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婚約破棄、結構ですわ。ただし私が裏で支えていた王室予算三万枚、今すぐ一括返済してくださるかしら?  作者: 朝比奈ミナ


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第22話:『聖女セレスティーヌの初仕事。教会の「裏帳簿」を奇跡で暴きなさいな』

「……眩しすぎますわ。この『虚飾』という名の不純物が」


 帝都大聖堂の中央広場。

 私は、眩いばかりの純白の法衣――といっても、帝国が最高級の魔導シルクで新調した「制服」に身を包んだセレスティーヌ様を伴い、凍りついた教会の面々の前に立っておりました。


 目の前にあるのは、高さ十メートルを超える巨大な黄金の女神像。

 信者たちが一銅貨ずつ削って捧げた寄付金が、この冷たい金属の塊へと変えられた成れの果てですわ。


「エレノラ顧問! 何の真似だ! すでに枢機卿は捕らえられ、我々は調査に協力しているはずだ。これ以上、我々の聖域を土足で荒らすというのか!」


 残された司教たちが、必死の形相で叫びます。

 彼らが守ろうとしているのは神の教えではありません。その背後の壁に塗り込められた「何か」ですわね。


「あら。調査に協力している? ……シエル、彼らが提出した『帳簿』の最終頁を読み上げなさいな」


「はい。『教会の余剰金は金貨五百枚のみ。残りはすべて救貧院の維持費に消えた』……とのことです」


 シエルの報告に、私は思わず扇で口元を隠しました。

 金貨五百枚?

 この巨大な聖堂のロウソク代にも足りない数字を吐き出すとは、よほど私の計算能力を侮っていらっしゃるようですわね。


「セレスティーヌ様。……準備はよろしいかしら?」


 私の問いに、セレスティーヌ様はまだ少し震える手で、私の袖をぎゅっと握り締めました。

 彼女の瞳には、かつての怯えではなく、自分を救い出した「悪魔の令嬢」への、奇妙な信頼が宿っておりました。


「はい……エレノラ様。私の『浄化クリーニング』が、お役に立てるなら……」


「ええ。この聖堂に満ちる『不純物』を、すべて洗い流して差し上げて。……神の前に、隠し事は無用でしょう?」


 セレスティーヌ様が一歩、前へと踏み出しました。

 彼女が静かに両手を広げ、祈りを捧げた瞬間――。


 空気が、鳴動しました。

 リリアナの放っていた、あのけばけばしい「光の演出」とは違う。

 万物の「本来あるべき姿」を強制的に引き出す、澄み渡るような透明な波動。


「――『開示マニフェスト』」


 彼女の唇から、私が教えた「詠唱キーワード」が漏れました。


 次の瞬間、大聖堂の黄金の女神像が、そして背後の重厚な大理石の壁が、激しい光を放ち始めました。

 バキバキ、と不快な音が響き、美しい装飾が剥がれ落ちていきます。


「な、何をしている!? 聖像を破壊する気か!」


「いいえ。……不純物を、選別しているだけですわ」


 光が収まった時、そこに現れたのは――。


 黄金のメッキが剥がれ落ち、むき出しになった「重い鉄」の塊。

 そして、大理石の壁が透き通り、その内部にぎっしりと詰め込まれた、数万、数十万という『純金貨』の山でした。


 壁そのものが、金庫だったのですわ。


「……あら。司教様、これが『金貨五百枚』の正体かしら? 壁の中に塗り込められた、神への背信の証。……ずいぶんと物理的に重たい信仰心ですこと」


 司教たちは、その場に力なく膝をつきました。

 民衆には節制を説きながら、自分たちは聖なる壁の中に莫大な富を隠し、文字通り金の上に座って説法を垂れていた。

 その醜悪な真実が、本物の聖女の光によって暴かれたのです。


「シエル。即座に回収、計上なさい。……これらすべては、教会の不当利得として、帝国の『公共復興基金』に組み入れますわ」


「承知いたしました。……概算で金貨二百万枚。……王国の予算五年分に相当しますわね」


 シエルが事務的にペンを走らせる音が、静まり返った聖堂に響きます。


「……エレノラ様。私、怖くありませんわ」


 セレスティーヌ様が、私の隣でそっと囁きました。

 彼女は、自分が暴いた「金の山」を、まるで汚物を見るような目で見つめています。


「私の力は、人を縛るためのものだと思っていました。でも……こうして『嘘』を消し去るのは、とても……心が軽くなりますわ」


「ふふ、ようこそ『監査オーディット』の世界へ。セレスティーヌ様。……真実とは、いつだって数字の中にしか存在しませんのよ」


 私は彼女の肩を抱き寄せ、勝利の凱歌をあげるように、広場に集まった民衆へと向き直りました。


 聖教会の権威は、今この瞬間、物理的に崩壊いたしました。

 隠された金貨は民のパンに変わり、偽りの神は、私の帳簿の上で『清算』されたのです。


 ですが、その時。

 シエルが私の耳元で、急報を囁きました。


「……お嬢様。隣国バルディアにて、ショウが『反魔力アンチ・マナ爆弾』の試作に成功したとの情報が。……さらに、それを旧アルテマ王国の残党が買い取ろうと動いています」


 あら。

 せっかく手に入れた新しい『資産セレスティーヌ』を、物理的に破壊しようというのかしら?


「……損害賠償、金貨一億枚でも足りませんわね」


 私は窓の外、まだ微かに不穏な黒煙を上げる隣国の方角を睨み据えました。

 次は、世界から『魔法』という資産価値を奪おうとする、理系の暴徒を清算して差し上げなくては。


 準備は、すべて整いましたわ。

 経済という名の戦場に、平和を乱す『不良在庫』の居場所はございませんの。

お読みいただきありがとうございます。

聖女の力を「不純物検知」に使い、教会の物理的な隠し金を暴くエレノラ様。

「壁そのものが金庫」という、宗教の腐敗を象徴する展開にスカッとしていただけましたでしょうか。


セレスティーヌ様も、自分の力を「監査」として肯定し始め、最高のバディとなりつつあります。

しかし、そんな平和を壊そうとするのは、やはりあの男。

理系転生者ショウが作り出した、魔法を否定する爆弾。

「魔法が使えなくなれば、エレノラの支配も終わる」――そんな彼の浅はかな計算を、エレノラ様がどう「逆手にとって利益に変える」のか。


続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価】をお願いいたします。

皆様の評価が、エレノラ様の「反魔力爆弾の買収資金」になりますわ!


次回、第23話は『リリアナ様、見世物小屋での「肖像権」の売れ行きは好調ですわよ?』。

忘れてはいけない旧王国組への、定期的な「清算」をお届けいたしますわ。

お楽しみに!

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