第48話:『新婚旅行の行き先は、隣の「セクター105」に決めましたわ』
「……あ、あの。まえがき、失礼いたしますわ」
皆様、大変長らくお待たせいたしました。
一度は「完結」という名の帳簿を閉じましたが、どうやらこの大陸のバランスシートには、まだわたくしでも見落としていた「隠し負債」があったようですの。
第1部を応援してくださった皆様も、ここから新しく投資(ご愛読)してくださる皆様も。
さらにスケールアップした「不条理の買い叩き」をお楽しみください。
「準備はすべて整いましたわ。……第二ラウンドの開始です」
大陸が統一され、新帝国紙幣が市場を席巻してから三ヶ月。
魔法に代わる『電気』の光は、夜を昼に変え、帝都に空前の繁栄をもたらしていました。
「エレノラ、今日くらいは帳簿を閉じてくれないか。……新婚旅行の計画を立てる約束だろう?」
執務室の窓辺で、皇帝アラリック様が苦笑しながらわたくしの腰を抱き寄せました。
平和。あの日、追放された雨の夜には想像もできなかった、純利益に満ちた日々。
ですが。
「――お熱いところ失礼。ですが、その『新婚旅行』、差し押さえの対象になりましてよ?」
空間がガラスのように砕け、そこから見たこともないほど豪華な、だが冷徹な意匠のドレスを纏った女が現れました。
彼女の背後には、かつてわたくしが『解任』した管理ユニットの少年が、青ざめた顔で跪いています。
「……あら。元・管理者様。……そちらの『上司』を連れて、再就職の相談かしら?」
わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、アラリック様の腕の中で扇を優雅に広げました。
「ふん、相変わらず不遜な原住民ね。私は『宇宙運営総本部・知的財産管理部』の監査官、ミネルヴァ。……エレノラ、貴女がショウという異分子を使って構築したこの『電気文明』。……これは、本社の管理下にあるセクター001の特許を盗用したものと認定されました」
ミネルヴァと名乗った女は、空中に巨大な『多次元訴状』を投影しました。
そこに記されているのは、この世界の総資産を十回売却しても足りないほどの、天文学的な損害賠償額。
「特許侵害……? 魔法という欠陥商品を売りつけておいて、今度は自立した技術にケチをつけるおつもりかしら?」
「規約は本社が決めるものよ。貴女に拒否権はない。……さあ、直ちに全文明を初期化し、貴女個人は『知的財産窃盗罪』で無期懲役……」
「あら。……それはどの口がおっしゃるのかしら?」
わたくしはアラリック様から離れ、ゆっくりとミネルヴァへ歩み寄りました。
シエルが背後から、一冊の、驚くほど古びた――だが重厚な『規約原本』を差し出します。
「な、何よそれは」
「黄金国の管理端末を買い叩いた際、データの隙間に挟まっていた『創業時の定款』ですわ。……ミネルヴァ様。本社の規約第4条第8項によれば、『未開拓セクターにおいて独自に開発された代替技術は、本社の特許に優先する』。……そう記されていますわね?」
「……っ!? なぜ、それを……!」
「さらに、ショウ様の現代知識。これは本社の『異世界転送ミス』によって生じた不法投棄物ですわ。……ゴミ捨て場から拾ったものをどう加工しようと、拾得者の自由。……違いますかしら?」
ミネルヴァの顔が、急速に青ざめていきました。
「ミネルヴァ様。……新婚旅行の行き先、変更することにいたしましたわ。……隣の『セクター105』。あなたたちが隠れて行っている、悪質な『粉飾決算』の証拠。……わたくしが直接、査定(ガサ入れ)に伺って差し上げますわよ?」
扇を広げ、わたくしは最高に不敵な、そして格上の余裕に満ちた微笑みを浮かべました。
「準備はすべて整いましたわ。……わたくしを訴えたこと、後悔させて差し上げますわね」
おかえりなさいませ。そして、はじめまして!
「完結」という名のインターミッションを終え、エレノラ様の帳簿が再び開かれました。
せっかく大陸を統一したのに、今度は「宇宙の運営」を名乗る不遜な上司が現れたようです。
……ですが、彼女がそれを許すはずがございませんわね。
「神の上司を買い叩く」。
そんな無謀で知的な大逆転劇、どうぞ最後まで見届けてください。
面白い、続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。
皆様の応援が、エレノラ様の「多次元買収資金」になりますのよ!
次回、第49話は『特許侵害? わたくしの文明を真似したのは、そちらの方でしょう?』。
お楽しみに!




