↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/61

第25話:『帝国全土に告ぐ。今日から神への寄付は、わたくしへの「投資」に変わりますわ』

――バチリ、と。

 帝都を数千年にわたって守護してきた「魔導結界」が、最期の悲鳴を上げて砕け散りました。

 

 街中を照らしていた魔導灯が一斉に消え、帝都は深い、底なしの闇に沈みます。

 

「あ……あ……魔法が、魔法が使えない!」

「聖女様の加護が消えたぞ! 神の裁きだ、世界の終わりだ!」


 広場に集まっていた民衆から、悲鳴と怒号が上がります。暗闇の中で人々は折り重なるように倒れ、あるいは天を仰いで泣き叫びました。彼らにとって魔法とは呼吸と同じ。それが奪われることは、生存権そのものの喪失を意味しました。


「ククク……ハハハハ! 見ろよ、これが俺の作った『新しい世界』だ!」


 隣国バルディアの国境付近。魔導双眼鏡(ただし物理レンズ仕様)で帝都を眺めていたショウが、狂ったように笑い声を上げていました。

 

「どんなにエレノラが数字をこねくり回そうが、魔法がなきゃ魔導通信も、魔導決済も、転送陣もただのガラクタだ。経済? 信用? そんなもん、一晩でゼロだ! 俺の勝ちだ、エレノラ!」


 ショウは確信していました。魔法という文明の基盤を腐らせれば、その上に築かれたエレノラの「帝国の帳簿」もまた、ただの紙屑に変わるのだと。


 ……ですが。


「……五、四、三、二、一。……ジャストですわね」


 漆黒の闇に沈んだ帝都のど真ん中、聖教会の正面階段の上。

 私は、手に持った機械式時計――ショウが持ち込んだ『現代知識』を逆手に取って、帝国時計職人に作らせたゼンマイ仕掛けの逸品――の針を眺め、優雅に呟きました。


「シエル。……点火なさい」


「御意」


 シエルが懐から取り出したのは、魔法の杖ではなく、一本の『マッチ』でした。

 シュッ、という乾いた音と共に、小さな火が灯ります。彼女がその火を、階段脇に設置されていた巨大な燭台……ではなく、「鯨油」を満たした最新式の街灯へ投じました。


 ボッ、と。

 魔法ではない、生々しい「燃焼」によるオレンジ色の光が、私の周囲を照らし出しました。

 

 一つ、また一つ。

 魔法の灯が消えた帝都に、私が数ヶ月前から密かに配置させていた「物理的な灯」が連鎖的に灯っていきます。それは闇に慣れた民衆の瞳に、神の奇跡よりも鮮烈な「希望」として映り込みました。


「皆様! 落ち着きなさいな!」


 私は魔法の増幅器を使わず、物理的な「拡声器」を手に、広場へ向かって声を張り上げました。


「魔法が消えた程度で、世界の終わりだなんて、ずいぶんと想像力が欠乏していらっしゃること! 魔法は確かに便利ですが、それはただの『補助ツール』に過ぎませんわ。……価値の本質は、ここ(頭脳)と、ここ(帳簿)にあるのです!」


 混乱していた民衆が、光の中に立つ私を、呆然と見上げました。


「いいですか。教会が語った『神の加護』という名の仮想通貨は、今この瞬間、不渡りを出して完全に破綻いたしました! ですが、わたくしが管理する『帝国投資銀行』は、一銅貨の損失も出しておりませんわ」


 私は、シエルが掲げた漆黒のトランクを開け放ちました。

 そこには、魔法の力を一切借りず、熟練の彫金師が刻んだ「新帝国金貨」と、最高級の羊皮紙に特殊なインクで刷られた「新帝国紙幣」がぎっしりと詰まっていました。


「これを見なさい。これは魔法で生み出した紛い物ではありません。帝国が保有する『本物のゴールド』と、わたくしの『信用』によって裏付けられた、この世で最も確かな価値ですわ。……今日から、神への寄付は一切禁止いたします。その代わり、あなたの持っているその無価値な銀貨を、わたくしへの『投資』として、この新紙幣に交換して差し上げますわ!」


「と、投資……? それを持っていれば、パンが買えるのか……?」


 一人の平民が、震える声で尋ねました。

 私は、最高に不敵な微笑みを浮かべました。


「ええ。この紙幣は、帝国が保証する『命の契約書』ですわ。これを持つ者には、わたくしが独占管理する備蓄倉庫から、優先的に食糧と燃料を提供いたします。……魔法がない世界が不安? ならば、わたくしと契約なさい。神よりも確実に、あなたの明日を買い取って差し上げますわよ?」


「……お、お願いだ! 交換してくれ!」

「私のも! 教会に寄付するはずだった金だ、全部エレノラ様に預ける!」


 闇の中で、人々が競うように私の元へと押し寄せました。

 信仰という名の「負債」を捨て、投資という名の「生存戦略」へ。

 

 魔法が消えたことで、人々は縋る対象を失いました。その空白に、私は「エレノラ」という絶対的な基軸通貨ルールを流し込んだのです。


「陛下。……ご覧になりました?」


 私は隣に立つアラリック様を仰ぎ見ました。

 彼は暗闇の中、物理的な炎に照らされた私の横顔を、畏怖と熱狂の入り混じった瞳で見つめていました。


「……エレノラ。君は、神が死んだ後の世界を、たった一枚の紙で支配するつもりか」


「あら陛下。支配ではありませんわ。……『適正な資産管理』と呼んでいただきたいものですわね。……ショウ様、聞こえていますかしら?」


 私は空高く、ショウがいるであろうバルディアの方角を見据えました。


「あなたが魔法という名の『仮想の価値』を消し去ってくださったおかげで、世界は今、わたくしの『現物の信用』以外に何も信じられなくなりました。……感謝いたしますわ。おかげで、全人類の資産を、このわたくしの帳簿に一括登録する手間が省けましたもの」


 闇夜の帝都。

 魔法が死に、物理的な炎が揺れる中で、私の「新帝国経済」は、かつてないほどの爆発的な成長グロースを遂げようとしていました。


 準備は、すべて整いましたわ。

 ショウ様。……あなたが次に放つ攻撃、それもまた、わたくしの資産を増やすための『材料』に過ぎませんのよ?

お読みいただきありがとうございます。

魔法という「ファンタジー世界のインフラ」が消えた瞬間、唯一「物理と数字」で準備をしていたエレノラ様が、全人類の信仰と資産を根こそぎ飲み込んでしまいました。


ショウのテロは、皮肉にもエレノラ様による「世界銀行」の設立を加速させてしまったようです。

魔法なき世界で、エレノラ様の署名が入った紙が、神の加護よりも重くなる……。

この「知略のスケールの違い」、スカッとしていただけましたでしょうか。


しかし、ショウもこのままでは引き下がりません。

彼が持つ「現代兵器」の真価は、果たしてエレノラ様の帳簿を物理的に焼き切ることができるのか?

そして、新聖女セレスティーヌが放つ「魔法なき世界の奇跡」とは。


続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。

皆様の評価が、エレノラ様が発行する「新帝国金貨」の発行部数をさらに増やしますわ!


次回、第26話は『魔導なしの産業革命? よろしい、その「工場の所有権」も買い叩かせていただきますわ』。

ショウの「最後の悪あがき」を、エレノラ様がどう「買収」するのか、どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。