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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第44話:『世界システムの買収。今日からわたくしが「オーナー」ですわ』

「――警告。セクター104における管理権限の不正取得を確認。……最終監査官デリーター、強制介入を開始する」


 玉座の天井を貫いた『黒い楔』から、感情の一切を削ぎ落とした、金属質な声が響き渡りました。

 制御室内に満ちていた青い明かりが、不吉な赤黒いノイズに上書きされていきます。楔から這い出してきたのは、実体を持たぬ黒い霧のような影。それが次第に形をなし、中世の裁判官を思わせる、歪な巨人の姿へと変わりました。


「……ひっ、本社の……上級監査官だ……。もう終わりだ、奴らは物理法則すら介さずに、存在そのものを『無』として定義し直すんだ……!」


 管理者の少年が、床に這いつくばってガタガタと震えています。


「あら、随分と態度の大きいお客様ですわね」


 わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、崩落する天井の破片を、シエルが差し出した日傘で優雅に避けながら、その巨人の前に立ちふさがりました。


「ショウ様、セレスティーヌ様。……データの防壁を最大展開なさい。……陛下、この『不審者』がわたくしのドレスを汚そうとしたら、遠慮なく切り捨ててよろしいですわ」


「承知した、エレノラ。神の使いだろうと、君の所有物に手を出させるつもりはない」


 アラリック様が抜き放った剣が、セレスティーヌ様の光を受けて白銀に輝きます。


「――無益な抵抗である。このセクターは『廃止』が決定した。……全生命体、および物質データの消去シーケンスを……」


「お黙りなさいな、無能な役人の方」


 わたくしは扇をパチンと閉じ、巨人の足元……歪み始めた空間に向けて突きつけました。


「あなたの言う『消去』。それは、誰の、何の権利に基づいて執行しようとしているのかしら?」


「……規約第1条。不採算部門は本社判断により……」


「あら。その規約、今さっき『改定』されましたわ。……ショウ様、新規約を表示しなさいな!」


「おうよ! 運営権の移譲(買収)に伴う、全規約の暫定凍結! ……ついでに、今この瞬間から、このセクターの『最高法規』はエレノラの署名一つで決まることになったんだよ!」


 ショウが血走った目で叩いたキーボードの音が、制御室内に爆音で鳴り響きました。

 巨人の周囲に、無数の黄金の鎖――管理者のコマンドを物理的な『契約の鎖』へと書き換えたコードが巻き付きます。


「な……っ!? 管理権限を……原住民が、上書き(オーバーライド)しているだと……!?」


「原住民、ではありませんわ。……『オーナー』と呼びなさい」


 わたくしは、シエルから受け取った黄金の羊皮紙を高く掲げました。

 そこには、管理者の少年から譲渡された、この世界の全資産を担保とした『名義変更通知書』が刻まれています。


「いいですか、監査官様。……あなたが消そうとしているこの世界は、今この瞬間、わたくしエレノラが正式に買収した『私有財産』です。……名義変更が完了した資産に対し、本社の古い規約を盾に消去を強行するのは、明白な『不当な私有財産権の侵害』……。いいえ、もっと分かりやすく言いましょうか?」


 わたくしは巨人の足元に歩み寄り、その黒い霧に冷徹な視線を刺しました。


「――これは、わたくしという顧客に対する『強盗行為』ですわ」


「……っ、顧客……!? 観測対象を顧客と呼ぶのか!?」


「ええ。わたくしはこの世界の全責任を背負い、負債を返済する義務を引き受けました。……ならば、わたくしはあなたたちの最大の『出資者』であり、同時にこの世界の『経営責任者』。……経営方針に口を出すなら、相応の配当準備金を持ってきてからになさいな。……手ぶらでわたくしの資産を壊そうというのなら、今この場で、あなたを『不採算な不良在庫』として、わたくしが清算デリートして差し上げますわよ?」


 巨人の体が、ノイズを発して激しく揺らぎました。

 論理の盾。契約の矛。

 神のルールで生きてきた監査官にとって、エレノラが突きつけた「資本主義の暴力」は、どんな魔法よりも理解不能で、それゆえに回避不能な一撃でした。


「……エレノラ・フォン・ロスタール。お前は……本気で、この呪われた赤字の世界を、価値あるものに変えられると……?」


「ふふ、当たり前でしょう? ……わたくしの帳簿に、『赤字』の二文字を書き込む権利は、誰にも与えていませんもの」


 わたくしの背後で、セレスティーヌ様の光が帝都……そして大陸全土へと伝播していきました。

 魔法に頼らず、命を削らず、人が自らの力で利益を生み出す新しい世界の脈動。


 巨人は、初めて言葉を失い、その姿を霧散させ始めました。

 ですが、消えゆく直前。そのノイズ混じりの声が、不気味に響きました。


「……よかろう。所有権は認めよう。……だが、経営者よ。……燃料マナのない世界で、どうやってその『価値』を維持し続けるつもりだ? ……我々は、このセクターへのマナ供給を、今、完全に遮断したぞ」


 その瞬間、世界から最後の残光が消えました。

 真の暗闇。


「あら。……エネルギーの供給停止ボイコットですか。……古典的な嫌がらせですわね」


 暗闇の中で、わたくしは静かに微笑みました。


「ショウ様。……例の『新エネルギー開発計画(プロジェクトB)』。……予算を全額投入して、今すぐ稼働させなさいな」


「了解だ、オーナー! ……神の電力が止まったなら、俺たちが自分で『発電』してやるよ!」


 準備は、すべて整いましたわ。

 本社の方々。……供給を止めたことを、後で泣いて後悔させて差し上げますわよ。

お読みいただきありがとうございます!

「神の監査官を『強盗』と呼び、私有財産権を主張する」。

神聖な審判を「不当な業務妨害」として一蹴するエレノラ様、いかがでしたでしょうか。

ついに「オーナー」として認められた彼女ですが、本社側は最後の嫌がらせとして、世界の全エネルギー(マナ)を遮断しました。


マナが消えた世界で、どうやって文明を維持するのか?

そこにあるのは、転生者ショウの「現代知識」と、エレノラの「資本」が融合した、真の産業革命。


「オーナー就任のタンカが最高すぎる!」

「神の電力供給停止に動じないエレノラ様、さすがです!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。

皆様の評価が、マナに頼らない「新帝国の発電所」の稼働効率を劇的に向上させますわ!


次回、第45話は『世界システムの再起動。人類への「新利用規約」を配信いたします』。

魔法なき時代の、新しい文明の夜明けを、どうぞお楽しみに!

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