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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第六章 かつて魔王を倒した男、勇者・海斗

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揺らぐ神託、広がる亀裂

「本当にそれでいいのか? こちらに戻ってこられなくなるかもしれないんだぞ?」

と海斗は聞き返した。

「私は、今は天涯孤独の身だ。私がいなくなっても困る人や悲しむ人はこの世界にはいない。だったら、ダーリンに付いていく以外に、私には選択肢がない」

「……わかった。アリシアの覚悟が決まっているのなら、反対はしない」

「それは本当か、ダーリン?」

「ああ、嘘は言わない。……レイナとエリザベスはどうする?」

「エルダー村で待っている父親がいる私は、どうしたらいいのですか? 私は海斗さんにこの世界に留まってほしいです!」

とレイナは懇願した。

 エリザベスは一旦瞼を閉じて自分の感情を押し殺すように

「私もレイナさん同様、海斗には残って欲しいです。しかし、帰りたいというのなら仕方ありません……。私はエルシオン王国で待っている人たちがいるので、残念ですが付いていくことはできません」

と返答した。

「……皆の意向は大体わかった」

と海斗は冷静に言うと、しばらく間をおいて

「以上が、俺が皆に言わなければいけない話だ。他に何か言っておきたい人はいるか?」

と聞いた。


 エリザベスは、この機会を逃してはいけないと、意を決して手を挙げると

「海斗、間違っても異世界へのトンネルを作る魔法を使ってはいけません。私が授かった神託のビジョンでは、その能力を使えば、空間に穴が開き、その穴に人々や建物が吸い込まれます。そして、それはトンネルが完全に形成されるまで続きます。それは、一つの街が丸ごと消えるほどの被害です。同様なことがトンネルの先にある異世界でも起きます……」と神託の説明をし始めた。

 その時、結衣がエリザベスの説明を遮った。

「エリザベスに聞きたいんだけれども、そもそもあなたの神託、一度も外れたことないの? そんなに確実なことなの?」

「……」

 しばらく沈黙が続いた。

「うわ~オイラ、緊迫しすぎて、出るものも引っ込みそうだよ! それとも、あれかい、ご主人も出せるものが出せないってやつかい? ここで一句、静けさやご主人我慢のおならかな」

とミーちゃんは誰に聞かせるともなく川柳を披露した。

 すると、エリザベスは毅然とスルーして

「私が授かった神託はかなりの確率で当たっています。ただし、100%とはいきませんが……」

と答えた。結衣は畳みかけた。

「だったら、今回の神託が外れる可能性もあるってことよね! 確実にそんな被害が出るかわからないってことよね。私は信じられないわ。そんな大それた被害が出るなんて!」

 海斗には、結衣の態度が純粋な疑問というよりも、必死にエリザベスの神託を否定しにかかっている――そんな気がしてならなかった。

 ミーちゃんも畳みかけた。

「オイラの川柳、誰も彼も無視かい? えーとちょっとだけ場違いだったかな……でも、ちょこっと愛想笑いぐらいしてくれてもいいと思うんだけどなあ?」

 アンジェリカさえも何もなかったかのように

「魔法研究家の私でさえ、そんな魔法、聞いたことないわね。本当に存在するの、そんな魔法? ……ただ古代魔法を記した文献によると、理論的には真空を作り出す時の魔力が空間のバランスを崩し、歪みを生じさせる可能性はあるとは書いてあった。でも、海斗のカマイタチで、果たしてそんなことできるのかしら?」

と自分の知識をひけらかしつつ疑問を呈した。

「ご主人も無視か~。でも、ご主人の魔法の知識が役に立ったの、初めて見たよ! 今までほとんど自己満足の世界だったもんね~」

 エリザベスは、

「確かに私の神託でも、神託の内容を知ってあらかじめ対策を取った結果、神託とは違う未来になったことはありますが……」

と弁解する。すると、結衣は

「ほら、やっぱり。100%じゃないじゃない! 何度も言うけど、私はエリザベスの神託のこと、到底信じられないわ」

と、沈黙を守ってきた最近の結衣には珍しいぐらいにまくし立てた。


 あんまり考えたくはないが、カイアンと戦う可能性もあると思っている海斗は、これ以上仲違いする雰囲気を望まなかった。ただでさえ彼女らは、アルティア付近の洞窟での戦いでしこりが残ったままだった。海斗はため息をつきながら、

「結衣、エリザベス、もうわかったから現段階ではエリザベスの神託の内容がどうこう言うのはやめよう。俺にも、その魔法についてもう少し考える時間をくれ」

と言った。

「海斗……」

 エリザベスはこれ以上言っても無駄と悟ったのか、それ以上何も言わなかった。

 ミーちゃんは「オイラの川柳、どうだった、どうだった? 松尾芭蕉もびっくり! いや松尾芭蕉は俳句か――間違えちゃった、てへぺろっ」

と最後までうるさかった。

 ミーちゃんの軽口に誰も反応することなく、重苦しい空気のままアリシアらは海斗の部屋を後にした。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 今回は、海斗の告白によって、仲間たちの思いがぶつかり合う回になりました。

 そして、神託の信頼性を巡って結衣とエリザベスの対立が起きました。


 帰ろうとするのか、それとも残るのか。

 果たして、海斗はいずれの未来を選択するのでしょうか。


 次回もお付き合いいただければ嬉しいです。

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