許せない裏切り――それぞれの戦場
一方、アリシア、レイナ、エリザベス、アンジェリカは互いに背と背を預けながら、四方取り囲んでいる衛兵および結衣と戦っていた。
結衣は衛兵の隊長に
「できたら、四人とも生きたまま捕縛したいわ。できるかしら?」
と聞いたが、即座に隊長は
「お言葉ですが、身体強化魔法をかけられている剣士は屈強ですし、魔法使いのファイアーボールとアイス・アローは厄介です。捕縛しようとすれば、こちらもそれ相当の犠牲を覚悟しなければならないでしょう」
と答えた。結衣は少し不服そうな顔をして
「しようがないわね。私が剣士をなんとかするから、魔法使いに詠唱するいとまを与えないように。そして、援護しかできないハンターとヒーラーを捕らえなさい」
と指示した。チャームのスキルにかかっている隊長は素直に
「わかりました。やってみます」
と答えた。
結衣はアリシアに向かって、
「さあ、アリシア、互いに気にくわない者同士、仲良く戦いましょう?」
と挑発した。
「ふーん、いいねぇ。殺しちゃっても化けて枕元に出てくるなよ?」
そうアリシアが言い終わらないうちに、結衣は詠唱した。
「全知全能なる神よ、敬虔なる者たちに御力を分け与え給え、フィジカルエンハンス!」
結衣の体は青白い光に包まれた。アリシアは結衣の魔法を見つめながら、取り囲んでいた衛兵たちが意図的に開けた隙間を通り、結衣と対峙した。
「ふーん、アンタ魔法まで使えるんだ。よくまあこちらのパーティにいた時はカマトトぶってくれたな!」
アリシアはそう言うと、頭上に高々と剣を掲げ結衣に向かって一直線に斬り下ろした。が、アリシアの剣は素早くかわした結衣の残像を斬るにとどまった。
「チッ」
アリシアは舌打ちをした。
一方、アリシアから距離をとった結衣はスピードを生かして、ジグザグに走りながらアリシアに近づき、一瞬の隙を狙い喉元へと鋭くダガーを振るう——だが、その刃が届く寸前、アリシアの剣は閃光のごとく走り、ダガーを弾き飛ばした!
「どうやら私は人質のリストには載っていないようだね?」
「あなた相手に手加減している余裕はないわ」
と結衣が言うと、アリシアは
「アンタが誰のために動いていたかなんて、どうでもいい。私にとって大事な事実はただ一つ──アンタは私たちを裏切り、そしてダーリンを傷つけた。それだけだ!」
と、アリシアの怒りを乗せた一閃が結衣の頭上を襲う!
前回ほど余裕がなかった結衣は逆手で持ったダガーでアリシアの刃を頭の上で受け止める。
一瞬目と目が合う
——次の瞬間、アリシアは全身の力を込め剣を勢いよく押し込む!
剣の重みとアリシアの思いが結衣の腕にのしかかり、ダガーがわずかに軋む
「裏切り? 違うわ。私は自分らは最初からカイアンのために行動しただけよ。あなたたちがこの異世界の『本当の』真実を知らないだけよ」
そう言うと、結衣はダガーを傾け瞬時に剣の勢いを受け流す。
すると、すかさずアリシアが横薙ぎの一閃を繰り出し、結衣はギリギリのタイミングで身を沈めた。
剣先が結衣の髪をかすめ、斬られた毛先が虚空を舞う。
「やるね、結衣。でもダーリンのためにも、負けてやるつもりはないよ!」
「それは、こちらも同じよ」
二人の剣戟は、周囲の喧騒すらかき消すほど激しさを増していく。
互いに愛しあう者たちのための、アリシアと結衣の死闘が始まった。
レイナ、エリザベス、アンジェリカは、じりじりと詰め寄る衛兵の圧力を感じていた。包囲網が狭まり、もはや逃げ場はない。後方では二人の衛兵が弓を引き絞り、前方では盾を構えた兵士が歩を合わせて徐々に近づいてくる。彼らの動きには隙がなく、すぐに止めをささずに手堅くこちらの魔素と矢がつきるまで、確実に戦局を支配しながら追い詰めていった。
レイナが矢をつがえながら、
「アンジェリカさん、エリザベスさん、私が魔法の詠唱をする時間を稼ぎますので、攻撃魔法をお願いします」
と指示する。
「炎の精霊よ、我にその炎を分け与え給え、ファイアーボール!」
詠唱とともに、アンジェリカの手のひらに膨れ上がる火球。灼熱とともに飛び出し衛兵に命中すると、彼らを包み込んだ炎が音を立てて爆ぜる!
エリザベスは
「全能なる神よ、我にその奇跡の光の一部を分け与え給え、ライトニングアロー!」
と詠唱すると、四人の衛兵の胸に光の矢は当たった。が、負傷した衛兵は素早く後方へ運ばれ、すでに待機していたヒーラーがすぐさま回復魔法を詠唱する。淡い光が傷口を包み込み、負傷兵は五分後には剣と楯を再び握って前線に戻る——この繰り返しであった。
アンジェリカはなぜか
「ミーちゃん、いい加減こちらに来て!」
と叫んだ。
エリザベスが
「向こうのヒーラーをどうにかしないと……矢も魔素もジリ貧になる。いや、既になっている」
と考えていると、衛兵のスナイパーが射た矢が、取り囲んでいる衛兵の後方から飛んできて、エリザベスの左肩に刺さった。
「ぐっ」
エリザベスの白いローブの左肩は、みるみるうちに赤く染まっていった。激痛が走り、視界はぼやけ呼吸も乱れる。だが、彼女は下唇を噛みしめ、痛みを押し殺して踏み止まる。まだ、戦える。彼女は必死に戦線を維持しようとした。
「海斗が戻ってくるまで、私は倒れません!」
エリザベスの傷に気が付いたレイナは、
「大丈夫ですか、エリザベスさん。いや、大丈夫なわけないですよね」
と声をかけた。
「大丈夫です、命に別状はありません。ヒールさえ使えれば、すぐに治る傷です。ですが、今は時間がありません」
衛兵に取り囲まれて攻撃を受けている三人には、攻撃魔法以外の魔法を詠唱している時間と余裕はなかった……。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
パーティを組んでいたころから仲が悪かったアリシアと結衣は、
これまで積み重ねてきた感情がついに正面からぶつかることになりました。
そしてレイナたちも、いよいよ限界が近づいています。
海斗がこの状況を見て、どのような決断を下すのか──。
次回も見守っていただければ幸いです。




