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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第六章 かつて魔王を倒した男、勇者・海斗

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海斗の闇――英雄の終わり、怪物の始まり

「こっちに海斗はいたか?」

「いや、見ていない」

「よし、今度は西側を探せ!」。

 ティリアス帝国の兵士たちはそれぞれの持ち場に海斗がいないことを確認すると、西の方へと去って行った。海斗と結衣は、エルシオン王国・ソドラの廃墟の壊れかけた壁の背後で息を殺し、兵士たちの足音が遠ざかるのを待っていた。 

「これって、一体どういうこと?」

 結衣は涙目で海斗に尋ねた。

「俺も詳しいことはわからない。だが、想像はつく。結衣、『飛鳥(ひちょう)尽きて良弓(りょうきゅう)(かく)狡兎(こうと)死して走狗(そうく)()らる』って言葉知っているか?」

「それってどういう意味なの?」

「飛ぶ鳥がいなくなれば、それを射るための弓もしまわれ、悪賢いウサギが死んでしまえば、その猟をするための犬も必要がなくなり煮られるという意味さ。つまり、魔王が死んだ今、俺たちは用なしで、むしろ俺の存在が脅威に感じているのだろう、あの皇帝は。そこで、俺をえん罪に陥れて、それを口実に殺そうとしている……」

「そんな、この世界のために命を懸けて戦ってきたのに、ひどい」

 結衣は涙を流し、肩を震わせた。海斗は結衣を抱きしめると、

「俺は結衣を守ると言ったのに、ごめん。この怪我では戦うのもままならない。しかし狙われているのは俺だけだ。結衣、俺たちはここで別れよう。結衣まで巻き込むのは俺の本意ではない。俺には教会につてがあるから、変装して教会を隠れ蓑にしようと思っている。もちろん俺が死んだように見せかける細工をしてからの話だが」

「いやよ、ここで私を見捨てるの? 別れて、海斗が捕まって殺されるようなことがあるぐらいなら、私も海斗と一緒に死んだ方がマシよ!」

「結衣、あんまり駄々をこねるな。別れるのは一時的なことだ。俺はチャームのスキルを使って教会で成り上がってみせる。そうしたら、二人で千葉に帰る方法を探そう」

「本当? 本当に一時的なことなのね?」

 結衣の声は震えていた。

「ああ。本当に一時的なことだ」

「……わかった。本当に教会で成り上がったら、必ず迎えに来てね」

 そう言うと結衣は海斗の胸に跳びこんだ。結衣の体が震えているのを肌で感じ、海斗は心を決めた。

「ああ、そうする。俺をさんざん戦わせた挙げ句、陥れた皇帝を――いや、この世界そのものを俺は許さない。必ずどんな手を使ってでも結衣と一緒に千葉に戻ってみせる!」

 ……海斗は、涙が止まらない結衣の頭を優しく撫でた。しかし、その表情は『夜叉』のようであった。


 結衣はヴァルディス公国の鄙びた村の小屋の中で、海斗からの手紙を読んでいた。


「結衣、元気にしているか? 連絡が遅れてごめん。俺はカイアン・モーティスと名乗り、この世界で新たな人生を歩むことにした。英雄を捨てる世界なら、俺は支配する側、捨てる側に回る。それが生き延びる唯一の道だ。そして今、大司教の地位まで登り詰めた——後もう少しで枢密卿だ。

 ところで、朗報だ。巫女が知りたい内容の神託を授かるための魔法が開発されたと、先月書いたろう。その魔法を使って、俺たちが帰る方法の神託を巫女が授かった。俺たちがいた千葉とこの世界を繋ぐトンネルを作る魔法を使える可能性のある者が、異世界にいるらしい。その者はこの世界に来れば、俺と同じく言語理解のスキルに加えて、チャームのスキルまで使えるというのだ。

 そして、そいつの名前が傑作で、『高橋海斗』と言うらしい。恐らく我々のいた世界とは微妙に異なる平行世界の俺なのだろうと思っている。ややこしいから、仮に彼のことをKaitoと呼ぶこととしよう。そのKaitoのいる世界の、時空での座標を特定できれば、召喚は可能だそうだ。

 そういうわけで、次の神託を楽しみに待っているところだ。そして、教会の召喚士を使ってKaitoを呼び出す。そうしたら、このクソみたいな世界からおさらばできる。

 次の朗報を待っていてくれ。次の神託が授かれば、きっとKaitoを召喚できるようになるだろう。そうしたら、約束通り君を迎えに行く」


 結衣は、外に出て、手紙を胸に当てながら海斗が無事でいられますよう空に祈った。


 それから火の月の終わり――つまり、結衣たちの世界で言えば二ヶ月後。結衣は海斗の鳥の使い魔が運んできた手紙を受け取ると食い入るように読んでいた。


「結衣、元気か? 良い報告と悪い報告がある。

 まずは、良い報告から。巫女が新たな神託を授かった。異世界へのトンネルが作れるKaitoがいる平行世界の座標がわかった。これでKaitoを召喚できる。俺も枢密卿になったから、誰にも邪魔されることなく、召喚の儀式は行えるだろう。

