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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第24話:『教皇庁への公開質問状。神の愛に「利子」はつくのかしら?』

「……シエル。魔導通信エーテルの感度が、通常時の百分の一まで低下していますわね」


 帝都へと戻る魔導馬車の中。私は、完全に機能を停止してただのガラス細工と化した通信機を、指先で軽く弾きました。

 先ほどまで馬車を包んでいた暖かな魔導障壁も消え、代わりに窓からは冷たい夜風が入り込んでいます。


「はい。隣国バルディア方面より、魔力を『中和』する粒子が散布されている模様です。……お嬢様、このままでは帝都の経済活動……特に、魔導式決済システムが完全に麻痺いたします」


 シエルの冷静な報告。

 魔法が文明の根幹を成すこの大陸において、魔力が消えるということは、現代で言えば全世界の電力が一瞬で遮断されるに等しい絶望ですわ。


「ふん。ショウという小僧、なかなか大胆な『空売り』を仕掛けてきたものだ」


 隣で腕を組むアラリック皇帝陛下が、暗闇の中で獰猛な笑みを浮かべました。


「魔法が使えなくなれば、私の騎士団も、君の商会も、ただの無力な群衆になると踏んだか。……エレノラ、どうする。私の剣で、その爆弾を放った連中を直接清算してこようか?」


「あら陛下、そんな野蛮な。……物理的な破壊は、最後に残すべき『最後のコスト』ですわ。……まずは、この混乱を機に、最後の手出しをしてきた『神の代理人』たちを片付けてしまいましょう」


 馬車が帝都の正門に滑り込みました。

 そこには、魔力が消えたことでパニックに陥った群衆……ではなく、槍を構えた帝国兵たちに囲まれ、必死の形相で抗議する一団がおりました。


 聖教会の特使たちですわ。


「エレノラ・フォン・ロスタール! 陛下! 街の魔導灯が消えたのは、あなたがたが聖域を荒らし、神の怒りを買ったからだ!」


 馬車を降りた私に、先頭の司教が震える指を突きつけて叫びました。

 周囲の民衆が、不安げにこちらを見つめています。魔法が消えた恐怖を、「神罰」という言葉で煽り、自分たちの権威を再建しようという、実に見え透いた火事場泥棒リスク・マネジメントですわね。


「あら。神の怒り、ですって?」


 私は扇を広げ、闇夜に響くような高笑いを上げました。


「司教様。……もしこれが神の怒りだというのなら、なぜ神様は『教会の帳簿の赤字』を真っ先に解消なさらないのかしら?」


「な、何を……!」


「神は無限の愛を民に注ぐとおっしゃいましたわね。……では伺いますわ。その『愛』は、無償の融資ギフトなのかしら? それとも、教会が代理で徴収している『高利貸し』の担保なのかしら?」


 私は一歩、司教へと歩み寄りました。

 魔導灯の消えた街で、私の瞳だけが冷徹な理知の光を放っています。


「あなたがたがこれまで民から奪ってきた寄付金。それを『神への積立金』と呼ぶのなら、魔法が消えた今こそ、その積立金を全額返済リファンドすべき時ですわ。……シエル、私が教皇庁へ宛てた『公開質問状』を読み上げなさい」


 シエルが懐から、魔力を必要としない古い羊皮紙を広げました。


「一、聖教会が唱える『神の加護』の不履行に伴う、過去百年分の寄付金の全額返還請求。

 二、神の愛という名の『無限責任負債』に対する、適正金利の算出根拠の提示。

 三、魔法消失という『債務不履行』に対する、教皇庁の全資産による物的賠償。

 ……回答期限は、明日の日の出までです」


 司教の顔が、絶望に染まりました。

 神聖なる教えを、無味乾燥な「金融契約」として再定義されたのです。

 神の愛に金利はつくのか。……そんな冒涜的な問いに、答えられるはずがありません。


「答えられないのであれば、聖教会は本日をもって『破産宣告』を受領したと見なします。……帝国があなたの聖堂を『避難所』として、そして金貨の詰まった壁を『配給資金』として、物理的に接収させていただきますわ」


「き、貴様は……悪魔か……!」


「いいえ。……わたくしはただの『会計士』ですわ。……陛下、不法占拠者たちの排除をお願いいたします」


 アラリック様の合図と共に、帝国兵たちが司教たちを無造作に引きずり出しました。

 「神罰」という名の脅しは、エレノラの「契約」という名の刃に、あえなく両断されたのです。


 だが、その瞬間。

 北の空が、不気味な紫色の雷鳴と共に、真黒な霧に覆われました。


 バチバチ、と。

 帝都を守る最後の魔導結界が、悲鳴のような音を立てて霧に喰われていく。


「……お嬢様。バルディア王国の『反魔力霧』、予定より三時間早く帝都上空に到達しました。……帝都全域の魔導インフラ、一時間以内に完全沈黙します」


 アラリック様が、腰の剣に手をかけました。

 魔法が使えぬ剣など、ただの鉄の棒に過ぎない。……だが、彼は不敵に笑っています。


「さて、エレノラ。数字で世界を繋ぎ止める君の魔法、見せてもらおうか」


「ふふ。陛下、魔法が消えて困るのは、魔法に依存した無能だけですわ。……わたくしは、魔法がなくても価値が変わらない『現物資産ゴールド』と、わたくしが発行する『新帝国紙幣』の準備、すでに数年前から済ませておりますの」


 私は、闇に染まりゆく帝都を見つめ、静かに扇を閉じました。


「理系転生者ショウ様。……あなたが魔法という名の『仮想通貨』を暴落させた今こそ……わたくしが、この世界の『唯一の基軸ルール』になる瞬間ですわ」


 漆黒の闇の中、私の「清算」は、むしろここからが本番でした。

お読みいただきありがとうございます。

「神の愛に金利はつくのか」。

教会の「信仰」という名の不透明な負債を、一瞬で「不当利得」に変えてしまうエレノラ様、いかがでしたでしょうか。


魔法が消え、世界が混乱に陥る中で、唯一「魔法に依存しない経済圏」を構築していたエレノラ様の先見の明。

ショウが放った「魔法消失」というテロは、皮肉にもエレノラ様が世界の全資産を買い叩くための「デフレ」を招いてしまったようです。


理系転生者vs会計令嬢。

物理的な破壊を目指すショウに対し、エレノラ様は「価値の再定義」という、より高次元の戦いを仕掛けます。


「魔法が消えた世界で、エレノラ様がどう無双するのか気になる!」

「ショウの絶望する顔が早く見たい!」

そう思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします!

皆様の評価が、魔法なき世界を照らすエレノラ様の「新帝国貨幣」の信用力になりますわ!


次回、第25話は『帝国全土に告ぐ。今日から神への寄付は、わたくしへの「投資」に変わりますわ』。

暗闇の帝都で、エレノラ様が放つ「黄金の光」を、どうぞお楽しみに!

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