第40話:『最終戦争の予算編成。一分一秒の戦いに金利をつけなさい』
「――加速しなさい、ショウ様! 重力という名の『固定費』を振り切るのですわ!」
超弩級万能買収艦号の艦橋。
全身を襲う激しい振動と、大気を切り裂く轟音が響き渡る中、わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、司令席の肘掛けを強く握り締め、正面の魔導スクリーンを睨み据えました。
窓の外、青かった空は急速にその色を失い、星々が瞬く漆黒の「虚無」へと塗り替えられていきます。
「……言われなくてもやってるよ! 結晶エンジンの出力、限界突破! セレスティーヌ、防壁の『維持コスト』は!?」
「……正常です。管理者の干渉を、秒間一億回のペースで『リバート』し続けています。……でも、マナの消費が……!」
セレスティーヌ様が、額に汗を浮かべながら祈りの姿勢を保っています。彼女の周りには、黄金国が放つ「存在否定」の規約を無効化し続ける、真っ白なデバッグ・フィールドが展開されていました。
「ふふ、構いませんわ。燃料なら、先ほど神様から『天罰』として無償提供していただいた結晶が山ほどありますもの」
わたくしが扇で指し示したモニターの先。
暗黒の宇宙空間に、燦然と輝く「黄金の環」が見えてきました。それこそが、管理者の心臓部――中央サーバーを内包する、黄金国の真の姿。
しかし、その光の向こうから、無数の「黄金の棘」がこちらへ向けて放たれました。
管理者の自動迎撃艦隊。意志を持たぬ、純粋な殺意のプログラムです。
「――全艦、迎撃準備! 砲弾は節約しなくてよろしい。……敵の『稼働時間』を奪うことに集中なさいな!」
アラリック様が剣を抜き、号令をかけます。
《バランス・シート》号の両翼から、ショウの設計した電磁加速砲が咆哮を上げました。
ですが、わたくしたちの狙いは、敵艦を物理的に破壊することではありません。
「シエル、敵の『エネルギー収支』を投影なさい」
「はい。敵迎撃艦隊、魔法障壁の展開に一機あたり秒間一万マナを消費。……こちらの『攪乱弾』による無意味な回避行動により、エネルギー消費効率が通常時の三倍に跳ね上がっています」
「素晴らしいわ。……ショウ様、次のフェーズへ。敵のシステムに『過剰な演算』を強いるのです」
「了解! 囮のデコイ、全基射出! ……『この領域の物理法則は、一秒ごとに円周率の末尾が変わる』という偽の情報を、管理者のセンサーに送り込んでやる!」
ショウがニヤリと笑い、コンソールを叩きました。
黄金の迎撃艦隊が、一瞬、不自然に静止しました。
管理者のAIが、ショウが流した「偽の物理法則」を処理しようとして、演算能力を限界まで使い始めたのです。
「……っ!? 敵の光が、弱まっていく……?」
リンが、艦橋の隅で信じられないものを見るように叫びました。
「当たり前ですわ、リン様。……管理者が神でいられるのは、この世界のエネルギーを独占しているからです。……ですが、無意味な演算を強いられ、ボイコットによって新規のエネルギー回収も絶たれた今の彼らは、ただの『蓄電量の少ないバッテリー』。……あの方たちが放つ攻撃一発ごとに、その資産は目減りしていくのですわ」
スクリーンの中で、黄金の艦隊が、次々と輝きを失い、冷たい鉄の塊となって宇宙に漂い始めました。
燃料切れによる、強制的なシステムダウン。
「一分一秒の戦いに、わたくしは金利をつけましたの。……あの方たちがわたくしたちを拒絶すればするほど、そのツケは彼ら自身の『存在維持コスト』として跳ね返る。……さあ、破産した艦隊を蹴散らして、中央ゲートへ向かいなさい!」
《バランス・シート》号は、静止した黄金の残骸を突き破り、黄金国の巨大な門へと肉薄しました。
門には、巨大な「瞳」を模した紋章が刻まれていました。
管理者の最高プロトコル。
『――規約違反個体を確認。……不採算部門の強制焼却を開始する』
門が開き、中から溢れ出したのは、熱線でも光線でもありませんでした。
それは、空間そのものを「空白」へと書き換える、絶対的な『削除』の波動。
「……あら。ついに『強制解任』の手続きに来ましたわね」
わたくしは扇を広げ、迫り来る「無」の波動を、最高に不敵な微笑みで迎え撃ちました。
「準備はすべて整いましたわ。……わたくしたちを消したければ、まずはこの世界の『清算価値』がゼロではないことを、わたくしの前で証明してみせなさいな!」
お読みいただきありがとうございます!
「神の艦隊を演算オーバーで燃料切れに追い込む」。
武力ではなく「システム維持コスト」で敵を自滅させるエレノラ様、いかがでしたでしょうか。
神様という名の経営者が、いかに「インフラ維持費」を甘く見ていたか……会計士の視点での勝利は格別ですわね。
いよいよ管理者のゲートに到達しましたが、そこで放たれたのは絶対的な「削除」の命令。
物理法則すら超えた「システム的な消去」に対し、エレノラ様がどうやって「自分の存在の必要性」をプレゼンし、買い叩くのか。
「宇宙規模の経済戦、ワクワクする!」
「神の艦隊がガス欠で止まるシーンが痛快!」
そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。
皆様の評価が、エレノラ様が管理者の「削除コマンド」を弾き返すための、帝国の資産価値(時価総額)を向上させますわ!
次回、第41話は『黄金艦隊の沈没。燃料を「関税」で差し押さえればただの鉄屑ですの』。
ゲートの向こう側で待ち構える「世界の裏帳簿」の正体を、どうぞお楽しみに!




