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異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件  作者: 阿部 祐士
第五章 魔法研究家・アンジェリカ

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刻印が語る真実――海斗が信じていたかったもの

「海斗、ちょっと待って下さい」

 エリザベスは、二人の会話に割りこんできた。

「何だ、エリザベス。ひょっとして、コイツをかばう気か!」

 激高している海斗は、アンジェリカをかばう者が誰であろうとも許せなかった。

「少し落ち着いて下さい!」

 エリザベスは自分自身も深呼吸をすると、続けた。

「彼女のオーラを見る限り、嘘は言っていないように見えます……」

 海斗は

「だからと言って、アンジェリカが俺を騙そうとはしていない証拠にはならない!」

と憤慨しながら言った。

「そうです、そこでです。私は、共同開発した魔法の副作用については何もできませんが、記憶を封印した魔法なら解除できるかもしれません……」

 海斗は少し落ち着いた様子で尋ねた。

「それは本当か?」

「はい、勿論魔法をかけた術者とのレベルの違いにもよりますが、やってみる価値はあると思います。それと補足ですが、ある程度のレベルに達した術者なら姿を自在に偽ることは可能です。年齢の変化くらいなら、そう難しいことではない筈です。」

「そうよ、化けることなんて私でもできるわ! それに彼女らの記憶を取り戻したら、この魔法をかけた者の名前が明らかになるかもしれないわ!」

とアンジェリカは自分が思いついたかのように、少しはしゃぎながら言った。

「お前は黙っていろ!」

 海斗は一喝した。

「わかった、やってみてくれ。俺も真実を知りたい」

「……わかりました」

 エリザベスは、先程ささやいていた巫女のところまで行くと、彼女の頭に杖をかざし、

「全知全能なる神よ、邪悪なる呪術から敬虔なる者の魂を解き放ちたまえ、スペルブレイク!」と詠唱した。

 すると、その巫女は涙を流しながら、壁に向かって「カイアン、あなたの言うとおりにしてきたじゃない、……どうして? お、お願い、許して。私が帰らなかったら、親を亡くした弟や妹が……」とつぶやいた。

「!」

 海斗は、目を見開き、言葉を失った。

 そして、エリザベスはさらに巫女にかけられた魔法を次々に解除していった。

「カイアン、剣なんか、かざして何をしているの? ……嫌ぁ!」

「カイアン、お願いだから、他の巫女にしたように刻印を打たないで。私は雪の月初めには巫女をやめて、幼馴染みと結婚を……」

 そして、その中に海斗にとって聞き捨てならない言葉を吐いた巫女がいた。

「私、知っているんだから。カイアン、あなたがその魔法を増幅する剣を使って、他の巫女に刻印をしていることを。私に同じようなことをしようとしたら、教会の上層部に言いつけてやるんだから。そうよ、取引をしましょう、取引を……」

 魔法を増幅する剣? 海斗はほんの数日前同じような言葉を聞いていた。


「カイル君、いいですか。この剣はヒーラーや魔法使いの杖同様、魔法を増幅する能力がある剣です」


 海斗は右手で握っている、カイアンから借りた剣を改めてじっと見つめた。果たして、これが巫女の言う魔法を増幅する剣なのだろうか? 海斗は半信半疑の気持ちだった。

 エリザベスも海斗の剣のことを思い出したようで、

「海斗さん、試しに巫女の方に向けて、その剣をかざしてもらえませんか?」とお願いをしてきた。

「……わかった」

 海斗は、最初に記憶封印の魔法を解いた巫女のところまで行くと、彼女の頭上付近に剣をかざした。すると、まるで共鳴するかのように、巫女たち全員の刻印は輝き始め、剣にも刻印と同様の紋章が現れた。

「こ、これは!?」

 かざした剣から微細な振動を感じた瞬間、巫女たちの悪夢の断片が海斗の無意識へ深く突き刺さり、彼の精神を徐々に蝕んでいく。それはまさしく苦痛と絶望の記憶の断片だった。

 ……やがて、剣を持つ海斗の手が大きく震えた。それは信じていたものが音もなく崩れていく――そんな悲しみと苦しみを表していた。先程まで激高していた海斗は完全に沈黙した。

 その様子を見てアンジェリカは、

「ど、どう? 黙り込んじゃって。これでも私の言うことを信じないつもり? ……私が魔法の開発に関与しなくなってから、その剣を使って魔法をかけていたみたいね。カイアンは、杖を使うのがあまり得意ではなかったから……。いずれにせよ、私の発言が正しかったことは証明されたわ!」

と勝ち誇った様子で言った。

「それにしてもひどい……」

と、レイナがつぶやいた。

「ダーリンを助けてくれた奴の悪口はあまり言いたかないけどさ、それにしても趣味悪いな、カイアンってやつ」

「私も一歩間違っていたら、同じ目に……」

 エリザベスは涙を目に溜めながら、体を震わせていた。結衣の顔色は真っ青になっていて、体の力が一切抜けたかのように膝をついた。

「う、嘘よ、こんなの……」

 巫女たちの様子が映る結衣の目にも涙がたまっていた。

 海斗たちの周囲には、どんな言葉でも表現できないような、重い空気が淀んだ。 


 記憶を取り戻しても、巫女たちの瞳は虚ろなままだった。彼女たちの魂はすでに取り返しがつかないほど深い闇に閉ざされていて、もはや生きた蝋人形だった。結局、この呪われた悪夢から目覚めた者は一人もいなかった……。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 ついに、カイアンの所業の一端が明らかになりました。

 アンジェリカの言葉は――どうやら真実だったようです。


 では、なぜカイアンは海斗を助けたのか。

 かつて勇者だった彼は、どうしてここまで変わってしまったのか。


 その答えは次章で明らかになりますが、その前にアンジェリカ編は『少し肩の力を抜いた二話』で終わりとなります。


 ここまで重い展開が続いたので、一息ついていただければ、と思います。


 これからもお付き合いいただければ嬉しいです。

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