貴様らが使っている『電気』の発生原理、磁場による誘導……これはセクター001で数万年前に登録された、本社の独占特許だ!」


 ミネルヴァが指を弾くと、空間に膨大な技術図面が展開されました。

 それは確かに、ショウ様がこの大陸に広めた発電技術の根幹。管理者の誇る、絶対的な知的財産の壁。


「……あー、それ。ちょっといいか?」


 傍らで欠伸をしていたショウ様が、面倒くさそうに片手を上げました。彼はミネルヴァが提示した図面を指先でスクロールし、鼻で笑いました。


「ミネルヴァさんだっけ? あんたらの言うその『特許』、俺のいた世界じゃ『ファラデーの法則』って呼ばれてる、ただの物理現象なんだよ。……しかも、あんたらが特許申請した日付より数百年も前に、俺の世界の教科書に載ってた『公知の事実』だ」


「……コウチ、ノ、ジジツ……?」


「そうさ。あんたらの本社は、よその世界で自然発生した技術を勝手にパクって、自分たちの特許だと偽って管理してたわけだ。……これ、現代風に言うなら『特許トロール』って言うんだぜ? 最低だな」


 ショウ様が懐から取り出した、現代の物理学書(を彼が書き写したもの)。そこには、ミネルヴァが掲げた図面よりも遥かに洗練された、純粋な論理が刻まれていました。


「……あら。ミネルヴァ様、聞こえましたかしら? 本社が誇る知的財産は、実は『他世界の盗作』だった。……これ、全次元に公表されたら、本社の株価はどうなってしまうのかしらね?」


 わたくしは扇を広げ、顔面を蒼白に染めるミネルヴァに歩み寄りました。


「お、脅しのつもりか……! 我々を誰だと思っている!」


「脅し? いいえ、これは正当な『カウンター・オファー』ですわ。……特許侵害を訴えるというのなら、わたくしも訴えさせていただきます。……本社が数千年にわたり、他世界の共用財産である物理法則を私物化し、わたくしたちから不当に『魔法の利息(寿命)』を搾取し続けた罪。……その損害賠償額、試算アセスメントさせていただきますわね」


 シエルが、さらにもう一束の書類を叩きつけました。

 そこには、大陸の人口推移と、マナ消費による寿命の短縮分を「金貨」に換算した、血の滲むような巨額の数字が並んでいました。


「過払い利息、および不当利得の返還。……総額は、黄金国の全資産を差し押さえても足りませんわ。……さあ、ミネルヴァ様。……裁判(監査)を続けましょうか? それとも、今すぐこの場でわたくしと『新しい契約』を結びますかしら?」


「……っ、……っ!!」


 ミネルヴァの膝が、屈辱に震えています。

 彼女が連れてきた管理ユニットの少年は、もはや彼女を助けるどころか、エレノラの背後に隠れて震えていました。


「……認めない……! こんな、原住民の少女に、本社の権威が……!」


「あら、それはどの口がおっしゃるのかしら? 権威を盾に弱者を搾取することしか能のない、不採算な経営者(本社)の方」


 わたくしは、動けなくなったミネルヴァの耳元で、冷たく囁きました。


「準備はすべて整いましたわ。……あなたが戻って報告する場所。……『セクター105』の裏帳簿、わたくしのシエルが既にコピー(押収)しておりますわよ。……次に会う時は、法廷ではなく、わたくしの『買収会場』でお会いしましょう」


 ミネルヴァの姿が、ノイズと共に掻き消えました。

 それは敗走以外の何物でもありませんでした。


「ふふ、……逃げ足だけは一流ですわね」


 わたくしは扇を閉じ、静まり返った執務室を見渡しました。

 アラリック様が、呆れたように、しかし誇らしげに笑っています。


「エレノラ。……君は本当に、神の上司すらも一兵卒のように扱うのだな」


「あら、陛下。……わたくしにとっては、相手が神であろうと役人であろうと、『債務者』であることに変わりはありませんもの」


 わたくしの視線は、既に窓の外、空の向こうへと向いていました。

 セクター105。黄金国が管理を放棄し、本社の腐敗が最も凝縮されているという「不良債権の山」。


「ショウ様、シエル。……新婚旅行の準備……いいえ、『新規事業の立ち上げ』の準備を急ぎなさいな。……本社の膿をすべて出し切り、全次元の黒字化(支配)を完了させるまで、わたくしの帳簿は閉じさせませんわ」

お読みいただきありがとうございます!

「神の上司が持ってきた特許が、実はパクリだった」。

上位存在の権威を「特許トロール」として一蹴し、逆に過払い利息を請求するエレノラ様、いかがでしたでしょうか。

法律と数字を武器に、宇宙規模の理不尽を買い叩く姿にスカッとしていただければ幸いです。


ミネルヴァを敗走させたエレノラ様。

次なる舞台は、本社の不正が眠る「セクター105」。

そこで彼女を待ち受けているのは、新たな敵か、それともさらなる利益か。


「特許論破のシーン、頭脳戦が熱い!」

「エレノラ様の『どの口が~』が聞けて満足!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の評価が、エレノラ様がセクター105を敵対的買収するための「初期資本」になりますのよ!


次回、第50話は『他セクターの女帝。あなた、帳簿の書き方がお古いですわ』。

次元を越えた「女の戦い」、どうぞお楽しみに!

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