第37話:『全人類による「神のボイコット」。祈りを止めて実利を取りなさい』
「――来ますわよ。皆様、空をご覧なさいな」
わたくしの言葉と同時に、帝都の夜空が不気味な赤紫色に染まりました。
雲を割り、大気を焼きながら降りてくるのは、巨大な黄金の光塊。管理者が放った『強制清掃』……かつて人々が神罰と呼び、畏れひれ伏した絶望そのものです。
「ひっ、あああ……神様、ごめんなさい! お助けください……!」
広場の一角で、恐怖に耐えかねた老人が膝をつこうとしました。
わたくしは、その老人の肩を扇の先で軽く叩き、冷ややかに微笑みました。
「お止めなさい。今あなたが膝をついて祈れば、その瞬間にあなたの寿命が数日、あの『燃えるゴミ』を加速させるための燃料として奪われるだけですわよ?」
「え……?」
「神に縋るのは、もうお止めなさい。……今、信じるべきはご自分の命と、わたくしが提示する『生存戦略』だけですわ」
わたくしは広場の中央、ショウが設計した巨大な鉄塔の影に立ちました。
魔法が消えた街で、唯一脈動するのは、蒸気の咆哮とゼンマイの唸り。
「ショウ様。……照準は?」
「……できてるよ! 全く、神様相手に『物理攻撃』を仕掛けるなんて、俺のいた世界でもSF映画のやりすぎだ!」
地下演算室から、通信機越しにショウの怒号が響きます。
彼の背後では、帝国軍の工兵たちが巨大な『電磁加速砲』――黄金国から買い叩いた魔導部品を、ショウの知識で『物理的な加速装置』へと作り変えた代物に、巨大な鉛の弾丸を装填していました。
「いいか、エレノラ。あの光の塊は、純粋なエネルギー体だ。魔法で防ごうとすれば同調して中に入り込まれる。……でも、こいつはただの『重たい塊』だ。理屈を無視して、質量でぶっ叩く!」
「ふふ、素晴らしい。……シエル、合図を」
シエルが冷徹な手つきで、帝都全域に配備された蒸気サイレンを鳴らしました。
――ヴォォォォォォォンッ!
絶望の叫びをかき消す、文明の産声。
空から迫る黄金の死に対し、地から放たれたのは、三本の黒い鉄柱でした。
ドォォォォォォォォォンッ!!
衝撃波が帝都を揺らしました。
神の光が、物理的な質量によって物理的に「逸らされた」のです。
空中で爆散する黄金の破片。それは奇跡の終わりを告げる火花となって、夜空を彩りました。
「……な、……ばかな……」
傍らで崩れ落ちていたリンが、虚ろな瞳で空を仰ぎました。
「天罰を……『物』で、防いだと……? 管理者のコマンドを、ただの質量で……?」
「リン様。……わたくしたちにとっては、空から降ってくるのが神の怒りであろうと、ただの隕石であろうと、そこにあるのは『運動エネルギー』という名の計算式だけですわ。……そして」
わたくしは、空から降り注ぐ「黄金の破片」を指差しました。
「あの破片。……あれは高純度のマナが結晶化したものですわね? ……シエル、回収班を動かしなさい。……神様がわざわざ空から降らせてくださった『最高級のエネルギー資源』です。一つ残らず拾い集めて、帝国の次世代燃料として備蓄に計上いたしますわ」
リンの顔から、完全に表情が消えました。
彼女たちの放った最大級の攻撃が、エレノラの手にかかれば、ただの「資源の無償提供」に変換されてしまったのです。
「帝国市民の皆様! 見なさいな!」
わたくしは再び拡声器を取り、広場を埋め尽くす民衆に告げました。
「神はあなたたちを殺そうとしました。……ですが、あなたたちの作った『鉄』が、それを防ぎました。……祈りは一文の得にもなりませんが、技術と団結は命を守り、さらに富を生みます。……今日、この瞬間。……この大陸は、神の『不採算部門』から、わたくしの『独立採算国家』へと昇華いたしましたわ!」
わおおおおおおおおおおっ!!
魔法の光よりも熱い、民衆の怒号が帝都を震わせました。
もはや誰も跪いてはいません。彼らは空から落ちてくる「黄金の資源」を拾い集めるために、力強く立ち上がっていました。
「……エレノラ。君は本当に、絶望を金に変える天才だな」
アラリック様が、わたくしの腰を抱き寄せ、耳元で愉快そうに囁きました。
「神も今頃、天上の玉座で頭を抱えているだろう。……放った弾丸を、すべて資材として奪われたのだからな」
「ふふ、陛下。……赤字を垂れ流す経営者は、現場の知恵に勝てないものですわ」
わたくしは扇で顔を隠し、暗い空の向こう……黄金国の『本社』がある場所を睨み据えました。
「さあ、リン様。……もうお分かりでしょう? ……あなたたちの『損切り』は失敗しました。……これからは、わたくしがあなたの本社に対して、『不当な物理攻撃による資産毀損』の損害賠償を請求する番ですわ」
地下演算室のモニターに、新たな警告が走りました。
今度は熱源ではありません。……それは、世界のシステムそのものが『悲鳴』を上げているかのような、巨大なデータのノイズ。
「……お嬢様。黄金国(本社)より、全権大使の緊急回線が入りました。……『実験の中止』と『停戦』を求めています」
「あら。随分と弱腰な経営判断ですわね。……シエル、伝えなさい。……『停戦の相談なら、わたくしがそちらの玉座を買い取った後でゆっくり伺います』……と」
準備は、すべて整いましたわ。
神様。……わたくしの『請求書』、受け取る準備はよろしいかしら?
お読みいただきありがとうございます!
「天罰を物理で弾き返し、落ちてきた破片を資源として回収する」。
絶望的な状況すらも「仕入れ」のチャンスに変えてしまうエレノラ様、いかがでしたでしょうか。
神の攻撃を「燃料」として再利用するという罰当たりな合理性に、スカッとしていただけましたでしょうか。
ついに管理者の本社が「停戦」を求めてきましたが、エレノラ様がそんな甘い言葉に乗るはずがございません。
狙うは世界の中心、黄金国の経営権そのもの。
「物理で神に勝つ展開、熱い!」
「エレノラ様の損害賠償請求が楽しみ!」
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皆様の評価が、エレノラ様が黄金国の本社を買い叩くための「買収予算」になりますわ!
次回、第38話は『管理者の反撃。物理法則という名の「規約改定」への対抗策』。
いよいよ舞台は海を越え、黄金国の本拠地へ。
お楽しみに!




