第35話:『ショウ様、あなたの「現代知識」で神のサーバーをハッキングなさい』
「……はあ、はあ。おい、エレノラ。これ以上はもう、脳みそが焼き切れるぞ」
帝都大聖堂の地下、かつて教会の隠し金庫だった広大な空間。
そこは今、黄金国から『買い叩いた』演算機器と、ショウが設計したゼンマイ式の原始的コンピュータが所狭しと並ぶ、帝国で最も不敬な「中央演算室」へと変貌していました。
ショウは油と汗にまみれ、黄金国から接収した『黄金の端末』を無理やり分解し、怪しげな回路を現代のロジックで繋ぎ変えています。
「あら、ご謙遜を。ショウ様、あなたのいた世界では『情報は第二の通貨』と呼ばれていたのでしょう? ……今、わたくしたちがしているのは、世界の『中央銀行』の金庫破り。投資家として、これほど心躍る事業はございませんわ」
わたくしは、シエルが淹れた冷たいハーブティーをショウの机に置き、彼が投影している『光の図形(魔導言語)』を冷ややかに見つめました。
「いいか、よく聞けよ。あいつら黄金国……いや『管理者』が使っているのは魔法じゃない。これは『プログラム』だ。この大陸に満ちているマナは、言ってみればWi-Fiの電波みたいなもんで、あいつらはそのパスワードを独占してるだけなんだよ」
「パスワード、ですって?」
「そうさ。黄金国が『規約違反』と言って魔法を消せるのは、あいつらがサーバーの管理者権限(管理者権限)を持ってるからだ。……でもな、どんなに完璧なシステムにも、必ず『バックドア』や『バグ』がある。……俺の知識があれば、その利用規約(規約)を書き換えられるかもしれない」
その時。
演算室の重厚な扉が、暴力的な魔力の波動によって弾け飛びました。
「――そこまでだ、不遜な原住民どもめ」
煙の中から現れたのは、黄金国の使者リン。
彼女の瞳は怒りに燃え、その周囲には黄金の数式が浮遊し、空間そのものを威圧しています。
「エレノラ・フォン・ロスタール。これ以上のシステム干渉は、世界存続の重大な脅威と見なす。……全権限をもって、この区域の物理法則を停止する!」
リンが鋭く指を弾くと、演算室内の明かりが消え、ショウの機械が沈黙しました。
空気から酸素が消え、重力すらも歪み始める……。神の理に逆らった者への、残酷な「管理者コマンド」による消去。
ですが。
「……あら。随分と『重たい』エラーメッセージですわね。シエル、適用なさい」
シエルが懐から取り出したのは、黄金国から買い叩いた魔導部品を組み合わせて作った、不格好な小型端末。
「――ローカル・プロトコル、展開。管理者権限の『解釈』を遮断します」
シエルがスイッチを入れた瞬間、消えたはずの明かりが灯り、歪んだ重力が正常に戻りました。
リンの周囲に浮遊していた数式が、ノイズを発して霧散していきます。
「な……っ!? なぜ物理干渉が効かない! ここは私の『権限』が及ぶ領域のはずだ!」
「リン様。……あなたは忘れていらっしゃいますわね。この演算室にある機器、そしてあなたの立っているこの土地。……すべて、わたくしが『適正価格』で買い取った、わたくしの私有財産ですの」
わたくしは扇を広げ、愕然とするリンに向けて微笑みました。
「私有地において、外部の規約を勝手に適用しようだなんて……それは明白な『不法侵入』、および『財産権の侵害』ですわ。……ショウ様、ハッキングの進捗はいかが?」
「……完了だ! 黄金国の端末から、世界の『裏帳簿』をダウンロードしたぞ!」
ショウが歓喜の声を上げ、空間に巨大な光の表を投影しました。
それは、この大陸の全マナ流量、全生命の生存コストを記録した、あまりに冷酷な「世界の収支決算書」。
しかし、その数字を見た瞬間、ショウの顔から血の気が引きました。
「……おい、エレノラ。これを見ろ。……嘘だろ、こんなの……。マナの消費量が、生命エネルギーの回収量を大幅に上回ってる。……これじゃ、赤字だ」
「赤字? ……どういうことですの?」
「管理者がマナを配っているのは、慈悲でも実験でもない。……魔法を使うたびに、俺たちは『寿命』を担保に差し出してるんだ。……この大陸の魔法文明が発展すればするほど、管理者は俺たちの寿命を効率よく『利子』として吸い上げてたんだよ!」
その言葉に、演算室に氷のような沈黙が落ちました。
魔法という名の『融資』。
奇跡という名の『負債』。
私たちが信じてきた神の恵みは、人類を効率よく屠るための、あまりに巧妙な「生命の搾取システム」だったのです。
「……リン様。これ、明白な『粉飾決済』ですわね」
わたくしは、震えるリンを冷徹な瞳で見据えました。
「人類の未来を担保に、自分たちだけが永遠の黄金を享受する……。投資家として、これほど不誠実な経営は許せませんわ。……さあ、ショウ様。この『腐ったサーバー』、わたくしたちの手で、根こそぎ解体して差し上げましょう」
エレノラの不敵な宣告が、地下深くに響き渡りました。
世界の真実という名の『負債』を暴いた彼女は今、神という名の巨大な経営者を、破滅へと追い込むためのペンを執ったのです。
お読みいただきありがとうございます!
「魔法は寿命を削る利子だった」。
世界の理が実は「搾取のシステム」であることを暴き、神という名の経営者を「粉飾決済」で告発するエレノラ様、いかがでしたでしょうか。
現代知識によるハッキングが、ついに「神の権威」という名のメッキを剥ぎ取りましたわ。
管理者のリンは、自分たちのビジネスモデル(搾取)がバレたことで、今度は「物理的な隠滅」を画策するかもしれません。
しかし、エレノラ様の「私有地」では、神の理すら通用しない。
この知的な逆転劇にスカッとしていただけましたでしょうか。
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皆様の評価が、エレノラ様が世界のサーバーを買い叩くための「ハッキング精度」を向上させますわ!
次回、第36話は『魔法は通貨、奇跡は負債。世界システムの裏帳簿を公開いたします』。
全人類を味方につけたエレノラ様による、史上最大の「神へのボイコット」が始まります。
お楽しみに!




