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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第23話:『リリアナ様、見世物小屋での「肖像権」の売れ行きは好調ですわよ?』

「……ああ、この不快な泥の臭い。懐かしくすらありますわね」


 帝国の豪華な魔導馬車の窓を開け、私は鼻を扇で覆いました。

 視界の先に広がるのは、かつての私の故郷であり、現在は帝国の『特別管理区域』……つまりは、破産した旧アルテマ王国の王都です。


 教会の隠し資産金貨200万枚という『棚ぼた』を得た私は、その一部を使い、この泥船の残骸を少しだけ「磨き上げる」ことにいたしましたの。もちろん、慈悲ではなく、再開発による利益回収のためですわ。


「エレノラ、わざわざこんなゴミ溜めにまで足を運ぶとはな。私への奉仕よりも、この地の『清算状況』が気になるか?」


 隣に座るアラリック様が、私の腰を抱き寄せながら不敵に笑います。

 私はその手に自分の手を重ね、優雅に微笑み返しました。


「あら、陛下。投資家というものは、自分の資金が正しく『価値』を生んでいるか、定期的に実地棚卸しをするものですわ」


 馬車が止まったのは、かつて王都で最も賑わっていた中央広場の端。

 そこには現在、帝国の興行師たちが運営する巨大なテント――見世物小屋が建っております。


 テントの入り口には、派手な看板が掲げられていました。

『独占公開! 国を滅ぼした偽聖女と、愛を売った愚王子の末路! 入場料:銅貨5枚』


 ……ふふ。マルティナ、実にいい仕事をしますわね。


 私たちが中へ入ると、そこには悪臭と熱気が渦巻いていました。

 舞台の上では、ボロボロの聖女服を着せられた女性が、観客から投げつけられる野菜のクズを浴びながら、必死に「祈り」のポーズをとっています。


「やめて! わたくしは聖女なのよ! 近寄らないで、この不潔な民衆ども!」


 リリアナ様の絶叫。ですが、それは観客にとって最高のエンターテインメントに過ぎません。

 彼女がかつて『石鹸』や『マヨネーズ』で釣った民衆たちは、今や彼女を「自分たちの生活を壊した戦犯」として、心ゆくまで罵倒しております。


「……リリアナ様。お疲れのようですわね」


 私が舞台の袖から声をかけると、彼女の動きが止まりました。

 泥に汚れた顔を上げ、私を見た瞬間の彼女の瞳。絶望と、憎悪と、そして縋るような期待が混ざり合った、実に醜い色ですわ。


「エ、エレノラ様! 助けて! 契約が、契約が違いますわ! わたくし、こんなこと……!」


「いいえ。契約は一字一句、適正に履行されていますわよ。シエル」


 背後に控えていたシエルが、帳簿を広げ、事務的に読み上げます。


「『聖女リリアナ』の肖像を用いたキャラクターグッズ、並びに今回の興行収入。……今月の純利益は金貨300枚。……リリアナ様、あなたの顔が描かれた『偽聖女の毒入り(風)キャンディ』、帝都の子供たちに大人気ですわよ?」


「きゃ、キャンディ……!? わたくしの顔を、そんな……!」


「肖像権の独占使用権は、すでにセドリック殿下が署名済みです。……ああ、そのセドリック殿下ですが」


 私が視線を移した先。舞台の下で、重い石材を運び、観客の座席を修理している一人の男がいました。

 かつての王太子。今は、見世物小屋の雑用係。


「セドリック殿下。そちらの『労働』の進捗はいかがかしら?」


 セドリックは、私と、そしてその隣に立つ帝国の支配者アラリック様を見て、力なく膝をつきました。

 彼の手はマメだらけで、かつて剣を握っていた高貴な面影は微塵もありません。


「……エレノラ。私は、私は……。頼む、もう許してくれ。リリアナが、リリアナがすべて悪いんだ。私は彼女に騙されていただけなんだ……!」


 ……醜い。

 最後まで責任転嫁リスクヘッジすらできない無能。

 私は彼に、一枚の安っぽいパンフレットを投げつけました。


「殿下、ご安心なさいな。あなたの『真実の愛』のおかげで、帝国のエンタメ産業の株価は上昇傾向にありますわ。……あなたたちがここで惨めに生き恥を晒せば晒すほど、わたくしの資産は増える。……これこそが、あなたたちが望んだ『新しい価値』の形ではありませんこと?」


「ひっ……!」


 二人の悲鳴を背に、私は馬車へと戻りました。

 復讐とは、ただ相手を消し去ることではありません。

 相手の存在そのものを『資産』として組み込み、その苦痛から一滴残らず利益を搾り取ること。


 馬車が動き出した時、アラリック様が不意に私の耳元で囁きました。


「エレノラ。……君の言う『清算』が、これほどまでに残酷なものだとはな。……だが、一つ聞きたい。あのショウという転生者が作っている『反魔力爆弾』。あれが爆発すれば、君が築いたこの経済圏も、ただの紙屑になるのではないか?」


 私は窓の外、遠くに見える隣国バルディアの不穏な空を見つめました。


「……陛下。兵器というものは、作られた瞬間に『コスト』が発生します。……そして、使われれば『負債』となりますわ。……ショウ様が魔法を否定したいというのなら、わたくしは『魔法がない世界での通貨価値』を、今この瞬間から買い占めるだけですの」


 その時。

 馬車の中を照らしていた魔導ランプが、一瞬、パチリと音を立てて消えかけました。


「……あら?」


 シエルが即座に周囲を警戒します。

 魔導の灯りが、物理的な故障ではなく……まるで、根源的な『マナ』を奪われたかのように、弱々しく揺れている。


「お嬢様。……感知しました。王都の外郭、魔力の『死滅地帯デッドゾーン』が急速に拡大しています。……これは、自然現象ではありません」


 ……なるほど。

 準備は、すべて整いましたわ。


 理系転生者ショウ様。

 あなたは、世界のルールそのものを壊そうというのですね?

 よろしい。ならばわたくしは、その『崩壊』すらも商品ビジネスに変えて差し上げますわ。


 価値が消える場所でこそ、真の商機チャンスは生まれるものですから。

お読みいただきありがとうございます。

「偽聖女キャンディ」に「元王子の雑用」。

かつての敵が、エレノラ様の帳簿の上で「利益を生む家畜」へと変わる様、楽しんでいただけましたでしょうか。


泥にまみれた二人の絶望を「売上良好ですわ」の一言で切り捨てる快感……。

これぞ悪役令嬢による、真の経済的断罪ですわね。


しかし、物語は新たな脅威へ。

魔導ランプの瞬きは、ショウが放つ「魔法文明の終焉」の足音。

魔法が消えれば、魔法で成り立つ帝国の経済も崩壊するのか?

それとも、エレノラ様が「無魔力時代の標準通貨」を既に設計済みなのか?


続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたしますわ。

皆様の応援が、エレノラ様の「反魔力対策予算」をさらに倍増させますのよ!


次回、第24話は『教皇庁への公開質問状。神の愛に「利子」はつくのかしら?』。

崩壊の予兆を前に、エレノラ様が世界を繋ぎ止めるための「次なる契約」を提案しますわ。

お楽しみに!

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