 悪い報告は、これも神託でわかったことだが、そのKaitoが異世界へのトンネルを作れるようになるには、異世界でかなりの経験値を積むことが必要だ、とのことだ。そして、ローレンシア教皇国に伝わる古代魔法の魔道書があり、それに異世界へのトンネルをつくる魔法の呪文が最終ページに記してあるとのことだ。

 そこでだ、Kaitoに異世界での経験値を稼がせるためにどうするか、結衣と打ち合わせをしたい。二週間後にヴァルディス公国の町・フェルノスの一番大きな宿屋まで来てくれないか。都合が悪ければ、俺の使い魔に返信の手紙を持たせてくれ。何はともあれ、今は君の顔が見たい。君と会える日を楽しみにしている」


 二週間後、結衣はフェルノスで一番大きな宿屋の一室で海斗と再会することができた。

「うれしい」

 海斗と抱き合った結衣は心からそう言わずにはいられなかった。

「俺もだよ、結衣」

 しばらく抱き合ったままのふたりであったが、結衣を離した海斗はこう切り出した。

「あれから、しばらくKaitoにどのようにして経験値を稼がせるかを考えたのだが、奴を賞金首にして、刺客となった冒険者たちと戦わせるのはどうだろう?」

「いいけど、経験値を稼ぐ前に彼が死んでしまうことはないの?」

「そうなんだ。そこがネックなんだ。そこでだ、結衣、君に協力してもらいたいことがある」

「いいわ、私も自分たちがいた世界に戻れるのなら、何でもする」

 結衣は海斗の顔を見つめながら、決意を固めた。

「ありがとう。そう言ってくれると思っていた。俺のアイデアは、こうだ。結衣、君も賞金首・Yuiになってもらって、Kaitoと行動を共にしてもらう。Kaitoの行動を見張ると共に、死にそうになったら助けてやって欲しいんだ。そして、神託のとおり、私がいるローレンシア教皇国のサンクト・ルミナス大聖堂まで来るように仕向けて欲しい」

「わかったわ。それでこれからどうすればいい?」

「賞金首になっているKaitoをいきなり街中に召喚するのはまずい。それに召喚できる場所が限定されている関係で、Kaitoを人気(ひとけ)のないティリアス帝国のガレアの森に召喚する。そこでKaitoと合流して欲しいんだ。Kaitoを召喚する詳しい場所は後から知らせる。やってくれるか?」

「わかったわ。Kaitoと合流して、必ずローレンシア教皇国のサンクト・ルミナス大聖堂まで連れてくる。そして、私たちが戻る世界へのトンネルを作ってもらって、一緒に千葉に帰りましょう」

「そこでだ、手紙には書かなかったのだが、Kaitoの魔法が作るトンネルの先がどのような世界につながるのかが、問題だ。つながった世界が我々のいた千葉と異なった世界では意味がない。巫女の神託によると、このトンネルにつながる世界が決まるのは、天体の配置に影響される関係で、魔法を唱える日時と場所によるらしい。俺たちが元いた世界の千葉につなげるには、霜の月十五日、水の刻――つまり、午後五時から六時の間にこの魔法を詠唱させる必要がある。そして、場所はサンクト・ルミナス大聖堂で、この魔法を詠唱させなければいけない。そういうわけで、サンクト・ルミナス大聖堂に霜の月十五日水の刻前に来るようKaitoを誘導して欲しい。頼むよ、結衣」

「わかったわ。霜の月十五日水の刻前に大聖堂にKaitoを連れてくればいいのね」

と言いながら、結衣は千葉にいた頃から使っている、すり切れた手帳に海斗との計画を詳細に書き留めていた。

「ありがとう。君に大役を任せるのは少々心苦しいが、頼む。……愛しているよ、結衣」

「私も、海斗」

 二人は再び抱き合った。手帳が床に落ち、ページが開かれた。そのまま、室内のすきま風が静かにページをめくっていく。二人の逢瀬が刹那であることを、めくられたページが物語っているように見えた。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 今回は、平行世界の海斗と結衣が『英雄』として歩んだ過去から、『怪物』へと変わっていく過程を描きました。

「そもそもあなたたちに、私たちの気持ちはわからない」

──結衣のあの言葉の意味が、少しでも伝わっていれば嬉しいです。


 次回、ついにラスボスであるカイアンと海斗の戦いが始まります。


 引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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