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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第六章 かつて魔王を倒した男、勇者・海斗

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禁断の詠唱

 二日後、海斗たちはサンクト・ルミナス大聖堂に向かった。ミーちゃんは入り口に着く前に、

「オイラはここまでにしておくよ。大聖堂って、神聖な場所っぽいじゃん? 神々しいオイラが中に入って妬まれると困るしさ……まあ、入ろうとしてもつまみ出されるのがオチだろうしね」

と軽口を叩きながらも、最後だけは状況を正しく理解しているようだった。

「いや、神聖っぽいじゃなくて、神聖なんだよ! ……それに、また人質になられても困るしな」

と海斗は返した。

「大聖堂の周りで待機しておくよ。何かあったら駆けつけられるように。まあ猫舟に乗ったつもりでいていいよ!」

 海斗は苦笑いをしながら

「わかった。その時は頼む」

と返答した。

 ミーちゃんと別れた海斗たちが、厳重な高い柵で囲まれた大聖堂の敷地の入り口に着くと、門番の衛兵にエリザベスの名前を出し、大聖堂から届いた返書を見せた。すると案内役の衛兵は海斗達を連れて、まずは大聖堂に入った。 

 そして、大聖堂の翼廊とつながっている特別な謁見の間に海斗たちを案内した。案内役の衛兵によると何でも教皇が重要な儀式や会議のために使う場所なのだそうだ。謁見の間の扉の前で、海斗たちは剣やダガー、弓矢、杖などの武器を強制的に預けさせられた。

 謁見の間で立ちながら教皇を待っていると、部屋の奥にある扉から、裾の長い純白の法衣と白い帽子をかぶった教皇らしき老人と赤い法衣を着た中年の枢密卿らしき人が一人ずつ入ってきた。どうやら赤い法衣の方はレオナルド・ヴァレンティウス枢密卿のようだ。アリシアたちが、片膝をついて、右手を胸に当て頭を下げた。見よう見まねで、海斗もぎこちなく片膝をつき、なんとか形を整えた。が、内心「これでいいんだよな。俺、失礼なことしてないよな……?」と冷や汗を流していた。

 レオナルドが教皇に耳打ちすると、教皇は

「代表者の方、名乗りなさい」

と仰った。エリザベスは片膝をついたまま

「ローレンシア教の巫女で、エルシオン王国の王女のエリザベス・ヴァレリアと申します。この度は謁見する機会を与えて下さいまして、望外の喜びにございます」

「それで、用件は?」

「この者たち二名は、本名を高橋海斗、および桜井結衣と申します。この二名はあらぬ疑いをかけられて、教会から宗教異端者として手配されています。彼らが冤罪であることを申し開きたく参上した次第です」

 レオナルドが再度教皇に耳打ちすると、教皇は

「わかりました。では、海斗、結衣、弁明することを許します。お話しなさい」

と優しく述べられた。

 するとその直後だった。奥の扉が開くと、赤い法衣を着た老人が現われて言った。

「そこまでです。レオナルド、および海斗、結衣」

 赤い法衣の老人がゆっくりとフードを外す。——すると、冷ややかな笑みを浮かべたカイアン・モーティスの顔が現われた。

「カイアンさん!」

 海斗は立ち上がり、思わず叫んだ。カイアンは構わず、

「教皇様、この者たちは異端の者どもです。どうかレオナルド共々、直ちに拘束をするよう、お命じください」

と言うと、ゆっくりと見開いたカイアンの目に赤い光が宿る。次の瞬間、教皇は血走った目でギロリとこちらを睨むと、まるで操り人形のように

「衛兵よ、この者たちを拘束しなさい」

と命じた。

「これは、チャームのスキル?」

 エリザベスが思わず叫んだ。

「間違いない、チャームのスキルよ!」

 アンジェリカは確信しているらしい。

 そんなことにお構いなく、海斗たちが入ってきた扉と奥の扉から衛兵がそれぞれ五、六名ずつ入ってきた。カイアンは、

「神妙にお縄につけ、海斗と結衣。素直に捕まれば、すぐには殺さん、すぐにはな」

と薄気味悪い笑みを浮かべた。

 衛兵たちに囲まれる海斗たち。武器を持っていないアリシアは

「万事休すか」

と叫ぶ。その時であった。結衣は海斗に向かって叫んだ。

「海斗、今すぐ魔道書の最後のページの呪文を唱えて! 急いで!」

 海斗は、魔道書の入ったアイテムボックスがまだ懐にあったことに気がついた。

「どういうことだ?」と海斗は尋ねたが、結衣は必死に

「理由は後! 早く! ――さもないと、本当に全滅する!」

と叫ぶのみだった。

 絶体絶命の状況で、結衣の提案しか選択肢はないと考えた海斗は、アイテムボックスを懐から出し、魔道書の最後のページを広げた。

「あらゆる異世界を統べるいにしえの神よ、古の契約に従い……」

と詠唱を始めると、海斗の体が光り始めた。肌を切るような烈風が吹き上げ、足元の石畳が振動する。謁見の間の扉がきしみ、壁に掛けられた錦織の垂れ幕が破れんばかりに揺らめく。衛兵たちは思わず後ずさるが、カイアンは、目を細め、何かを確かめるようにその光景をじっと観察していた。

「唯一無二の存在たる御身の手を煩わせることなく時空の理をくつがえし……」


 海斗の体から光が放たれたのを見て、エリザベスは既視感を覚え、海斗の魔力の急激な増大を感じた。

「海斗、それ以上唱えてはいけません!」

 しかし、結衣は全く聞こえていないかのように「いいから、今はこれしかない!」とただひたすら叫ぶ。


 エリザベス、すまない。今はこの状況を打破するためにこの呪文に賭けるしかないんだ。海斗は決死の覚悟で呪文を詠唱した。


「異界との壁を打ち破り、異界の扉を開放し、我らに異世界への新たなる道を示し給え!」

 

 海斗の体から白い閃光が放たれ、謁見の間で異様な空気の圧迫を感じ、視界が歪んだ!

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 ついに海斗は、エリザベスの制止を振り切り、

 異世界へのトンネルを開く禁断の魔法を唱えてしまいました。


 この後、いったい何が起きるのか。

 エリザベスの神託が告げたように、

本当に街一つを飲みこむほどの被害が出てしまうのか。


 次回もお付き合いいただければ幸いです。

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