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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第六章 かつて魔王を倒した男、勇者・海斗

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栄光――そして、暗雲

 すると、それを見たアリシアが

「ダーリン、感傷に浸っている場合ではないぞ。平常心でなければ、生き残れるものも生き残れなくなる!」

と発破をかけた。海斗はハッと我に返った。

 そして、今まで様子を見ていたエリザベスが海斗と結衣やカイアンとの会話に割って入った。

「結衣さん、私の神託を否定したのも、サンクト・ルミナスに誘導したのも、海斗さんがこの場所で異世界へのトンネルを作る魔法を唱えさせるためにやったのですよね?」

「確かにサンクト・ルミナス大聖堂に来させて古代魔法を詠唱させるために、そのような言動をしたのは事実よ……」

 そう言うと、結衣は少し素に戻った様子で

「……でも信じてくれるかどうかわからないけど、トンネルを作る魔法の詠唱にあんな副作用というか、現象が起きることは聞いていなかった。これは本当よ」

と続けた。

 海斗はおとなしく結衣の言葉を聞いていたが、

「最後に聞く。結衣、お前はカイアン、つまり、平行世界の俺に味方する、俺たちの敵なんだな?」

と厳しい表情で聞いた。

「……そうよ、敵よ。それ以上でもそれ以下でもないわ!」

 結衣は一瞬、唇を噛んだ。が、迷いを振り切ったようで冷酷な言葉を続けた。

「だから、躊躇はしない。海斗、あなたが私を斬らなければ、私があなたを斬る!」

 結衣の言い様から、もはや戦闘は避けられないと感じた海斗は、最後に自分自身を納得させるために、結衣に自分の気持ちをぶつけた。

「殺し合いをする前に聞く。君は、一緒に旅してきた仲間を平然と斬り殺すことができるのか? そして自分が盗賊の能力を隠していたことを含めて、今まで騙してきたことに対して良心の呵責はないのだな?」

 すると、結衣はさらに表情を険しくして

「その件に関して言及する気はないわ。そもそもあなたたちに、私たちの気持ちはわからない」

と言い放った。

 そう言う結衣の脳裏に、過去の苦い記憶がよぎった。


                *


 異世界の暦で三年前。平行世界の暦で、九十九里浜での海難事故があってから二ヶ月後。

 ショーウィンドウではマネキン人形に冬物のファッションが着飾られている、そんなある秋の日。結衣と海斗は私服姿でショッピングをしている最中に、足下に魔法陣のようなものが現れると、気を失った。

 次に意識を取り戻すと、そこは石造りの部屋の床に描かれた魔法陣のようなものの上で結衣も海斗も倒れていた。

「召喚士よ、よくやった!」

 大きな金色の冠をかぶり、右手には王笏らしき杖を持ち、赤いマントをした大柄な男はそう声をあげた。周りにいた臣下らしき人たちも歓声をあげている。

 海斗は頭を押さえながら立ち上がり、

「ここはどこですか。僕たちはどうしてここにいるのでしょう?」

 臣下たちから『皇帝』と呼ばれた男は

「おお、勇者たちよ、ここは君たちから見たら異世界になる。ここはティリアス帝国の帝都のアストリア城である。君たちは、魔王を倒す勇者としてここに召喚されたのだ!」

と叫んだ。


 否応なく勇者扱いされてしまった海斗と結衣は、皇帝の前で、スキルや各能力のパラメーターを調べるために、机の上に用意された水晶の玉に手を置くよう言われた。海斗が水晶の玉に手を置くと、ローブを着た老魔法使いが、

「私どもの言語を理解するスキルに加えて、な、何とチャームのスキルを持っておられる!」

と驚きの声をあげた。

「本当か? 本当に間違いないのか?」

 皇帝は信じられない、といった感じで念を押した。老魔法使いは、

「確かに間違いありません。それ以外の魔力、力、スピードの潜在的な数値も素晴らしい。きっと良い魔法剣士になられるでしょう」

と感心するように言った。

 皇帝を取り囲む臣下からも、どよめきが広がった。

 次いで、結衣が水晶の玉に手を置いた。

「この方も、我々の世界の言葉を理解するスキルに加えて、スピードと手先の器用さが際立っている。職業としては盗賊が適しているでしょう」

 結衣と海斗は戸惑っていたが、良くも悪くも魔王を倒す勇者候補としてティリアス帝国に歓迎された。


「今は人類も一致団結して、魔族を率いる魔王と戦わねばならない時だというのに……。各国がこうも足並みが揃わないというか、いがみ合っているようでは話にならん!」

 皇帝がそう言うと、ティリアス帝国の会議にしばらく重苦しい沈黙が続いた。その沈黙を破るように皇帝は、

「勇者殿、各国首脳は朕が説得しよう。しかし各国の歴戦の英雄らが、いがみ合っているようでは、勝てる戦いも勝てぬ。どうかチャームのスキルを使って、各国の英雄をまとめ上げて、魔王討伐に向かっていただきたい!」

