第45話:『世界システムの再起動。人類への「新利用規約」を配信いたします』
一瞬にして、世界から「色」が消えました。
管理者の本社が断行した、マナの全供給停止。
それは人類が数千年にわたって依存し続けてきた『魔法』という名のインフラを、根こそぎ奪い去るという、冷酷極まりない損切り(ボイコット)でした。
黄金国の制御室を包むのは、墓場のような静寂と、底なしの暗闇。
「……はは、……。見たか、エレノラ。これがお前たちの望んだ『自立』の結末だ」
床に転がった管理ユニットの少年が、暗闇の中で力なく笑いました。
「マナがなければ、お前たちが作ったあの鉄の船も、帝都の明かりも、すべてはただの鉄屑だ。……さあ、暗闇の中で恐怖し、泣き叫んで本社の慈悲を乞うがいい」
「あら。慈悲、ですって?」
わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、暗闇の中でゆっくりと、だが迷いなく扇を広げました。
瞳が闇に慣れるのを待つ必要などございません。わたくしの脳内にある『事業計画書』は、いつだって煌々と輝いていますもの。
「シエル。……予定通り、バックアップ電源(B案)の稼働を。……ショウ様、あなたの『現代の遺産』、今こそ全額投資する時ですわよ」
「――待ってました! 本社のクソ野郎ども、俺たちの電気代は、俺たちが自分で払うんだよ!」
暗闇の向こうで、ショウが狂ったようにスイッチを叩く音が響きました。
ズゥゥゥゥゥゥン……!
地響きと共に、《バランス・シート》号の深部で、巨大なタービンが咆哮を上げました。
それはマナという名の「借り物の力」ではなく、黄金結晶を燃やし、水を沸騰させ、圧力を回転へと変換する、純粋な物理の力。
パチッ。パチパチパチッ!
次の瞬間、制御室の天井に配置されていた、ショウお手製の『フィラメント電球』が、オレンジ色の温かい光を放ちました。
一つ、また一つと連鎖し、暗闇を暴力的に塗り替えていく光の洪水。
「な……っ!? なんだ、この光は……!? マナの反応が全くないのに、なぜ輝いている……!?」
少年が、信じられないものを見るように目を剥きました。
「これが『科学』という名の、利息のいらない資本ですわ」
わたくしは少年の前に歩み寄り、光り輝く電球を指差しました。
「管理者の皆様。……あなたたちが供給していたのは、常に『返済(寿命)』を要求する負債の光でした。……ですが、これはわたくしたちが自ら生み出した、自立した富。……もはやこの世界に、あなたたちが付け入る余地(隙間)など、一ミリも残っておりませんの」
わたくしの指示で、シエルが制御室の通信機をハックし、全大陸へ向けて強制放送を開始しました。
それは、帝都の、そして大陸中の広場にある『街灯』に灯った、新しい時代の明かりを中継していました。
「――帝国市民、ならびに全世界の皆様。……新しい夜明けですわ」
わたくしの声が、光と共に世界中へ響き渡りました。
「神の魔法は消えました。……ですが、絶望する必要はございません。……これからは、わたくしエレノラが提供する『新利用規約』に基づき、皆様には自らの力で光を灯し、自らの知恵で豊かさを掴み取っていただきます」
わたくしは、ショウに用意させた「新世界の規約」を、全人類の意識に直接配信させました。
『第1条:神への祈りによる依存を禁ずる。』
『第2条:すべての命は、管理者の負債ではなく、個人の資産である。』
『第3条:幸福とは、自ら稼ぎ出した利益の総体である。』
大陸中から、どよめきが上がりました。
それは魔法という「奇跡」への別れであり、自分の足で大地を踏みしめる「覚悟」の産声。
「……あは、……あははは! 負けたよ、エレノラ。……神をクビにして、人類全員を『株主』にするつもりか」
管理ユニットの少年が、光に包まれながら静かに目を閉じました。
彼のシステムが、エレノラの管理権限に完全に統合(M&A)されていく。
「準備はすべて整いましたわ。……さあ、世界という名の新しい店舗、開店の時間ですわね」
わたくしは、隣に立つアラリック様の腕を取り、最高に不敵な微笑みを浮かべました。
「陛下。……世界は手に入れました。……あとは、この世界に残った『ゴミ』を掃除するだけですわ」
わたくしの脳内の「不良在庫リスト」には、まだ数名の名前が残っています。
わたくしを追放した王国。利権にしがみつく教会。
新オーナーの初仕事として、彼らの人生を美しく『清算』して差し上げましょう。
お読みいただきありがとうございます!
「神のボイコットを、電気の光で一蹴する」。
マナが消えた暗闇の中で、ショウの現代知識が「電球」として花開く……。
依存を断ち切り、自分たちで光を生み出す人類の姿、スカッとしていただけましたでしょうか。
ついに世界のオーナーに就任し、利用規約を書き換えたエレノラ様。
しかし、彼女の「清算」はまだ終わっていません。
第1部で彼女を陥れた者たち、そして新秩序に従わない旧勢力。
「不良在庫」たちの最終処分が、いよいよ始まります。
「電球が灯るシーン、文明の勝利を感じて熱い!」
「利用規約第1条が不敵すぎて好き!」
そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします!
皆様の評価が、エレノラ様が不良在庫たちに突きつける「最終請求書」の額面を吊り上げますわ!
次回、第46話は『全大陸の平和会議。不良在庫の最終清算の時間ですわ』。
懐かしのあの人たちが、絶望のどん底でエレノラ様と再会いたします。
お楽しみに!




