後悔しないための、ただ一つの決断
苛立っている様子の平行世界の海斗は、
「どうするのだ、海斗。早くしないと、お前が千葉に帰ることも仲間の命を救うこともできなくなるぞ!」
と脅してきた。
仲間たちを助けるにはどうしたらいいのか? この世界およびトンネル先の世界に莫大な災厄をもたらしてまで、優先していいものだろうか。
そう考えていると、海斗の頭の中で仲間たちとの思い出が走馬灯のように駆け巡った。
「ダーリンが本当に心の底から決心したというのであれば、私はダーリンについて行く。それだけだ」
「ダーリン、もし元いた世界に帰るのなら、私も連れて行ってくれ」
……そうだ、アリシアはいつもこんな俺に付いていくと言ってくれた。そして何度も命を救ってくれた。後にも先にもこんな人とはもう出会えないだろう。
「もう最低! あなた、女の敵よ」
「しようがないじゃない、私、海斗のこと愛しているんだもん」
「そんな……そんなの嫌です! もし帰ってしまったら……私たちはどうなるんですか……? もう永久にお別れなんですか? チャームの効果が切れて海斗さんを忘れるしかないんですか!」
「エルダー村で待っている父親がいる私は、どうしたらいいのですか? 私は海斗さんにこの世界に留まってほしいです!」
……レイナは、チャームの能力を使う俺のことを『女の敵』と言いながら、父親が司祭であるにも関わらず、けなげに賞金首の俺に付いてきてくれた。何度もピンチに陥ったにも関わらず、それでもなお俺のそばにいてくれた。
「け、決して海斗のことが好きだから付いていくわけじゃないんですからね!」
「わ、私は決してツンデレキャラではありません!」
「私もレイナさん同様、海斗には残って欲しいです」
……エリザベスは、自分の神託が正しいことを確認するためもあるのだろうが、俺に付いてきてくれた。姉にチャームのスキルを使ったのに、最終的に俺のことを信じてくれた。そして、いつもツンデレキャラで、何か不都合なことがあると俺の胸をポコポコ叩いて、周りの皆を笑わせてくれた。
「私は家に帰ったら、いくらでも食べられるから。遠慮なく食べて」
「何か、良いことありそう」
「カイル、早く逃げて!」
……そして、リサリア。優しい君には迷惑ばかりかけてしまった。もう会うことはない君に対して、俺が何かできることはあるのだろうか?
……アンジェリカは……どうでもいい。
皆、賞金首の俺のことを信じてくれた。一緒に戦ってくれた。かばってくれた。かけがえのない、この世界で出会った仲間たちだ。友人だ。どういう決断をしたら、君たちを裏切らないことになるのか。後悔のない決断とは何なのか。
平行世界の海斗は、これが最後通牒だと言わんがばかりに
「海斗よ、いい加減強情を張るのはやめろ。自分が元いた世界に帰れるかどうかも、仲間を助けられるかどうかも、全てお前の決断次第なのだぞ。素直に呪文を唱えろ!」
と答えを迫った。
海斗は
『素直に呪文を唱えて、元いた世界の千葉に戻る……本当にそれが正解なのであろうか? それ以外仲間を助ける方法はないのだろうか? たとえそれで助けたとしても、仲間たちを裏切ったことにはならないのであろうか?』
と自問自答した。
千葉に戻ることができても、俺自身は昔の自分に戻れるだろうか?
帰ることができても、そこに俺の居場所はあるだろうか?
この世界でいろいろな人たちに出会った。俺はもう昔の俺ではない。いい意味でも悪い意味でも変わった。
そして今の俺の居場所は仲間たちに囲まれた――この場所だ。何より仲間たちを裏切りたくない。助けたい。
おとなしく呪文を唱えることだけが、仲間を救う手段じゃない。
この場で戦ってでも、助ける道を選べばいい。……今、戦況の鍵を握っているのは『あそこ』だ。だったら……。
海斗は大きく深呼吸をした。そして、開口一番、
「わかった、俺のすべきことは、やはりただ一つだ……」
と決意を固めた。
「ようやく決心したか」
「俺の決断は、これだ――! 炎の精霊よ、我が剣に地の底に眠る炎の一部を分け与え給え、火炎斬!」
紅蓮の炎を纏った剣から発せられた炎の蛇は、地面から吹き上がりながら這う。熱波が周囲に広がり、炎の奔流がエリザベスたちを取り囲んでいる衛兵やヒーラー、魔法使いの足元を覆うと悲鳴が響いた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ついに海斗の心が決まりました。
「心が定まるとき、剣は応える」のか。
心が定まった海斗は、格上の平行世界の海斗にどう挑み、勝利をめざすのか。
次回もお付き合いしていただければ嬉しいです。




