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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第六章 かつて魔王を倒した男、勇者・海斗

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終わりを告げる鐘、交わる刃

「海斗、貴様、何をやっているのか、わかっているのか!」

 平行世界の海斗の怒号が飛ぶ。しかし、海斗はもう迷わなかった。

「俺は決めた。仲間たちと一緒にこの世界で生きていくことを。仲間を、そしてこの世界を守ることを。そして、お前と戦うことを。それが皆を、仲間を裏切らない決断だと!」

「おのれ、海斗! この代償は高くつくぞ!」

 その時、水の刻の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。すると、平行世界の海斗は初めて狼狽の色を見せる。

「……せっかくの俺の計画が、俺たちの希望が……海斗、お前だけは許さん!」

 眉間に深いしわを刻み、目を血走らせた平行世界の海斗は、悪鬼のような表情で詠唱する。

「炎の精霊よ、我にその炎を分け与え給え、ファイアーボール!」

 複数の火の玉が海斗を襲う。

 海斗は寸前で身を翻し、あるいは剣で斬り落としながら、平行世界の海斗との間合いを詰めていった。


 一方、ヒットアンドアウェイを繰り返していた結衣は、アリシアとの距離を再び取っていた。そして、平行世界の海斗の方に顔を向けると、

「カイアン、もうやめましょう。これで当分の間はまた千葉に戻れなくなったのだから、ここは一旦退きましょう」

と説得しようとした。しかし、平行世界の海斗は

「ダメだ。……こいつだけは許せん」

と言うと、握る剣は震え、足はわなないた。血のように赤いオーラが噴き出し、炎のように揺れ動く。周囲の衛兵たちは思わず後ずさりをする。ただただ狂気と憎しみが平行世界の海斗の身を焼き尽くしているかのように見えて、結衣は思わず息を呑んだ。平行世界の海斗は

「魔法の媒体となる剣を持つ片腕を除いて、片手、両足を斬り落として、拘束する。二度と逆らえないようにな!」と咆哮した。

 結衣はこれ以上無駄に戦いたくなかった。決して今まで共に旅をしてきた仲間たちに恨みがあるわけではない。そして、平行世界の海斗にも無駄な命のやりとりをして欲しくなかった。しかし、アリシアが剣を片手で肩に背負うように持ちながら、結衣に近づいてくると

「だってさ、どうする? 自分だけでも逃げる?」

と問いかけた。結衣は、 

「私はどんな時だってカイアンの味方よ!」

と言うと、アリシアに向かって再度ダガーを構えた。

「そうこなくっちゃね。今度こそ決着をつけようぜ!」

と言うと、アリシアは剣を脇に隠すように構えた。

 結衣もダガーを握り直す。

 互いの視線が交錯する。

 時間が一瞬止まったかのように感じられた。

 そして――次の刹那、アリシアが猛進してきた。


 ヒーラーや魔法使い、衛兵の一部が倒れてくれたおかげで、形勢を取り戻したエリザベス、レイナ、アンジェリカも衛兵たちとの戦闘を再開していた。

 すると、小動物の影が衛兵の脇をすり抜け、アンジェリカの元へと駆け寄ってきた――ミーちゃんだ。

「ごめんよ~、待ったぁ?」

 軽い口調で、戦場の空気なぞ気にしていない様子だ。

「ミーちゃん、ちょっと遅い!」

とアンジェリカは少し怒ったように言った。

「ごめんよ~、真打ちは最後に登場するものだからさ!」 

 さすがにアンジェリカも余裕がないのか、

「いいから、障壁(バリア)を張るわよ!」

と声を張りあげた。

 ミーちゃんは「アイヨ!」と答え、アンジェリカと同時に詠唱を始めた。二人の声が重なり、魔力が共鳴する。

「「光の精霊よ、我にその加護を授け給え、ルミナス・バリア!」」

 次の瞬間、空から光の粒が降り注ぎ、それが集まって透明な障壁を四方に形成した。衛兵がエリザベスたちを攻撃するが、剣は障壁を叩き、振動のみを残して剣先はそれ以上進むことができなかった。

 手薄になった衛兵の包囲網の後方から、スナイパーが矢を放つ。矢は的確にエリザベスの頭部を捉えていたが、光の障壁に当たって地面に落ちた。

 アンジェリカが

「炎の精霊よ、我にその炎を分け与え給え、ファイアーボール!」

と詠唱すると、炎の玉は光の障壁をすり抜け、敵のスナイパーに命中した。灼熱の炎がスナイパーを包み込み、悲鳴が響き、焦げた臭いが辺りに漂う。レイナは

「何、コレ……。こんなチートな能力があるのなら、最初から使って欲しかった……」

とため息をついた。そして、

「エリザベスさん、今のうちに自分にヒールを!」

とレイナは叫んだ。

 エリザベスは、矢を抜くと鋭い痛みが肩に走り、血が傷口から(こぼ)れた。すぐに自らの肩にヒールをかけると、傷口が光に包まれ、ふさがっていくのを感じた。

 ミーちゃんは勝手に喋り始めた。

「オイラ、攻撃はさっぱりだけど、ご主人と一緒なら守りは得意なんだよね……ちなみに、攻めは苦手だけど、得意なのは『受け』じゃなくて『守り』だよ。『受け』じゃなくて『守り』! ここ、重要だから二度言ってみた!」

と明るく言い放った。

 エリザベスは、それをスルーすると、

「全能なる神よ、我にその奇跡の光の一部を分け与え給え、ライトニングアロー!」

と魔素が枯渇するのを覚悟で攻撃魔法を詠唱し続けた。

「炎の精霊よ、我にその炎を分け与え給え、ファイアーボール!」

 アンジェリカも同じ考えのようだ。光の矢や炎の玉を受けた衛兵たちは次々に倒れていった。

 エリザベスは状況を見渡すと、ヒーラーがいなくなったため負傷兵の傷は癒えることなく、取り囲む衛兵の数は減っていった。もはや、敵の包囲網は崩壊しつつある——勝利は目前に迫っているように感じた。


 一方、平行世界の海斗と間合いを詰めた海斗の剣戟(けんげき)が始まっていた。鬼神に取り憑かれたかのような表情を見せている平行世界の海斗は

「海斗、お前だけは絶対許さんぞ!」

と絶叫する。

「許してもらわなくて、結構。さっきも言ったが、千葉に帰りたい気持ちがあるのなら、お前は俺を殺せまい。カイアン、悪いがこの状況を最大限利用させてもらう!」

 そう言いながら海斗は、平行世界の海斗が振り下ろしてくる剣を鍔付近のブレードで受け止めた!

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 平行世界の海斗の企ては、ついに潰えました。

 計画を台無しにされた彼は、怒りに呑まれ、もはや周りが見えていません。

 もう迷いがない海斗との剣戟は、いよいよラストバトルの幕開けです。

 この戦いはどんな結末を迎えるのか。


 そして、結衣とアリシアの決着は──。


 最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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