対峙する二つの運命――鏡像の自分との戦い
苦しい当時の記憶が頭をよぎった結衣は、海斗に宣戦を布告した。
「さあ、きなさい、海斗!」
その時、平行世界の海斗は、結衣よりも前に出てきて、アイテムボックスから剣を出し、海斗に向かって剣を構えた。
「結衣、海斗の相手は俺がする。俺と同じ顔の奴を斬るのをためらう可能性があるからな。結衣は、衛兵と一緒に残りのメンバーの相手をしてくれるか。海斗にトンネルを作る魔法を詠唱させるために、脅しに使う人質を一人残して、後は殺してくれても構わん」
「わかったわ。くれぐれも海斗を殺さないようにね」
「ああ、わかっている。時間稼ぎをするから、人質の件、よろしく頼む」
結衣は衛兵に囲まれているアリシアたちのもとへと向かった。
「カイアン、いや平行世界の俺、お前って奴は!」
海斗はもう怒りの感情を覆い隠すことなく、叫んだ。そして、
「……お前は俺を殺せないが、俺はお前を殺しても支障がない。悪いが、この状況を最大限利用させてもらう。これ以上お前の横暴を許すわけにはいかない。最初から全力でいかせてもらう。炎の精霊よ、我が剣に地の底に眠る炎の一部を分け与え給え、火炎斬!」と先制攻撃を仕掛けた。
海斗の剣に紅蓮の炎が纏い、その剣を振り下ろすと、平行世界の海斗に向かって、炎が一直線に地面の上を疾走する。しかし、平行世界の海斗は余裕しゃくしゃくで、
「水の精霊よ、我にその源泉の水を分け与え給え、ウォーターボール!」
と唱えると、平行世界の海斗の掌の上に球形の水の塊がたまり、炎に向かって飛ぶと地面の上を這ってくる炎とぶつかり、簡単に鎮火されてしまった。
「海斗よ、俺が教えてやった魔法剣が俺に通用すると思っているのか? 俺があらかじめ対策もせずに、お前に教えると思うか?」
「そうかよ。だったらこれならどうだ。炎の精霊よ、我が剣に地の底に眠る炎の一部を分け与え給え、火炎斬!」
と海斗は唱えると、立て続けに複数回剣を振るった。すると、複数の炎が地面の上を蛇のように地を這って平行世界の海斗を襲った。
「火炎斬ばかりとは芸がない……まあ、多少は工夫してきたようだが。……水の精霊ならびに冬の精霊よ、我にその聖なる水と凍てつく寒気を分け与え給え、アイス・アロー」
すると、平行世界の海斗のもとから飛び出した複数の氷の矢は、炎の蛇の頭を正確に捉えた。すると、炎は消えて、その場所に氷塊ができた。
「まだまだだな、海斗よ。魔法に関しては、俺の方が一日の長があるみたいだな」
と平行世界の海斗が言うと、海斗は
「じゃあ、これならどうかな? 風の精霊よ、我が剣に刃と化す真空の牙を授け給え、カマイタチ!」
と詠唱しながら剣を振った。すると、突如として烈風が吹き荒れ、細かな砂粒や枯葉を巻き込むと猛る旋風が平行世界の海斗に襲いかかる。
風はただの乱流ではない。その中には目には見えぬ鋭い真空が隠されており、近くにあった石壁の表面に無数の傷が入り、木々の幹には斧で伐られたような深くえぐられた跡が刻まれた。周囲の空気さえ引き裂かれるような感覚に平行世界の海斗は襲われる。
「水の精霊ならびに冬の精霊よ、その聖なる水を凍てつかせ我が楯とせよ、アイス・ウォール!」
とすぐさま詠唱、瞬時に氷の障壁が四方に展開された。しかし、目に見えぬカマイタチの刃が氷の壁に無数の傷をつけ、鋭い衝撃音を響かせる。
かろうじて防御は成功しているものの、氷の表面には深々と刻まれた斬撃の跡が残った。
「くっ……これはただの風じゃないな」
平行世界の海斗は舌打ちしながら、氷の壁に刻まれた深い傷跡を一瞬だけちらっと見た。
「情報がなかったら、危なかった……」
平行世界の海斗はつぶやきながら、氷壁の陰から出てきて剣を構え直した。いつの間にか、余裕しゃくしゃくの態度から真剣な表情へと変わっていた。
カマイタチが不発に終わった海斗は
「だったら、接近戦で戦うのみ」
と叫ぶと、平行世界の海斗に向かってダッシュした。
平行世界の海斗は
「全知全能なる神よ、敬虔なる我に御力を分け与え給え、フィジカルエンハンス」
と唱えると、平行世界の海斗の体は青白い光に包まれた。
海斗は上段の構えから剣を平行世界の海斗に向けて左下に斬りつけた。が、平行世界の海斗は中段で構えた剣で海斗の一撃を受け止める。海斗と平行世界の海斗は、相手の剣の刃を自分の剣の刃で押し合いながら、互いに相手の双眸を睨みつけた。海斗と平行世界の海斗の目は赤く光り、互いにチャームのスキルを試みたが、異世界出身者ではない二人には効かないようだ。
「フッ、お互いチャームのスキルは通用しないみたいだな。……俺も身体強化魔法で強化されて、身体能力の増強に関しては五分五分だ。後は己の本来の力、素早さ、そして剣の技量で勝負が決まる」
「俺だって、だてに魔物狩りや刺客との戦闘をしてきたわけではない!」
「ほう、そいつは楽しみだな」
そう言うと平行世界の海斗は、海斗の剣をはねのけ後方に跳んだ。
平行世界の海斗は、跳び退いた先で剣を構え直し、海斗を鋭く見据えた。その瞳には、それまでの余裕が消え、焦りの色が滲んでいるようにも見えた。
対する海斗は、静かに剣を握り直した――跳び退いた相手を見据える海斗の双眸には、魔王を倒した勇者を前にしても揺るぎない闘志と気迫が宿っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
海斗とカイアン──同じ顔を持ちながら、まったく違う価値観へと分かれた二人の戦いが始まりました。
裏切りから異世界そのものを憎む者と、異世界で出会った仲間を守ろうとする者。
手段を選ばない者と、それを憎む者。
その『価値観の衝突』がついに始まりました。
この戦いの行方を、見届けていただけると嬉しいです。




