終焉
紅蓮の炎の刃が閃光のごとく振り下ろされる。
刃の軌道に沿って炎が渦を巻き、空気が揺らめく。
その一閃は霧を切り裂き、炎の残光が戦場を照らす。
平行世界の海斗はかろうじて自らの剣で炎の剣を受け止めたが、海斗の奇襲に驚きを隠せなかった。
「カイアン、さっきから、炎、水の精霊魔法ばかり使うお前は、俺同様、土属性の精霊魔法は苦手だとみた。だから、俺の火炎斬を防ぐためお前が作る障壁は先程と同様に氷だと推察できた」
「おのれ、海斗、火炎斬をこのような使い方をするとは!」
そう言って鍔迫り合いをしていると、紅蓮の炎の刃に触れている刃がみるみるうちに、まるで鍛冶場で打たれた鉄のように輝き始め、誰の目にもやがてブレード全体が赤熱していくのは明らかだった。
柄を握る手に焦げた匂いが漂い始めると、最後はどちらが灼熱に耐えて剣を持っていられるかの戦いになった。
先に音を上げたのは、平行世界の海斗だった。
平行世界の海斗は、熱せられた剣から手を離すと、後ろに跳んだ。
「結衣、ここまでだ、撤退するぞ!」
平行世界の海斗はそう叫ぶと、先程結衣がアリシアと戦っていた方向を見た。
一方、結衣はアリシアの剣をダガーで受け止めていた。
圧し合う刃と刃。
しかし、力においてはアリシアの方が上だったようだ。
押し込まれる結衣。
そこに大量の水蒸気が辺りを湿らせた。
結衣が耐えきれず一歩下がろうとしたとき、湿った石畳に足を滑らせて、仰向けに倒れた。
「もらい!」
アリシアの叫ぶ声が聞こえた。ここまでか。観念する結衣。
ごめんね、カイアン。
アリシアは剣を振り下ろす。
その時であった。結衣の体が人影で覆われ、剣が肉を裂く音がした。男の悲鳴が響きわたる。
アリシアの剣に斬られたのは平行世界の海斗だった。結衣のことを、身を挺してかばったのだ。
「カイアン!」
結衣は叫んだ。
結衣の視界の端には、平行世界の海斗を追ってきた海斗が、さらに結衣を斬ろうとするアリシアに
「もうこれ以上はいいだろう」
と制しているのが見えた。
別に私を斬りたければ斬ってもいい。でも、少しだけ待って。
抱き上げて、平行世界の海斗の頭を自分の膝の上に置いた結衣は
「しっかりして。しっかり気を持って、カイアン!」
と叫ぶ。
結衣の声もむなしく、頸動脈を切断されて次第に血の気が失せていく平行世界の海斗は、今にも事切れそうな声で何かを言おうとした。
結衣の両膝は、彼の血で真っ赤に染まっていく。
平行世界の海斗の顔の上には、滴がひとつふたつと落ちた。
「お願い、エリザベス! 代わりに私の命を差し出すから、カイアンにヒールの呪文を!」
しかし、返事はない。冷酷な静寂が、先程まで血みどろの戦いをしていた場を占める。
「ゆ、結衣……」
平行世界の海斗はかすれた声で呟き、言葉の途中で息を詰まらせる。かすかに眉を動かし、涙が静かに頬を伝う——次の言葉を紡ごうとしたが、声にはもう力がなかった。
「俺の命は……もう無理だ。君だけでも元いた世界に戻してあげたかった……」
そう言うと、平行世界の海斗は静かに瞼を閉じ、力なく頭の重みを結衣の膝に委ねた。その顔が、どこか安らいで見えたのは——気のせいだったのだろうか。
「カイアン――!」
徐々に冷えていくカイアンの体を抱きしめた結衣の叫び声が大聖堂の敷地内にむなしく響いた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ついに海斗と平行世界の海斗、そしてアリシアと結衣の戦いに決着がつきました。
平行世界の海斗の「君だけでも元いた世界に戻してあげたかった……」の一言で、彼なりのやさしさや愛情を伝えたかったのですが、読者の皆様にはどのように映ったでしょうか。。
最終話は、今回の戦闘の後日譚となります。
平行世界の海斗を失った結衣は、これからどう生きていくのか?
そして、異世界で生きていく覚悟を決めた海斗の再出発はどのようなものになるのか?
キャラクターたちの行く末を最後まで見届けていただけると幸いです。




