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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第42話:『管理者の玉座へ。土足で失礼、資産査定に参りました』

――ひどい熱気ですわ。


 《バランス・シート》号のハッチを蹴り出し、わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールが最初に感じたのは、神聖な静寂ではなく、焦げ付いたオイルと過熱した金属が放つ、吐き気を催すような悪臭でした。


 目の前に広がるのは、もはや物理的な法則すら曖昧な、光り輝く回路の迷宮。壁面からは無数のケーブルが血管のようにのたうち回り、その隙間から火花が散っています。


「おい、これ……マジかよ。冷却系が完全に死んでる。この建物自体、あと数時間で溶け落ちるぞ」


 背後でショウが携帯端末を叩きながら声を震わせました。

 アラリック様は剣を抜き、わたくしを庇うように一歩前へ出ます。セレスティーヌ様は、胸元のペンダントを握りしめ、この場所に満ちる「悲鳴」のようなノイズに顔を歪めていました。


「……行きましょう。泣いても笑っても、ここがこの世界の『決算会場』ですわ」


 わたくしは扇で鼻腔を覆い、歪んだ金属の回廊を突き進みました。

 突き当たりにある、巨大なクリスタルの扉。それが管理者の「玉座」――いいえ、中央制御室の入り口。


 わたくしが手をかける前に、扉は力なく内側からスライドしました。

 中から溢れ出したのは、神の威光ではなく、警告を示す真っ赤なアラートランプの光。


「――戻れ、原住民ども。これ以上の接近は、宇宙の倫理規定(規約)に抵触する」


 部屋の中央、無数の管に繋がれた椅子に座っていたのは、全能の神ではありませんでした。

 それは、透き通るような肌をした、少年の姿をした『端末』。

 彼の背中からは無数の光ファイバーが伸び、部屋全体のシステムと一体化しています。その瞳には感情はなく、ただ膨大なログデータが流れ続けていました。


「あなたが、この世界の『管理者』かしら?」


 わたくしは、床に転がる焦げた回路をヒールで踏みつけ、少年の正面に立ちました。


「いかにも。私は『セクター104』の管理ユニット……。お前たちが神と呼んできたものの実体だ。……エレノラ。お前の行動は、システムの許容範囲を大幅に超えた。これより、お前という個体を『有害なバグ』として消去……」


「お黙りなさい」


 わたくしの一喝に、少年の言葉が詰まりました。

 シエルが隣で、一束の分厚い『監査報告書』を広げます。


「消去? ふふ、随分と景気のいいお話ですわね。……ですが、その前に伺いたいことがございますの。……この、お粗末な現場管理ガバナンスは、一体どなたの責任かしら?」


「何……?」


「ショウ様、数値を」


「……ああ。マナの回収効率、マイナス六八パーセント。インフラの老朽化による熱損失、計測不能。おまけに、バックアップデータは三百年前に破損したまま放置……。おい、管理人。あんた、ずっと『粉飾決済』で誤魔化してきたな?」


 ショウが突きつけたデータに、少年の瞳のログが一瞬、激しく乱れました。


「……それは、仕方のないことだ。この大陸の人間が、予想以上にエネルギーを浪費し……」


「言い訳は結構ですわ。あなたが神を演じ、寿命を利子として吸い上げていたのは、自分という『システム』を維持するための延命工作に過ぎない。……顧客(人類)への還元を怠り、保身のために資産を食いつぶす経営者。……投資家として、これほど不快な存在はございませんわ」


 わたくしは扇を閉じ、少年の喉元にその先を突きつけました。


「管理ユニット。……あなたはもう、この世界を維持する能力を失っている。……いいえ、そもそも維持する資格すらない。……わたくしがここへ来たのは、あなたを崇めるためでも、滅ぼすためでもありませんわ」


「……ならば、何だ」


「『不信任案』の提出です。……本日をもって、あなたをこの世界の管理者から解任リジェクトいたします。……そして、この世界という名の資産は、すべてわたくしが『敵対的買収(TOB)』させていただきますわ」


 少年の瞳が、初めて感情的な「驚愕」に揺れました。


「買収……? この壊れかけの、滅びを待つだけのシステムを、お前が引き取るというのか? ……バカな。お前たちに、この膨大な『負債』を背負う覚悟があるのか!?」


「負債? ふふ、わたくしを誰だと思っていらして?」


 わたくしはアラリック様の腕をとり、最高に不敵な微笑みを浮かべました。


「ゴミの中から利益ダイヤモンドを見つけ出すのが、わたくしの本業ですのよ。……さあ、管理者。……あなたの隠し持っている『真の負債』……この世界が壊れる前に、人類が支払わされるという『最後のコスト』を、すべて開示なさいな」


 少年の顔が、絶望に歪みました。

 彼は震える手で、背後の巨大なモニターを起動しました。

 そこに映し出されたのは、大陸の地図ではありません。

 ……それは、宇宙そのものがゆっくりと「収縮」し、この大陸を飲み込もうとしている、残酷なカウントダウン。


「……教えよう。買収など不可能だ。この世界は、もうじき『神の負債』を清算するために……物理的に、無へと還るのだから」


 清算の終焉。

 そこに待っていたのは、買収すら困難な、世界の『破産宣告』でした。

お読みいただきありがとうございます!

「神は、ただの怠慢な管理人だった」。

神秘の正体を暴き、いきなり「解任」を突きつけるエレノラ様、いかがでしたでしょうか。

神様という名の経営者が、実は「粉飾決済」でボロボロの現場を隠していた……現代社会でもありそうなドロドロした内情に、スカッとしていただければ幸いです。


しかし、管理者が最後に突きつけたのは、世界の「物理的破産」。

もはや経済や交渉の範疇を超えた「消滅」に対し、エレノラ様がどうやって「黒字転換」を狙うのか。


「神を無能な経営者扱いするの最高!」

「ショウの毒舌解説が今回も冴えてる!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。

皆様の評価が、エレノラ様が世界の破産を回避するための「逆転の資産運用」の知恵となりますわ!


次回、第43話は『神への不信任決議。あなたの経営能力、落第点(Fランク)ですわ』。

絶望的なカウントダウンを前に、エレノラ様が放つ「最後の一手」をお楽しみに!

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