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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第31話:『準備はすべて整いましたわ。……さあ、魔法なき世界の「新秩序(ルール)」を書き込みましょう』

「銀貨だ! 本物の、輝く銀の重みを知れ、帝国の犬どもめ!」


 西方の自由都市連合、その盟主である港湾都市リヴァーサイド。

 広場では、着飾った貴族や豪商たちが、帝国の「新紙幣」を火に投げ込み、自らが発行したばかりの『リブラ銀貨』を高く掲げて歓声を上げていました。

 魔法が消えた今、人々が信じるのは、ただ一つ。その手に触れることができる、物理的な金属の価値だけです。


「エレノラの紙切れなど、暖炉の焚き付けにもならん! 我らには銀がある、そして大陸最大の羊毛がある! 帝国が飢えに苦しむ中、我らはこの銀で世界中の物資を買い占めるのだ!」


 連合の議長、ハミルトン伯爵が肥え太った腹を揺らして笑いました。

 彼らの計算は、単純でした。

 魔法による転送や通信が消えた今、物流の主役は船。そして、その中継拠点である西方を封鎖すれば、帝国の経済は一週間で干上がるはずだ――と。


 ……ですが。


「……あら。あの方たち、まだ『需要と供給』という言葉の意味をご存じないのかしら?」


 ドラクロワ帝国の帝都、黄金に輝く経済顧問執務室。

 私は、窓の外で揺れる街灯(物理的な鯨油式)を眺めながら、手元のティーカップを静かに置きました。

 執務室の壁一面には、魔法ではなく、ショウに設計させたゼンマイ式の『リアルタイム価格表示盤』が、カチカチと音を立てて数字を刻んでいます。


「シエル。西方の『リブラ銀貨』の対帝国紙幣レートはどうなっていて?」


「はい。現在、一対〇・〇二。暴落クラッシュが止まりません。……西方の商人が銀貨を掲げれば掲げるほど、市場からは『パン』と『塩』が消えています」


「ふふ、当然ですわね。……あの方たちが誇る羊毛。それを買うべき帝国の織物工場は、今、わたくしの命令で『ストライキ中』ですもの。……買い手のいない商品は、ただのゴミですわ」


 私は、盤上の駒を一つ、西方の都市の上へと進めました。


「魔法が消えたことで、運賃コストは十倍に跳ね上がりました。銀貨は重く、運ぶだけで強盗に狙われ、輸送費がかさみます。……一方で、わたくしの紙幣は軽く、帝国の全拠点で『食糧』と『燃料』に直接引き換えることができる。……シエル、トドメを」


「御意。……関税、および港湾封鎖の第ニ段階へ移行しました。現在、西方から帝国へ向かう全船舶に対し、リブラ銀貨での支払いを拒否。決済は帝国紙幣、または『黄金ゴールド』のみに限定しました」


「な……っ!? バカな、そんなことが!」


 ――同時刻、西方のリヴァーサイド市。

 議長ハミルトンの元に、血相を変えた商人が飛び込んできました。


「議長! 大変です! 帝国へ送った羊毛の船が、すべて突き返されました! それどころか、帝国の港に停泊していた我が連合の船が、『関税の未払い』を理由にすべて差し押さえられています!」


「差し押さえだと!? 銀貨で払うと言っただろう!」


「帝国は『銀は不純物が多いので資産として認めない』と! さらに、帝国が管理する南方の塩田が、我が連合への輸出を完全に停止しました! 民衆が、塩がないと暴動を起こしています!」


 ハミルトンの顔が、瞬時に土気色へと変わりました。

 彼が掲げていた銀貨。それは確かに価値のある金属でしたが、それを「食べる」ことはできません。そして、他国がそれを受け取らなければ、ただの重たい「石ころ」と同じです。


「エレノラ……っ! あの悪魔の令嬢め、世界を飢えさせてまで、我らを屈服させるつもりか!」


「いいえ。……わたくしはただ、世界を『適正価格』に書き換えているだけですわ」


 帝都の執務室。私は、アラリック皇帝陛下が差し出した、一通の軍事報告書を受け取りました。


「エレノラ。西方の連合が、経済封鎖に耐えかねて傭兵を雇い始めた。……国境付近に三万。君が首を絞めすぎたせいで、ネズミが窮鼠と化したようだ」


「ふふ、陛下。ネズミを叩くのに、陛下の高貴な剣を汚す必要はございませんわ。……ショウ様」


 部屋の隅で、鉄の枷をはめられたまま計算機を叩いていた転生者ショウが、忌々しそうに顔を上げました。


「……何だよ、エレノラ。俺の脳みそはもう、お前の帳簿のために使い果たされたはずだぞ」


「あら、ご謙遜を。……あなたが隠し持っていた『火薬を使わない、圧縮蒸気による投石機』の設計図。……それを、帝国の防衛線に配備させていただきましたわ。……燃料(石炭)は、わたくしが独占しているものですから、実質、弾代以外はタダですわね」


 ショウは絶望に顔を歪めました。

 自分が「魔法を消して、技術で勝つ」ために考えた兵器が、今やエレノラの「独占資本」を守るための、最も安上がりな防衛システムとして利用されている。


「準備は、すべて整いましたわ。……陛下、西方の連合に、わたくしの『最終通牒ラスト・オファー』を届けてくださいな」


 私は、真っ黒なインクで署名した一通の書状を掲げました。


「内容は?」


「『自由都市連合の全解体、およびドラクロワ帝国への経済併合(M&A)』。……これに応じるなら、明日の朝には、彼らの銀貨一袋をパン一斤と、慈悲として交換して差し上げますわ」


 窓の外、帝都の夜明けが近づいていました。

 魔法が死に、物理と数字が世界を支配する新しい朝。

 

 かつて私を追放した王国。

 私を侮った帝国の貴族。

 私を利用しようとした教会と、技術で君臨しようとした転生者。


 そのすべてが今、私の「新帝国紙幣」という名の鎖に繋がれ、一つの秩序へと収束していきます。


「……さあ。世界という名の不良債権。……残さず、わたくしが清算して差し上げますわ」


 私の瞳には、もはや一国の令嬢の面影はありませんでした。

 それは、大陸そのものを買い叩いた、美しき独裁者の輝きでした。

お読みいただきありがとうございます。

「銀貨は石ころ、紙幣はパン」。

物理的な価値に縋った西方の連合に対し、エレノラ様が仕掛けた「物流と通貨の包囲網」。

剣を交える前に、敵の「塩」を止め、資産を「無価値」に書き換える……これぞ経済戦の真髄ですわね。


ショウ様の発明すらも「コスト削減」のために再利用する徹底ぶり、エレノラ様の容赦のなさに痺れていただけましたでしょうか。


第2部・帝国動乱編、いよいよ次回、真のクライマックス。

追い詰められた西方の連合が放つ最後の一撃。

そして、エレノラ様とアラリック皇帝が迎える、新世界の「王座」。

果たして、エレノラ様の帳簿に、最後にはどのような「利益」が計上されるのでしょうか。


「西方の自滅が見たい!」

「エレノラ様の世界統一を最後まで見届けたい!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。

皆様の評価が、西方の連合を完全に破産させるエレノラ様の「最終宣告」の重みになりますわ!


次回、第32話(第2部・完結)。

『清算完了。この大陸のすべてを、わたくしの資産として計上いたしますわ』。

どうぞお楽しみに!

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