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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第39話:『セレスティーヌの真価。彼女はシステムの「デバッグ・ツール」ですわ』

「……きゃあああ! 床が、床が溶けていくわ!」


 帝都の各所で、悲鳴が上がっていました。

 黄金国が配信した「物理法則の強制アップデート」。それによって、石材は粘土のように柔らかくなり、鉄の剣は触れた先から灰へと変わり、人々の歩く足場すらも不確かな虚無へと変貌しつつありました。

 世界のルールを書き換えるという、管理者による最悪の独裁。


「ショウ様、演算を止めないで。シエル、崩壊する区画の資産価値を、今のうちに『損害賠償』としてリストアップなさい」


 歪み、うねる視界の中で、わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは、手近な柱(それはすでに綿菓子のように柔らかくなっていましたが)を支えに、凛として立ち続けました。


「バカ言え! 物理定数が狂ってるんだ、計算式そのものが成立しねえよ! このままだと、俺たちの存在そのものが『規約違反』として消去される!」


 ショウが血走った目でモニターを叩きます。

 傍らでは、管理者のリンが虚ろな目で笑っていました。


「無駄だと言ったはずだ……。これが本社の『強制執行』。お前たちの抵抗など、ただのノイズとして処理される……」


「いいえ。ノイズを消し去るのは、わたくしの得意分野ですわ」


 わたくしは、背後に控えていたセレスティーヌ様の冷たい手を取りました。彼女は恐怖に震えていましたが、その瞳には、かつての囚われの聖女にはなかった「強い光」が宿っています。


「セレスティーヌ様。……思い出して。あなたの『祈り』が、なぜ病を癒やし、傷を塞いできたのか」


「それは……神様が、私の願いを聞いてくれたからでは……?」


「いいえ、逆ですわ。……あなたは、神の書いた『傷つくという規約』を、あなたの意志で『傷がない状態』へと書き戻していたの。……あなたは奇跡を起こしているのではない。世界の『エラー』を、あるべき姿へ初期化(初期化)しているだけ。……いわば、この世界のバグを正す『最強のデバッグ・ツール』なのですわ」


 わたくしの言葉に、セレスティーヌ様が息を呑みました。

 ショウが驚愕に顔を上げます。


「……そうか! 聖女の力って、マナの波長を『デフォルト値』に固定する力なのか!? だとしたら、管理者の強制アップデートに対しても、強力な『アンチ・ウイルス』として機能するはずだ!」


「さあ、セレスティーヌ様。……わたくしたちの『私有地(帝国)』に勝手な仕様変更を押し付ける不届き者に、リバート(差し戻し)を宣告して差し上げて」


 セレスティーヌ様が、一歩、前へと踏み出しました。

 彼女が胸の前で手を組み、静かに目を閉じた瞬間。

 帝都を覆っていた歪んだ極光が、彼女を中心にして「真っ白な光」へと塗り替えられていきました。


「――世界よ、本来の姿へ。不当な改変を、私は認めません」


 凛とした声が響き渡ります。

 

 ドォォォォォンッ!!

 

 衝撃波と共に、砂に変わろうとしていた鉄がその硬度を取り戻し、溶けかけていた石材が強固な形を再構成しました。

 管理者のリンが放っていた「物理法則改変」という名のウイルスが、セレスティーヌという名のデバッガーによって、根こそぎ消去されていく。


「な……っ!? 管理者特権を、力ずくで弾き返しただと……!?」


 リンが絶叫しました。

 ショウのモニターに、緑色の安定した数列が戻ってきます。


「……来た! 物理定数、正常化! セレスティーヌが、帝都周辺の『環境規約』を俺たち専用に書き換えて固定したぞ! これで管理者のチートは効かない!」


「素晴らしいわ。……ショウ様、起動なさい」


 わたくしの合図と共に、地下ドックから大地を揺らす咆哮が上がりました。

 

 超弩級万能買収艦バランス・シート号。

 回収した黄金結晶を動力源とし、ショウの技術を詰め込み、そして今、セレスティーヌのデバッグ・フィールドに包まれた「世界で唯一、神の理が及ばない領域」。


「……エレノラ。本当に行くのか? 管理者の本拠地……中央サーバーのある場所に」


 アラリック様が、わたくしの腰を抱き、鋭い視線を空の向こうへと向けました。


「ええ、陛下。……勝手に規約を書き換え、わたくしたちの資産(命)を毀損しようとした代償、きっちりと清算していただかなくては。……管理者の玉座? ふふ、わたくしにとっては、ただの『差し押さえ物件』に過ぎませんわ」


 《バランス・シート》号の巨大な翼が、蒸気と魔力を吹き出しながら展開されました。

 それは、絶望に沈んでいた帝都の民にとって、神の再臨よりも力強い「希望の鉄塊」でした。


「準備はすべて整いましたわ。……さあ、世界という名のシステムの『オーナー』を、物理的に解任しに参りましょうか」


 轟音と共に、鋼鉄の巨船が重力を振り切り、天を突いて加速しました。

 清算の舞台は、ついにこの世界の「理」そのものを司る、管理者の玉座へと移ります。

お読みいただきありがとうございます!

「聖女の力は、世界を初期化するデバッグ・ツール」。

奇跡という曖昧なものを、システム的な「初期化機能」として再定義し、神のチートを無効化するエレノラ様、いかがでしたでしょうか。


いよいよ進水した買収艦バランス・シート号。

物理法則すら自分たちで決めるようになったエレノラ様たちにとって、もはや神も「ただの不具合バグ」に過ぎませんわね。


「聖女の覚醒シーンが熱い!」

「買収艦のネーミングセンスが相変わらず最高!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。

皆様の評価が、セレスティーヌ様が世界のシステムを完全に掌握するための「管理者権限(管理者権限)」になりますわ!


次回、第40話は『最終戦争の予算編成。一分一秒の戦いに金利をつけなさい』。

空の向こうで待ち構える黄金国の本隊を、エレノラ様がどう「予算オーバー」で自滅させるのか。

お楽しみに!

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