と、会議に参加していた結衣と海斗にじきじきに要請した。結衣は戸惑っていたが、海斗はもう避けて通れる道ではないと悟ったのか、

「わかりました。最善を尽くします」

と淡々と答えた。


「わしは、ティリアス帝国のことがガキの頃から嫌いじゃ。どんなに頼まれてもティリアス帝国の者と一緒に戦うなど願い下げじゃ。御免こうむる!」

 海斗が協力を願い出たエルシオン王国の英雄・ロラン・エヴァンスは、セレスティア宮殿の庭でこう言い放った。

「ロラン殿、少しお待ち下さい」

 海斗は、背を向けて歩き始めたロランの腕を取って引き留めた。

「ええい、離さんか。何度お願いされても答えは一緒じゃ」

「もう少し話を聞いて下さい、ロラン殿」

 そう言うと海斗はロランの目を見つめた。すると海斗の瞳が赤く光った瞬間、ロランは

「海斗殿がそこまで言うのなら仕方がない。人類のため、魔王討伐に加わろう」

と見事なまでに態度が一変した。海斗の後ろで結衣は呆れたように見ていた。


「人類のため、そして海斗殿のためにも、皆、魔王城に向かって魔王の首を獲ってくるぞ」

「エイ、エイ、オー」

 アストリア城の城下の広場に集まった、各国の英雄たちは自らを鼓舞するために掛け声をあげた。

 アストリア城の広間で結衣は、

「ようやく英雄と呼ばれる人たちが集まったわね」

と海斗に声をかけると、海斗は、

「問題はこれからだ。これから魔王城に向かって、魔族や魔物と戦わなくてはいけない。結衣、君は戦闘に向かない盗賊だ。できることなら、ここに残って欲しい」

と説得を試みた。

「嫌よ。私だって勇者候補として、ここに召喚されたのよ。それに、あなた一人に戦わせるわけにはいかないわ。もしあなたが私の知らないところで死んでしまったら、私は、私は……」

と結衣は泣き始めた。

 ……海斗は結衣を抱き寄せ、

「わかった、一緒に戦おう。君のことは、俺が守る。必ず生きて一緒にこのアストリア城に帰ってこよう。結衣、愛しているよ」

と言うと、結衣の唇にやさしくキスをした。


「海斗殿、やりましたぞ! 魔王の、魔王の首を獲りましたぞ!」

 ロランは魔王の首を掲げた。ロラン始め各国の英雄は、魔王城の広間で歓喜の声をあげた。

「魔王の首を獲ったのなら、長居は無用。すぐに魔王城から撤退するぞ!」

 海斗は魔王討伐軍の大将らしく、英雄たちに対して号令をかけた。

 結衣は海斗に抱きついた。

「これで、これで、ようやくアストリア城に帰れるのね、海斗」

「ああ、そうだ。俺たちは生きて凱旋できるんだ。もう戦わなくていいんだ。そうだ、結衣、アストリア城に帰ったら結婚式を挙げよう。これからは二人で平穏な生活を送ろう」

「うん、そうだね」

 結衣は喜びで涙がたまった目を人差し指で拭った。


 隊列を組んでティリアス帝国の帝都・アストリアの大通りを凱旋する魔王討伐軍。両側の道脇には、市民が歓声を上げ、魔王討伐軍を歓迎、賞賛をしている。

「よく、やったぞ!」

「それでこそ、我らの英雄たちだ!」

 海斗も白馬に騎乗し、自分の前に結衣を乗せた。海斗に身を任せる結衣。海斗は結衣と馬上でキスをした。


「問題はこれからですな」

 ティリアス帝国の皇帝は、エルシオン国王、ローレンシア教皇、ヴァルディス公国公爵を始めとした各国首脳をアストリア城に招いた席上でこう続けた。

「魔王の首を獲ったのは快挙ですが、逆にそれだけに、英雄をまとめ上げチャームのスキルを持つ高橋海斗は、我々にとって非常に危険な存在だと考えております」 

 エルシオン国王は

「しかし、魔王の首を獲った海斗の魔王討伐軍は、ティリアス帝国いやこの大陸中の英雄です。その魔王討伐軍のリーダーの海斗を除くとなると、民衆が黙っていないでしょう」

と慎重な意見を述べた。皇帝は、

「ふむ……英雄とは実に厄介な存在ですな」

と言うと立ち上がった。そして、

「我が帝国に危害を加え、自らが皇帝になろうとした反逆者——そう事実を告げたとき、民衆はどう反応すると思いますかな? ふふ……想像してみるといい」

と愉快そうに言いながら手を広げた。 

「英雄を信じていた者ほど、裏切られたときの失望と怒りは深い――民衆は自ら、勇者の処刑を望むでしょう……そしてその血こそが、歴史に我らの正義を刻むとは思いませんか、皆さん!」

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 今回は、平行世界の海斗と結衣が三年前、異世界で『居場所』と『平穏な暮らし』を得るために戦い、そして魔王討伐へ至った経緯が描かれました。


 しかし皮肉にも、討伐が成功したことで、二人は逆に危険視されてしまう──。

 このあと、平行世界の海斗と結衣はどうなってしまうのか。


 平行世界の海斗の手段を選ばない冷酷さ。

 そして、結衣の冷徹さの奥に隠された感情。

 その理由は、次回明らかになります。


 引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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