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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第六章 かつて魔王を倒した男、勇者・海斗

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迷う海斗、結衣の決断

 平行世界の海斗は、少なからず海斗の実力を見誤っていたことを認めざるを得なかった。

「……海斗は予想以上に強い。奴にトンネルを作る魔法を習得させるためとはいえ、魔法剣まで教えたのは失策だったのか? いや、それ以上に神託の魔法を乱発し過ぎて、こちらのレベルダウンが響いているのか……。──いや、どれも千葉に帰るためには必要な行為だったはずだ。戦闘経験も交渉も、こちらの方が上。駆け引きと脅しで押し切るしかない!」

 平行世界の海斗は少し焦っていた。海斗が元いた世界へのトンネルを作る魔法を頑なに唱えようとしないので、水の刻が終わる前に魔法を唱えさせることができるのか、怪しくなってきたからだ。

 平行世界の海斗は、交渉材料になりそうなものはないかと、周囲を見渡した。衛兵に取り囲まれているエリザベスが怪我をしているのを見て、一時的に手を止めて海斗に警告した。

「海斗、お前の仲間が殺されるのは、もう時間の問題だ。もう一度言う。私が貸した剣を媒体にして先程の呪文を唱えろ。仲間を助けたければ、な」

 その時、平行世界の海斗はふと思いついた。そして、結衣、衛兵たちに戦闘を一時的に止めるよう命令を下した。

「そうだ、こうしよう、海斗。もし、先程の呪文を唱えるのであれば、先程の呪文を使ってお前の世界に帰る方法を教えてやろう。お前とて、千葉に戻りたいだろう?」

と言うと、平行世界の海斗は焦りを悟られぬようニヤリと笑った。が、その口元はわずかに引きつり、脈は速まり、掌は汗で湿っていた——大丈夫だ、気付かれない、気付かれてたまるか! もちろん、海斗が元いた世界に戻るためにいつどこで古代魔法の呪文を唱えていいのかを、平行世界の海斗が知るはずもない。

 その時、取り囲んでいる衛兵の中から、エリザベスの声が聞こえてきた。

「海斗、その呪文を唱えてはいけません……!」

 エリザベスは血に染まったローブの上から肩を押さえて、息を荒げながら、それでも必死に声を張り上げた。

「トンネルをつくる前に、この世界と異世界の障壁が崩壊します……! ただの貫通では済まされない! 全てが呑みこまれる……この世界だけでなく、カイアンの世界まで……!」


 どうするべきか。海斗は悩んでいた。海斗も自分の魔法を使って、元いた世界に戻るべきであろうか。

 それに、仲間たちの命もかかっている。しかし、エリザベスが言うように、この世界と、平行世界に多大な被害が出る可能性が高い。実際に小規模であったが、空間が裂け衛兵の一部が吸い込まれているところを見ている。


「古代魔法を唱えるべきか、それとも封印するべきか」


 迷った海斗は、剣を強く握りしめ、無意識に視線を彷徨(さまよ)わせる。

 視野に入ってくる、息があがっている仲間たちの顔、エリザベスの血染めのローブ、そして、冷徹そうに見えるが、わずかに揺れる結衣の瞳。決めなければならない。正解はない。どちらを選んでも失うものがある――海斗は葛藤した。


 一方、結衣も悩んでいた。どうやらエリザベスの神託は正しいことを悟ったからだ。

 確かに海斗に古代魔法の呪文を唱えさせたら、平行世界の海斗も自分も千葉に帰れるのかもしれない。しかし、そのために自分が元いた世界の、親や親友等の大事な人たちが被害に遭うかもしれない。本当にそれでいいのか? そこまでして、千葉に帰って自分は本望だろうか? しばし考えた結衣は平行世界の海斗に向かって

「カイアン、もうやめましょう。私は、大事な人が被害に遭うのかもしれないのに、そこまでして自分たちがいた千葉に戻りたいとは思わない。また、帰るために別の方法を探しましょう。ね、カイアン」

と説得しようとした。

 しかし、平行世界の海斗は

「我々の世界に戻るのに、古代魔法の呪文以外に方法があるとは思えない。俺たちは千葉に帰る。たとえ、どんな犠牲が出ようがな!」

と冷酷に言い放った。

「カイアン……」

 そのやりとりを聞いていたアリシアは、

「結衣、どうやら意見のすり合わせができていないみたいだけど、どうする? あくまでカイアンの味方をして、自分の元いた世界、千葉とかに戻るのかい? それとも、今戻るのはあきらめて、とっとと撤退するのかい? その辺、はっきりしな!」

と怒鳴った。結衣は一瞬考えていたが、

「答えはこれよ」

と叫ぶと、アリシアの方に向かって走り出し、ダガーで一太刀いれようとした。

 アリシアはそれを剣で受け止めると

「結局そういうことかよ。だったらさっきの続きとしゃれこもうぜ!」

と言った。結衣は

「……私はあくまでカイアンの味方よ。あなたが海斗の味方をするようにね。理由は――あなたなら、わかるでしょう?」

と言うと、跳び退いてアリシアとの距離を取った。

「要は、愛しているということか。けなげだねぇ、結衣!」

「そうよ、私は信じている。カイアンが、正しい選択をするって!」

と叫び終えると、結衣はダガーを構え直し、アリシアに向かって地を蹴った瞬間に視界から消えた。

 残ったのは、かすかな残像だけだった。

 今回もお読みいただき、ありがとうございました。


 海斗の迷い、結衣の決断、そしてカイアンの焦り。

 三者の思惑が交錯した結果、どういう結末を迎えるのか?


 そして、海斗はどんな答えを出すのか──


 ぜひ見届けていただければ幸いです。

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