第46話:『全大陸の平和会議。不良在庫の最終清算(ざまぁ)の時間ですわ』
世界の夜明けは、パチパチと弾けるような「電気」の音と共に訪れました。
魔法が消え、神の加護が断たれた暗闇の後に灯ったのは、わたくしたち人類が自らの手で生み出した、裏切りのない光。帝都の中央広場には、今や各国の王、旧教会の司祭、そして没落した貴族たちが、震えながら集まっていました。
かつての豪華なドレスや法衣は煤け、彼らの瞳には「明日、どうやって食い繋ぐか」という、原住民としての剥き出しの恐怖が宿っています。
「――皆様、お待たせいたしましたわ。……会議(査定)の時間です」
わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、アラリック様の腕をとり、最高級の電球に照らされた演壇へと足を進めました。
群衆の最前列で、一際みすぼらしい姿で跪いている男女が目に入りました。
かつてのわたくしの婚約者、セドリック。そして、偽りの慈愛でわたくしを陥れたリリアナ。
「エ、エレノラ……! 頼む、わかってくれ。わたくしは、あなたをずっと心配して……。そうだ、バルディア王国は、あなたの経営能力を再評価したのだ。すぐに戻ってきて……」
セドリックが、泥にまみれた膝を這わせて叫びました。その顔は、魔法という「融資」が止まったことで、心労と恐怖により十歳は老け込んで見えました。
「……あら。セドリック様。……ご自分の状況、まだ理解できていらっしゃらないの?」
わたくしは扇を閉じ、シエルに一束の書類を掲げさせました。
「バルディア王国。旧教会の利権と魔法に依存し、自力での産業開発を怠った挙句、現在の負債額は国家予算の八百年分。……経営破綻ですわよ。……そんな倒産企業の役職に、何の価値があるとお思いかしら?」
「そんな……っ! でも、わたくしは王太子で……!」
「いいえ。本日をもって、あなたは『バルディア地区・清掃管理候補』……。要するに、魔法が使えなくなって溢れかえった旧教会のゴミを、素手で片付ける非正規雇用者ですわ。……それが、あなたの市場価値の限界ですもの」
わたくしの宣告に、セドリックは崩れ落ち、その場に突っ伏しました。
隣で震えていたリリアナが、縋るような目を向けてきます。
「エ、エレノラ様……わたくしは、聖女としての知識が……。民衆の心を掴む術なら知っていますわ。あなたの広告塔として使ってくださいませ……!」
「広告塔? ふふ、笑わせないで。……嘘の奇跡で民を騙し、自分の贅沢のために寿命を浪費させた『詐欺師』。……そんな不良品を店頭に置けば、わたくしの会社のブランドイメージが失墜いたしますわ。……リリアナ様、あなたは石炭鉱山の食堂で、一日三千食の皿洗いをなさいな。……一時間の遅れにつき、罰金金貨一枚ですわよ?」
「……あ、あ……あぁぁぁ……っ!!」
リリアナの叫びが広場に響きましたが、誰一人として同情する者はおりません。
民衆は知ったのです。彼女たちが謳歌していた贅沢が、自分たちの命を削って作られていたことを。
続いて、旧教会の高位司祭たちが進み出ました。彼らは震える手で、かつての聖遺物を差し出そうとします。
「エ、エレノラ様……。これらは神の残り香。……これさえあれば、いつか魔法が……」
「司祭様。……時代遅れのデリバティブ商品を売り歩くのはお止めなさい。……ショウ様、彼らの『聖遺物』とやら、査定した結果は?」
「……ただの石ころと、劣化が激しいバッテリーの残骸だ。……廃棄物処理場へ運んでいいぞ。一ペニーにもならねえ」
ショウが吐き捨てるように言うと、司祭たちは魂が抜けたようにその場に座り込みました。
権威という名の虚像。
契約という名の搾取。
そのすべてが、わたくしの『最終決算』によって、一点の曇りもなく清算されたのです。
「帝国市民、ならびに新しい世界の住民の皆様!」
わたくしは、アラリック様と共に広場を見渡しました。
そこには、過去の呪縛から解き放たれ、自分の足で立ち、自立した富を築こうとする人々の目が輝いていました。
「本日をもって、旧時代の不当な負債はすべて完済されました! ……明日からは、誰もが等しく『努力』と『資本』によって報われる、黒字の未来が始まります! ……そして!」
わたくしは、隣に立つアラリック様の温かい手を取りました。
「この世界の平和と繁栄を祝し、わたくしエレノラ・フォン・ロスタールは、ドラクロワ帝国皇帝アラリック殿下との『生涯にわたる独占契約』――結婚を、ここに宣言いたしますわ!」
――わあああああああああああああああああっ!!
魔法の光よりも、電気の輝きよりも熱い、祝福の地鳴りが大陸を揺らしました。
復讐でも、断罪でもない。
不採算なものを切り捨て、最高の利益を積み重ねた先に待っていた、必然の『純利益』。
「準備はすべて整いましたわ。……さあ、陛下。わたくしたちの輝かしい未来、決算報告(式典)を始めましょうか」
清算の終わり。
そして、永遠に続く幸福な経営の始まり。
わたくしの帳簿には今、書き切れないほどの希望が計上されていました。
お読みいただきありがとうございます!
「かつて自分を捨てた者たちを、『市場価値がない』と切り捨てる」。
復讐に燃えるのではなく、ただ事務的に「ゴミ箱」へ放り込むエレノラ様、いかがでしたでしょうか。
セドリックやリリアナの惨めな姿……これぞ、長い長い清算の旅の果てに待っていた究極のカタルシスですわ。
いよいよ次話、最終回。
エレノラ様とアラリック様の結婚式、そして世界の「最終決算報告」。
悪役令嬢として追放されたあの日から始まった物語が、どのような「純利益」を叩き出して幕を閉じるのか。
「ゴミ拾いと皿洗いの刑、最高にスカッとした!」
「最後にエレノラ様の幸せな姿が見たい!」
そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。
皆様の評価が、エレノラ様の結婚式の最高に贅沢な「祝儀」となりますわ!
次回、第47話(最終回)。
『準備はすべて整いましたわ。――永遠に黒字の、幸福な未来へ』。
最高のフィナーレを、どうぞお見逃しなく!




