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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第26話:『魔導なしの産業革命? よろしい、その「工場の所有権」も買い叩かせていただきますわ』

「ハハハ! 回れ、回れ! 時代を動かす鋼鉄の心臓よ!」


 隣国バルディア、国境付近に急造された巨大なレンガ造りの工房。

 魔法が消え、静止した世界の中で、そこだけが異常な熱気と黒煙を吐き出していました。理系転生者ショウが、油にまみれた手で巨大なピストンを叩き、狂喜の声を上げています。


「魔導具は全部ガラクタだ! 通信も、移動も、暖房もな! でも俺の『蒸気機関』は違う。魔法なんて不確かなエネルギーじゃなく、物理法則に従って動く。……これで武器を作り、鉄道を敷く。帝国もエレノラも、俺の技術を這いつくばって買いに来るしかねえんだ!」


 ショウの背後には、彼が強引にバルディア王から予算を毟り取って作らせた、最新鋭の「蒸気式連射銃」の試作機が並んでいました。

 魔法が消え、騎士の鎧も障壁も紙屑になった今、物理的な弾丸を飛ばすこの武器こそが「大陸最強の暴力」になるはずでした。


 ……ガシャン。


 不意に、工房の重厚な鉄扉が内側からではなく、外側から「鍵を開けて」開かれました。


「……あら。ずいぶんと騒々しい『不良債権』が動いていますわね」


 黒煙渦巻く工房に、場違いなほど優雅なドレスの裾を翻して、わたくし――エレノラ・フォン・ロスタールは足を踏み入れました。

 傍らには、魔法の代わりに「物理的な」ボディーガードとして、帝国が誇る巨漢の近衛兵たち。そして、手に一束の書類を抱えたシエル。


「エレノラ……!? なぜここに、いや、どうやって入った! ここはバルディア王室の特別管理区域だぞ!」


「いいえ、ショウ様。ここは現在、帝国の『担保物件第104号』ですわ。……シエル」


 シエルが、一瞬の澱みもなく書類を読み上げます。


「バルディア王室は、昨夜の魔法消失に伴う食糧危機への対応資金として、帝国中央銀行から金貨五百万枚の緊急融資を受けました。その際の担保として、バルディア国内の全『新規工業施設』および『鉱山採掘権』が帝国へ譲渡されています」


「な……んだと? 担保? 王が、俺の工場を売ったっていうのか!?」


「売ったのではありません。……『維持不能と判断された資産の流動化』ですわ。ショウ様、あなたの蒸気機関。動かすには大量の石炭が必要でしょう? ですが、その石炭を運ぶための馬車鉄道の路盤、先ほどわたくしが買い取らせていただきましたの」


 ショウの顔から、急速に血の気が引いていくのが分かりました。


「おま……お前、魔法が消えてパニックになってるはずだろ!? なぜそんな事務的な手続きを……!」


「パニック? ふふ。魔法という不安定な資産が消滅したのです。投資家として、より確実な『現物資産(工場や鉱山)』を押さえるのは、呼吸をするより当然の判断ではなくて?」


 わたくしは、激しくピストン運動を繰り返す蒸気機関を、扇で指し示しました。


「素晴らしい技術ですわ、ショウ様。ですが、この機械。一時間の稼働につき、石炭三トンを消費しますわね? その石炭、あなたが今日中に用意できなければ……この機械はただの『場所を取る鉄屑』。……そして、帝国への返済が滞れば、わたくしはこれをスクラップとして売却し、損失を補填リカバリーする義務がありますの」


「ふざけるな! 俺の、俺の知識が、たった数枚の紙切れで……!」


「知識には価値がありますが、それを動かす『サプライチェーン』には価格がつきますのよ。……ショウ様。今すぐその火を止めなさい。一分回すごとに、あなたは帝国に対して『無許可の燃料消費料』として金貨十枚の負債を積み上げていることになりますわよ?」


 ショウは、自分が生み出した「時代の象徴」のレバーを握りしめ、震えていました。

 魔法を消せば勝てる。技術があれば君臨できる。……そんな子供じみた幻想が、エレノラの「契約」という名の冷徹な現実の前に、ボロボロと崩れ落ちていきます。


「……エレノラ。お前、人間じゃないだろ。……魔法が消えた世界で、なんでそんなに平然と笑ってられるんだよ……」


「あら、心外ですわね。……わたくしはいつだって、数字という名の『魔法』を信じているだけですわ」


 わたくしは一歩、彼に歩み寄りました。

 

「ショウ様。……あなたが今日からすべきことは、世界征服ではありません。……わたくしの帳簿に記載された『借金』を返すために、その脳をフル回転させて、帝国に利益をもたらす機械を設計することですわ。……お分かりかしら、我が帝国の『無給技術顧問』様?」


 ショウの絶望に満ちた絶叫が、黒煙の立ち込める工房に響き渡りました。

 現代知識、結構ですわ。ですが、それを動かす「資本ルール」を作ったのは、このわたくしなのですから。


 準備は、すべて整いましたわ。

 さあ、次はどの「発明」を、わたくしの利益に変えて差し上げましょうか。

お読みいただきありがとうございます。

「技術があっても、工場が自分のものでなければ無意味」。

現代社会の過酷なルールを中世に持ち込み、転生者の夢を「固定資産の差し押さえ」で粉砕するエレノラ様、いかがでしたでしょうか。


魔法が消え、物理法則が支配する世界になったからこそ、エレノラ様の「資本」による支配はより強固なものとなりました。

ショウ様は、自分が作った機械の一回転ごとに「負債」が増えていくという、地獄のような状況に追い込まれましたわね。


次は、この「技術」をエレノラ様がどうビジネスに転用し、大陸全土の富を吸い上げるのか。

そして、その一方で「愛」という名の負債を抱え続けるセドリック殿下たちの現状は……。


「もっとショウを追い詰めてほしい!」

「エレノラ様の銀行家としての手腕をもっと見たい!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。

皆様の評価が、エレノラ様がショウに課す「特許使用料」の金額をさらに吊り上げますわ!


次回、第27話は『ショウ様、あなたの発明した「蒸気機関」は、わたくしの石炭エネルギーがなければただの鉄屑ですの』。

エネルギーを握る者が世界を制する――その真理を教えて差し上げますわ。

お楽しみに!

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