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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第六章 かつて魔王を倒した男、勇者・海斗

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早すぎる謁見許可――漂う罠の気配と海斗の告白

 海斗達は首都・サンクト・ルミナスに入った。宿屋を決めた後、海斗たちはローレンシア教の巫女であるエリザベスの名前で手紙を、アンジェリカの推薦状とともに、アンジェリカの教会内の協力者・レオナルド・ヴァレンティウス枢密卿宛に出した。教皇との謁見をお願いするためだ。すると早くも翌日には返書が宿屋に届いた。

 海斗は一度深呼吸をすると、返書の封を切って手紙を読んだ。

「二日後、霜の月十五日水の刻前にサンクト・ルミナス大聖堂に来い、か」

 ……思ったよりも早い。と言うか、早すぎる。どう見ても、何か裏があると考えざるを得なかった。


 それでも海斗は手紙の内容を皆に知らせるため、自分の部屋にアリシアらを集めた。

 一通り返書の内容を説明すると、アリシアも

「あっさり謁見の許可が出ちゃったけど、順調すぎて少しおかしいとは思わないか、ダーリン?」

といぶかしんだ。レイナは首をかしげながら、

「それにしても、ちょっと、あまりに日程が急ですよね? 教皇って、そんなにお暇なんですか?」

と不思議そうに言った。エリザベスも眉間にしわを寄せながら、

「そんなことはありません、教皇様はご多忙で中々教徒たちの前に立って説教をしたくてもできない、と聞いています。確かに、この決まり方は不自然ですね」

とかなり不審に思っているようだ。結衣は黙って、周りを見渡しているようだった。

「実は、レオナルド枢密卿から別の書簡も届いているのよ」

 アンジェリカは自分の情報網を誇示するように、封を開いた手紙を皆に見せつけると

「『カイアンの傀儡(かいらい)になっている教皇があっさり謁見を許したのはおかしい。罠である可能性が高い』 と書かれていたわ。どう私、やっぱり役に立つでしょ? オッホホホ」

と自慢げに報告した。すると、ミーちゃんが、

「いやご主人、そこはドヤ顔するところではないですよ。……でも、君たちは、その日に教皇様に会いに行くしかないんじゃないのかな? だって、罠だとしても、その機会を逃せば次にいつ謁見できるかわからないし、こちらから断ったらカイアンだって警戒すると思うよ、多分」

と良く言えば客観的、悪く言えば他人事のように言った。

「たまには鋭いこと言うじゃねえか、猫!」

とアリシア。

「もう、オイラはツッコまないよ。面倒くさいから」

 海斗は少し考えをまとめるために黙っていたが、

「つまり、相手(カイアン)の策にのったふりをして謁見し、傀儡となっている教皇様を正気に戻して、俺たちのえん罪を晴らす以外に方法はない、ということか。ただ罠だったら、カイアンさんに加えて大聖堂を守っている衛兵たちに取り囲まれる、のだろうな、きっと。そして運が悪ければ全滅する……もちろん、そんなことはさせないけどな、俺は!」

と決死の覚悟を(にじ)ませながら、海斗は結論を口にした。

 そして、最近の結衣にしては珍しく口を開いて

「それでも行かなければ、刺客に怯える生活が延々続くだけ、でしょう」

と意見した。

 するとアリシアも

「確かに引き返せないところまで、来ちまったのかもしれないな……まあダーリンがそう言うなら、私は付いていくだけさ」

と覚悟を決めたようだった。ミーちゃんは

「じゃあ、決まりだね。めでたし、めでたし」

といつもの明るい調子(ノリ)で場を締めようとした。

 ここで海斗は何か言おうとして、一瞬言葉を飲み込んだ。そして、もう一度深く息を吸い込んでから口を開く。

「待ってくれ。今日は、教皇に会いに行く前に、最後の戦いになるかもしれない前に、皆に知らせておかなくてはいけないことがあるんだ」

 レイナは緊張している海斗の様子を見て

「何か重大なことなのですか?」

と尋ねた。

「ああ、重要なことだ。……一部の仲間は知っていることだが、俺と結衣、アンジェリカはこの世界とは別の世界から来た、異世界の人間なんだ」

「ああ、そのことか。ダーリンとお邪魔虫の名前から、大体想像はついていたよ。それにアンジェリカはダーリンのチャームのスキルが効かなかったしね」

「アンジェリカさんの修道院での言葉を聞いていたから、やっぱりって感じですね」

と、アリシアとレイナは既に察しが付いていたようだった。エリザベスは既に海斗から聞かされている。

「今まで黙っていて、すまない!」

と海斗は深々と頭を下げた。結衣は壁にもたれかかりながら黙って腕を組んで聞いている。サンクト・ルミナスに入ってから、少し様子も落ち着いたように感じる。ただ、海斗には、それが結衣の『居直り』のようにも思えたが。アンジェリカに至っては暇そうにあくびをしている。

 アリシアは、

「本当のことを言ってくれてありがとう、ダーリン。でも、一つだけ聞かせてくれ。もし異世界に帰れる手段が見つかったら、ダーリンは元いた世界に帰っちまうのかい?」

と身を乗り出すように聞いた。その瞬間、結衣は海斗の顔をちらっと見た。

 海斗はどう言えばいいか、言葉が出てこなかった。しかし、大きく深呼吸をすると躊躇(とまど)いながら

「その時は……もしかしたら、元いた世界に帰る《《かも》》しれない、結衣と一緒に……」

と小声で言った。厳しい表情だった結衣は、満足そうに少し笑みをもらした。

 アリシアは頭を搔いて苛立ちを露わにした。レイナは手を口に当ててショックを受けているようだった。しばらく沈黙が続いた後、彼女は絞り出すように言った。

「そんな……そんなの嫌です! もし帰ってしまったら……私たちはどうなるんですか……? もう永久にお別れなんですか? チャームの効果が切れて海斗さんを忘れるしかないんですか!」

 声は震え、目には涙が溜まり、今にもこぼれそうだった。レイナは自分の服を強く握り、その手も小刻みに震えている。沈黙していたエリザベスも涙が伝染したのか、目が潤んでいる。

 海斗は彼女らの反応を見て、思わずこぶしを握りながら下を向いた。

 ごめん、皆……。俺自身、まだどちらを選ぶべきなのか決めかねているんだ。この世界に残るべきなのか、それとも元の世界に帰るべきなのか──。

 ……結衣は相変わらず黙って腕を組みながら、海斗の様子を凝視しているようだった。

 アンジェリカは、あくびのせいで涙目になりながら

「私は帰らないわよ。こちらで魔法の研究があるから」

と、ぼそっと言った。

「いや、ご主人のこと、誰も聞いてませんって!」

とツッコむミーちゃん。

 アリシアはいつになく真剣な表情で、

「ダーリン、もし元いた世界に帰るのなら、私も連れて行ってくれ!」

と懇願した。結衣は表情を変えず、海斗の様子を窺っているようだった。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 ついに物語は最終章へと突入しました。

 そして、早くも教皇に謁見してえん罪を晴らすチャンスが巡ってきます。


 しかし、『早すぎる謁見許可』は、やはりカイアンの罠なのでしょうか。


 さらに今回、海斗は仲間たちに自分の出自を明かしました。


 異世界に帰るのか、この世界に残るのか──


 海斗の葛藤は、仲間たちとの関係にも静かに波紋を広げていきます。

 次回もお付き合いいただければ嬉しいです

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