第41話:『黄金艦隊の沈没。燃料を「関税」で差し押さえればただの鉄屑ですの』
視界が白銀に染まり、空間そのものが「定義」を失って消えていく――。
黄金国のゲートから放たれた『強制削除』の波動。それは音も衝撃もなく、ただそこに在る者の存在確率を零へと収束させる、絶対的な事務処理でした。
「お、おい! 艦体の装甲が……数値上は存在してるのに、感触が消えていくぞ! これが『神の消しゴム』かよ!」
艦橋でショウが絶叫し、狂ったようにレバーを叩いています。
ですが、わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、司令席に深く腰掛けたまま、迫り来る「無」の光を冷ややかに見つめていました。
「落ち着きなさい、ショウ様。……シエル、この削除コマンドの『実行コスト』を算出しなさい」
「はい。対象の質量を零にするための演算負荷……。現状の黄金国の残りエネルギーでは、あと三秒で『残高不足(リソース不足)』に陥りますわ」
「ふふ、やはり。……神様、随分と無理な『決済』を通そうとなさるのね」
わたくしは扇を広げ、消えゆく艦橋の空気に、一枚の魔導契約書を投影しました。
そこに刻まれているのは、黄金国が人類から不当に搾取した『寿命』の総額。
「ショウ様、セレスティーヌ様! 削除コマンドの波形に、この『未払い債権の請求コード』を上書きなさい! 削除したければ勝手になさいな。……ただし、削除した瞬間に、その分の質量に相当するエネルギーを、我が方の『延滞利息』として自動的に強制徴収するよう書き換えますわよ!」
「……っ、ハハッ! そういうことか! 『消す』という作業そのものに、俺たちの側の『集金プラグイン』を仕込むんだな!」
ショウが指を踊らせ、コンソールに現代知識のロジックを叩き込みます。
セレスティーヌ様が祈りを捧げ、デバッグの光をそのコードに付与しました。
次の瞬間。
《バランス・シート》号を飲み込もうとしていた白い光が、不快なノイズを立てて、艦の結晶エンジンへと「逆流」し始めました。
「――!? 削除が……止まった? いや、削除のエネルギーが、燃料に変換されている……!?」
リンが、目を見開いて立ち尽くしました。
管理者が放った絶対の死。それが、エレノラの「徴収」という定義によって、ただの『エネルギーの無償提供』へと格下げされたのです。
「神様、ご忠告申し上げますわ。……残高不足のまま無理に取引を続けようとすれば、倒産を早めるだけですわよ?」
《バランス・シート》号は、消滅の波を逆に喰らい、黄金のゲートを力任せに突き破りました。
ゲートの向こう側。
そこには、詩歌に謳われるような極楽浄土など存在しませんでした。
果てしなく続く、巨大な鉄塔と点滅する回路の森。
冷え切った機械の唸り声。
「……これが、黄金国。……神の住まう場所の、正体ですの?」
わたくしの問いに、答える者は誰もいません。
宇宙の果てに作られた、巨大な『データセンター』。
管理者は神ではなく、この巨大な「計算機」を守り続け、その維持費を稼ぐために大陸の人類を家畜のように管理していた、ただの「守守」に過ぎなかった。
「……ショウ様。これ、あんたのいた世界で言うところの……」
「……ああ。巨大な『サーバー・ファーム』だ。……それも、メンテナンス不足で、あちこちのハードウェアが熱暴走を起こしてる。……エレノラ、この神殿は、もう持たないぞ。あと数年……いや、数ヶ月で、このシステム自体が自壊する」
「なるほど。……だから、あの方たちは焦っていたのですわね。……『不採算部門』を早急に処分して、少しでもサーバーの延命を図ろうとした……。実に見苦しい経営判断ですわ」
わたくしは、静かに司令席を立ちました。
艦の正面モニターには、最深部にある「制御中枢」の扉が映し出されています。
「シエル。武装の準備はいりませんわ。……代わりに、帝国の全資産を担保にした『買収契約書』をプリントアウトしなさい。……この壊れかけた工場(世界)、わたくしが適正な価格で買い取って、完全に『清算』して差し上げますわ」
神様。
あなたの運営する「世界」という名の事業は、今日、わたくしの手で『デフォルト』を宣告されましたのよ。
《バランス・シート》号のハッチが開きます。
冷たい真空の風にドレスを揺らしながら、わたくしは、人類史上最も不遜な「監査人」として、神の玉座へと足を踏み出しました。
お読みいただきありがとうございます!
「神の削除コマンドを、未払いの利息として強制徴収する」。
絶対的な絶望すらも「集金の材料」に変えてしまうエレノラ様、いかがでしたでしょうか。
ついに到達した黄金国の正体は、神々の楽園ではなく、朽ち果てゆく「サーバーセンター」。
「神」の正体が暴かれた今、エレノラ様が狙うのは、そのシステムの「全株式取得(TOB)」です。
「削除の光を吸い取るシーン、これぞエレノラ様!」
「神の正体がサーバーセンターというSF展開にワクワクする!」
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皆様の評価が、エレノラ様が世界のOSを書き換えるための「実行権限」の認証速度を上げますわ!
次回、第42話は『管理者の玉座へ。土足で失礼、資産査定に参りました』。
ついに「神」との直接対峙。その驚愕の姿を、どうぞお楽しみに!




