封じられた真実――審問の残滓と白い衝撃
海斗達は、その不気味な修道院らしき建物の入り口の前まで来た。
「オイラが見せたいのは、ここの中だよ!」
ローレンシア教の建物らしいこともあって、海斗は、
「ここからは、いつ敵に遭遇するかわからない。各自武器を持って、いつでも反撃できるように準備をしてくれ」
と指示を出して、自らも剣を鞘から抜いて中段の構えをとった。
無言で頷いたアリシアが入り口の扉を開けると、海斗がすばやく建物の中に入り、辺りを窺う。中は聖堂のようで、やはりこの建物は修道院のようだ。海斗は中段の構えのまま、聖堂の真ん中辺りまで進む。採光のための窓ガラスは割れていて、すきま風が入り込むたびに、冷気が頬を撫で質素なベンチの埃がわずかに舞う。どこかでかすかな鳴き声が響き、次の瞬間、ネズミが聖堂内を素早く横切った。どうやら一年以上人の手は入っていないようだ。この聖堂は、まるで外界を拒むかのような静寂と薄闇に覆われ、その気配は侵入者の心に言いようのない不安を落としていく――海斗は、この場所に誰も立ち入らない理由がわかったような気がした。
人の気配はないと判断した海斗は、そこで初めて仲間達を聖堂内に引き入れた。
聖堂の奥までいくと、祭壇に飾られた埃まみれの聖像と、虫に食われた聖書が置かれた講壇があった。やはり、この聖堂は長い間使われていないようだ。
そして、暗がりの中、右手に扉がぼんやりと浮かび上がってきた。先程と同様に、アリシアが開けて、海斗が扉の向こうへと出た。
そこは四角い中庭を囲むように通っている回廊であった。しかし、その中庭は雑草が隙間がないほど生い茂り、回廊の屋根を支えている柱には蔦がびっしりと絡まっている。海斗は、回廊に仲間を引き入れた。
回廊の奥には扉があり、やはりアリシアが開け、剣を構えた海斗が中に入る。扉を開いた途端、強烈なカビ臭が鼻をつく。重いよどんだ空気が漂い、この部屋に足を踏み入れた途端、息をすることさえためらわれた。すると、無断で使い魔が室内に入ってきて、
「いわゆる、集会室ってやつだね」と言うなり、
「悪いけど、そこの絨毯どかしてくれるかな?」
と指示をしてきた。後から集会室に入ってきたアリシアは
「どうにも人使いの荒い猫だな」と嫌味を言った。
海斗たちが絨毯をどけると、床に、蓋がしてある正方形の穴があった。その蓋をどけてみると、地下へと通じる階段があった。
エリザベスがライトの魔法を詠唱して光球を作り、海斗を先頭に注意深く狭い階段を降りていく。階段の先には、真っ暗で光球がなければ何も見えないであろう、湿気の強い部屋があった。光球が移動すると、壁にはえんじ色のシミが不規則に飛び散り、その下にはまるで展示品のように並べられている鞭、手枷、足枷、首輪が照らされる。管理をしていた者の几帳面さが窺い知れて、逆にそれが海斗には不気味に思えた。
さらにその床には三角木馬や、内部に鉄製の棘が生えた人型の大きな箱が置かれていた。
「いわゆる拷問部屋ってやつだね。異端審問を受けた者たちを自白させるために使われるんだよ!」
と、使い魔は明るい調子で説明をしてきた。
もし賞金首で捕まったら、こんなところで拷問を受けるのかと思うと、海斗は冷や汗と共に身震いをした。
「今度は奥にある扉を開けてくれるかな?」と、使い魔。
アリシアは使い魔に指示されて動くことに抵抗を感じているようだった。が、海斗に促されて、仕方なく扉を開けた。
海斗が剣を中段に構えながら扉の向こうへと入る。
すると、魔法によってか、入った大きな部屋の中は不気味なほど白く明るく照らされていた。暗闇に順応していた海斗の目が、徐々に明るさに慣れてくると――その大部屋には大勢の巫女姿の女性達がいて、皆一様に目はうつろで、全員見慣れない文字がおでこに刻印されていた。座り込んだり、大の字に寝転んで微動だにしない者がいるかと思えば、立って壁に爪でひっかきながら、言葉とも、うなり声ともわからない声を発する者もいる。それは『芋虫が有象無象、箱の中で蠢いている』という表現がぴったりくる光景であった。
すると、その中の一人が壁に向かって涙を溜めて「助けて……」とつぶやいた。
「一体これは……」
海斗の脳裏は、衝撃で真っ白になった。言葉を失い、ただただ呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
放置され続けていた修道院の奥で、海斗たちが目にしたものは、
何者かによって封じられた『過去の残滓』でした。
埃が積もった聖堂。
異端審問の痕跡を残す地下室。
そして――白い光に照らされた、あの巫女たち。
彼女たちに刻まれた文字は何を意味するのか。
この修道院で、一体何が行われていたのか。
海斗たちは、まだその入口に立ったばかりです。
次回もよろしくお願いします。




