表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/50

第34話:『黄金国の「安売り」攻勢。よろしい、その在庫ごと買い叩きますわ』

「……なんだ、この値段は? 帝国製のナイフが銀貨三枚なのに、この黄金国の品は銅貨五枚だと!?」

「こっちの布も見ろよ! 魔法が消えて高騰したはずのシルクが、パン一つより安い!」


 帝都の市場は、数日前とは一変した「混乱」に包まれていました。

 黄金の鉄甲船から運び出されたのは、洗練されたデザインと圧倒的な性能を持つ『黄金国製』の生活用品。それらは信じられないほどの安値で店頭に並べられ、帝国の商人たちは悲鳴を上げ、民衆は我先にとその「安売り」に群がっています。


「エレノラ顧問! このままでは帝国の工房はすべて潰れます! 誰も帝国の品を買わなくなる!」


 経済顧問室に駆け込んできた商会連合の代表が、青ざめた顔で訴えました。

 魔法消失後の混乱を、わたくしの新紙幣と物流でようやく安定させたばかり。そこへ、原価を無視したような『ダンピング(不当廉売)』を仕掛ける……。

 

 管理者の狙いは明白ですわ。帝国の産業を根底から腐らせ、わたくしの紙幣を「何も買えない紙屑」に貶めること。


「……ふふ。シエル、在庫の状況は?」


 わたくしは窓から市場の熱狂を眺めながら、静かに紅茶を啜りました。


「はい。黄金国は、帝都の全店舗に半年分を超える物資を『委託販売』という形で押し込んでいます。彼らの狙いは、短期間での市場占拠。利益度外視の、文字通り『資本の暴力』ですわね」


「利益度外視? いいえ。あの方たちは、わたくしたちから『市場の支配権』という名の配当を得ようとしているだけですわ。……ですが、あまりに初歩的。投資の基本ができていらっしゃらないわね」


 わたくしは扇を閉じ、シエルに一枚の『買い付け指令書』を手渡しました。


「商会連合に伝えなさい。……今、市場に出回っている黄金国の製品を、一品残らず、すべて帝国が買い上げますわ。……支払いは、わたくしが発行したばかりの新帝国紙幣、それも『割引クーポン』付きの特別債権で行いなさい」


「な……買い上げる!? 敵の品を、わざわざ税金で買うというのですか!?」


 代表の叫びに、わたくしは最高に不敵な笑みを向けました。


「ええ。彼らが『ゴミ同然の価格』で売ってくださっているのですもの。これほどお得な仕入れはございませんわ。……買い占めた品は、すべて帝国の『公的備蓄』に回します。……市場から黄金国の品を消し、代わりに倉庫をパンパンにして差し上げるのです」


 ――その日の午後。

 黄金国の使者リンは、報告を受けて耳を疑いました。


「……買い占めた? 帝国が、我々の放出した物資をすべて、あの紙屑のような新紙幣で?」


「はい、リン様。……帝都の店頭からは、我が国の製品が一瞬で消え去りました。しかし、民衆の手には渡っていません。すべて帝国の直轄倉庫に運び込まれ、封印されています」


 リンの額に、微かな苛立ちの青筋が浮かびました。

 彼らの狙いは、安価な品で民衆の心を掴み、帝国の通貨を無力化することでした。しかし、エレノラはその品を「ただの格安資源」として扱い、市場に流れる前にすべて回収してしまったのです。


「……ふん、小ざかしい。だが、買い占めるには金がいるはずだ。あの女の紙幣など、いつまでもつか……」


「あら。わたくしの財布の心配をしてくださるなんて、光栄ですわ」


 執務室の扉が開かれ、わたくしはアラリック皇帝陛下を伴って姿を現しました。


「リン様。あなたが放出した製品、実は少しだけ『鑑定』させていただきましたの。……ショウ様」


 背後から、分厚い眼鏡をかけたショウが、大量の解析データを持って現れました。


「……信じらんねえよ。このナイフの硬度、この布の耐火性……。全部、俺たちが必死に集めている『魔力廃棄物』を極限まで精製して作られてる。……つまりこれ、黄金国にとっては『ゴミを加工したリサイクル品』なんだよ。だからこれほど安く作れる」


 ショウの言葉に、リンが不敵に口角を上げました。


「そうだ。我らにはお前たちのゴミを『黄金』に変える技術がある。お前たちが束になっても、このコストパフォーマンスには勝てない」


「ええ、その通りですわ。……ですから、わたくしは決めたのです」


 わたくしは一歩、リンへと歩み寄りました。


「黄金国がゴミから作ったその製品。……それを帝国が買い叩き、世界中の『ブランド品』として高値で転売して差し上げますわ。……名付けて、『帝国公認・聖女の奇跡ブランド』。……セレスティーヌ様のサイン一つで、原価銅貨五枚のナイフが、金貨一枚で飛ぶように売れる。……市場が黄金国の品を求めているなら、わたくしという仲介人ディーラーを通さない限り、一品たりとも手に入らないようにして差し上げますわ」


「……っ!? 我々の品を、お前のブランドとして売るというのか!?」


「ええ。在庫はすべてわたくしの倉庫にあります。……あなたたちが追加で送り込もうとしても、帝国の全港湾は『衛生検査』という名の名目で、入港を半年間停止させていただきましたわ。……在庫を持てないメーカーほど、惨めなものはございませんのよ?」


 リンの瞳が、驚愕と屈辱に染まりました。

 黄金国が仕掛けた「安売り攻勢」は、エレノラの手によって、帝国の『巨大な貿易黒字』へと強制的に変換されてしまったのです。


「……準備はすべて整いましたわ。リン様。……あなたたちの『技術』は素晴らしい。ですが、それを『市場』に繋ぐための鍵は、すべてわたくしが握っていますの。……さあ、次の在庫はいつ届くのかしら? もっと安くしてくだされば、もっと多く買い叩いて差し上げますわよ?」


 エレノラの笑い声が、黄金に輝く大聖堂に反響します。

 それは、神の代理人を名乗る者たちへの、最大級の宣戦布告でした。

お読みいただきありがとうございます!

「敵の安売りを、全量買い占めて自社ブランドで転売する」。

転生者の知識すら「原価計算」の材料にしてしまうエレノラ様、いかがでしたでしょうか。

どれほど優れた技術も、エレノラの「市場支配」の前では、ただの利益の種に過ぎません。


しかし、黄金国のリンも、このまま引き下がるような女ではありません。

「経済が効かないなら、世界のルールそのものを書き換えてやる」

……そんな、より理不尽な管理者の力が帝都を襲おうとしています。


この戦いの行方が気になる!と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。

皆様の評価が、エレノラ様が黄金国の在庫を買い占めるための「新帝国紙幣」の発行余力になりますわ!


次回、第35話は『ショウ様、あなたの「現代知識」で神のサーバーをハッキングなさい』。

いよいよ、世界のシステムの深部へとメスを入れますわ。

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